知能化システム

複数センサーの時系列データ間の時間のずれを自動で補正するAIの開発
-インフラ設備や製造装置に変化が起きた時刻を従来の10分の1以下の誤差で把握、異常予知・検知や動作解析の高精度化に貢献-

2020年06月02日
株式会社東芝

当社は、インフラ設備や製造装置の異常予知・検知や動作解析の精度を向上するAI技術「Lag-aware Multivariate Time-series Segmentation (以下、略称としてLAMTSSとする)」(注1)を開発しました。設備や装置に取り付けられた複数のセンサーから得られる複数の時系列データセットにおいて、データ間に生じる時間のずれを自動補正する技術で、異常発生等、データに変化が起きた時刻を従来方式に比べて10分の1以下の誤差で検出できることを確認しました(注2)
これまで時間のずれの補正は人手で対応する必要がありましたが、本技術により、大規模インフラシステム等、多数のセンサーが組み込まれている場合においても、複数のデータ間の時間のずれを補正することができ、今後、リアルタイムでの異常予知・検知に加え、異常の根本原因の特定や、動作解析への適用により生産性の向上への貢献が期待できます。
本技術は、AI・データマイニング分野の難関国際会議SIAM International Conference on Data Mining (SDM) 2020(注3)で採択されました。

IoT技術の普及に伴い、インフラ設備や製造装置に取り付けた複数のセンサーにより刻々と変化する多変量時系列データを大量に収集することが可能となりつつあります。時系列データを用いた異常予知・検知は、通常は起こり得ないようなデータ点を検知する「外れ値検知」、異常が起きている部分時系列を検出する「異常状態検出」、時系列データのパターンが急激に変化する箇所を検知する「変化点検知」の3つの手法があります。異常状態検出と変化点検出は時間的な変化を含んでいるため扱いが難しいといった課題がありますが、検知精度の向上には不可欠であり、近年時間的変化の要素を取り入れた解析が注目されています。LAMTSSは変化点検知に着目した技術であり、精度が求められる設備や機器の異常予知・検知や機器の動作パターンの抽出が可能となります。

変化点検知においては、複数センサーの時系列データ間に時間のずれが生じることが課題となります。例えば、インフラ設備における圧力制御や速度制御等では、計測・制御の結果がセンサーデータに反映されるまでに一定の時間がかかるため、データ間の振る舞いに時間遅延が生じます。また、発電プラントや工場などでは、数千にも及ぶセンサーをプラントの主要部分に配置して、センサーの値を監視しながら、保守や管理業務を行っています。万が一、プラントのある箇所で異常が発生した場合、センサー値を元にどの時間に何が発生したのかを把握する等の原因究明を行いますが、各センサーの検出時刻は、数千にも及ぶセンサー間で同期を取っておらず、時間のずれが発生しているため、原因究明や対策立案を困難にするケースがあります。更には、製造現場における作業員の生産性改善等に利用されるモーションキャプチャでも、たとえば右手と左手の動作が完全には同期していないため同様にセンサーデータ間に遅延が生じる可能性があります。データ間に時間のずれが生じると、設備や機器に変化が起きた正確な時刻を把握できず、異常のタイミングを正しくつかむことが困難なため、複数センサーのデータ間に生じる時間遅延の影響を予め織り込んだ変化点検知技術の開発が望まれていました。
そこで当社は、多変量時系列データから、複数の時系列データの間に生じる時間遅延を織り込んだ上で、設備や機器の変化時刻を検出することが可能なLAMTSSを開発しました(図1)。LAMTSSでは、動的計画法(注4)に基づく動的時間伸縮法(注5)により、ところどころ発生する微小な波形のピークのずれを自動で合わせ込むことで時間ずれを自動補正し、課題を解決します。これにより、人工データを用いた性能評価では、従来技術(注6)と比較して10分1の以下の誤差で変化点を正確に検出することが可能になりました。

図1:LAMTSSの概要

本技術により、計測・制御等に伴う時間遅延を加味することで設備の異常状態をより正確にとらえることが可能となり、特に、インフラ・製造分野において、異常発生等によるシステムの停止時間の削減等に貢献できると考えられます。

CPSテクノロジー企業を目指す当社はこれまでも、IoT技術の進歩に伴い、様々なセンサーから大量に集めることが可能になった時系列波形データを活用して、製造現場やインフラ分野に特有の問題を解決する様々なAIの研究開発を推進してきました(注7)
今後は、LAMTSSの精度をより高め、様々な時系列データに対する有効性を確認するとともに、インフラ・製造分野等の異常検知技術への展開を目指します。

(注1)Shigeru Maya et al., Lag-Aware Multivariate Time-Series Segmentation, SIAM International Conference on Data Mining (SDM20), pp. 622-630, 2020/5. https://epubs.siam.org/doi/pdf/10.1137/1.9781611976236.70

(注2)当社調べ。

(注3)Society for Industrial and Applied Mathematics (SIAM) International Conference on Data Mining (SDM)
https://www.siam.org/conferences/cm/conference/sdm20

(注4)解きたい問題を、よりサイズの小さな等価な問題に分解することによって計算時間を削減する最適化手法のこと。

(注5)時系列データを部分的に伸縮させる既存技術。

(注6)Toeplitz Inverse Covariance-Based Clustering of Multivariate Time Series Data(Halloc et al., ACM SIGKDD KDD2018)。

(注7)https://www.toshiba.co.jp/about/press/2018_12/pr_j1301.htm
https://www.toshiba.co.jp/about/press/2018_12/pr_j1201.htm