IIFESで見た産業用コンピュータ

2年に一度のオートメーションと計測の先端技術総合展「IIFES 2019」が、2019年11月27日(水)~29日(金)に開催。過去最多の来場者を集めた中でひときわ注目を集めた分野が、工場の生産性向上に向けたAI・IoT関連の提案だ。

「変わる 応える ものづくり ~止まらない工場を目指して~」をテーマとした東芝グループのブースでは、生産現場の大小さまざまな課題を解消し、止まらない工場を実現するためのデバイスやソリューションが集合し、AI・IoT時代の変わる環境の中で盛況となっていた。今回はその基盤として、AI・IoT導入の成否のカギを握ると言っても過言ではない、産業用コンピュータの展示ブースを訪問。

IIFES 2019

自社工場のノウハウから生まれた歴史を持つ東芝産業用コンピュータは、信頼性と実用性が高く評価されてきた。今回のブースでも、現場のニーズに即応できる産業用コンピュータの展示は、熱心に質問や相談をする来場者の姿が目立った。

東芝グループの産業用コンピュータ

工場現場では「システムを止められない」「ハードウェア更新時のシステム変更を減らしたい」「ホコリの多い悪環境」など、オフィスのパソコンと比べ、劣悪な環境下でも運用できる品質が求められる。東芝産業用コンピュータは、こうした現場の要望を満たす製品として定評を得てきたのだ。放送・通信機器や、上下水道、電力といった社会インフラシステム、製鉄所、石油・化学プラントなどの産業オートメーション、また各種の組込み装置など、社会の幅広い場面で使用されており、そこでの知見は開発やサービスに、常にフィードバックされる。

特長としては、頑健性と耐環境性、メンテナンス容易性、長期供給・長期保守という点が挙げられる。

生産現場に求められる頑健性と耐環境性を確保するために、設計段階から基板・筐体の各種解析やシミュレーションを重ね、高品質を追究。また東芝独自の設計基準として、保証温度よりも広い温度範囲で製品の認定試験を行うなど、マージンを広く取って多様な環境での運用を考慮している。

ハードウェアのメンテナンスを容易にする工夫としては、RAS(Reliability Availability Serviceability)機能による自己診断を導入。異常を早期発見し、迅速な復旧を可能にしている。例えば、内部温度の上昇を早期に検出すれば、現場を確認することで、ファンの異常や寿命に気付く。また、ファンやストレージなどの寿命品の交換も、本体前面から取り替えできる設計になっているのもうれしいところ。

また、現場のインフラとして、産業用コンピュータは長期間の稼働が前提。東芝産業用コンピュータは長期供給・長期保守に務め、ハードウェアのモデル変更による頻繁な動作確認を減らし、維持コストを抑制している。同一モデルの供給期間と保守期間を合わせ、最長15年にわたり同一モデルを使用し続けることが可能。また機種のシリーズごとに本体サイズの互換性を維持しており、リプレイスの際に置き換えしやすくしている。

IIFES 2019

サイバー・フィジカルの時代に向けて

東芝グループは、これからの20年でAI、デジタルツイン、量子計算、セキュリティといった「サイバー」と、ロボティクス、自動走行、バイオ、センシング、ワイヤレス、材料などの「フィジカル」が融合した「サイバー・フィジカル」技術の時代の到来を予測。発電所などのエネルギー分野や、ビルシステムや鉄道などの社会インフラの分野で技術やノウハウを培ってきた東芝グループは、そこで得たフィジカル領域での知見と、高度なAI・IoT技術といったサイバー領域の蓄積を生かしながら、次世代の工場を実現させていくことが期待できる。

現時点での現場のAI・IoT活用は、工場内の各種センサー等のデータを分析し、設備診断やリモート保守などを行う段階といえる。今後を考えると、Industry4.0で描かれているような、自動制御を行う無人の「止まらない工場」が実現するだろう。長年にわたり、人を介さずともシステムが自動的に判断し、適切な設備でもって製品を生産・製造する「スマート工場」に向けて技術開発を続けてきた企業が東芝グループであり、IoT化の波の中で蓄積がいっそう注目されている。

IoT導入の課題として、どの現場でも共通しているのが、現場のフィールド機器(エッジ)から収集したデータ量が膨大になるということ。通信設備やクラウドシステムでの処理に多大な負荷がかり、重要なデータを工場外に送ることから、セキュリティ面も懸念されている。

その解決策の1つが、エッジコンピューティング。クラウドシステム上ですべてのデータを処理するのではなく、工場内のエッジ側である程度の情報処理を完結させることで、負荷とリスクを抑制することができる。工場内で絶えず生み出されるデータをエッジでしっかりと処理するためにも、信頼性と性能に定評のある東芝の産業用コンピュータの活躍に期待が高まる。

IIFES 2019

小型ファンレス「CP30」誕生でニーズに応えるラインアップ拡充

産業用コンピュータの導入や更新の際には、システムの規模や求められる処理性能、現場の状況によっても、必要な製品は異なってくる。東芝産業用コンピュータについてはどうでしょうか。ラインアップをチェックすると、産業用サーバ、デスクトップ型産業コンピュータ、ラックマウント型産業コンピュータ、スリム型産業コンピュータと、多様な現場で導入できるモデルが揃っている。

これらはいずれも頑健性と耐環境性にすぐれ、メンテナンスが容易で、長期供給・長期保守を受けられる高性能な産業用コンピュータだ。クラウド接続認証(Microsoft Azure Certified)の取得にも取り組み、エッジソリューションへの接続性にも目を向けている。また、社内外のパートナーとの連携よるソリューション展開にも取り組み、IoT時代に合った選択肢といえる。

イベント会場では、期間中に発表された1台の小型組込み産業用コンピュータが、多くの人の関心を集めていた。「CP30 model 300」がその機種である。114(W)×164(H)×174(D)という小型筐体にECC機能付きメモリに対応した低電力マルチコアCPUを搭載し、信頼性を確保しながら幅広い組込み用途に活用できるモデルになっている。

このサイズでありながら自然空冷(ファンレス)を実現しているのも目を引き、さらに供給電源をDC電源またはAC電源から選べるので、どちらの環境でも設置ができる。もちろん、メンテナンスの容易性を確保し、長期供給・長期保守にも対応している。例えば、ビルオートメーションシステムでは、機械室や天井裏の狭いスペースにも設置しやすく、その過酷な環境下でも安定して稼働することが可能だ。

IIFES 2019

現場の古い設備の中に導入するにも「CP30 model 300」を選ぶメリットがあるという。RS232C等のレガシーインタフェースを標準装備し、拡張スロットに現場設備に合わせたインタフェースカードを挿入することも可能だ。従来設備でスペースが不足していた現場でも、小型の「CP30 model 300」なら、ジャストフィットするかもしれない。

他にも「CP30 model 300」には本体にバックアップバッテリが搭載可能となっている。停電発生時などでもバックアップ駆動に切り替え、コンピュータを正常にシャットダウンさせることができる。多大なコストをかけて現場ごとにUPS(補助電源装置)を導入する必要がなくなるのは、ユーザーにとってうれしいことだ。

「CP30 model 300」は12月末の発売を予定している。現場のニーズに合わせた選択肢の幅が一層広がるだけに、東芝産業コンピュータに各業界から熱い視線が集まるだろう。

記:黒木 陽介(株式会社 ハッピージャパン)