製造業とは、調達した原材料や部品を加工して、食品や機械などの製品として提供する業種です。製品の生産・提供に関わるあらゆるモノの移動が製造業の物流です。製造業の物流は、「調達物流」「生産物流」「販売物流」「静脈物流」の4つの物流に分類できます。
調達物流
調達物流とは
調達物流は、部品や資材など、原材料の調達に関わる物流のことを指します。製品は多様な原材料や部品を組み合わせて作られるため、それらを適切なタイミングで調達することが重要です。しかし、原材料の不足や納期の遅れによって、必要な時期に必要な原材料・部品が手に入らず、生産に影響が出てしまうことがあります。そのため、製造業者はサプライヤーと密に連携し、最新の供給状況と納期を調整する必要があります。一方で、調達した物量が多すぎると、過剰生産による在庫過多や保管スペースの問題が発生します。したがって、調達における物流では、現状の在庫数と決められた納期に合わせて必要な数量の原材料を発注することが求められます。発注後は、購入した原材料を保管・仕分けし、生産ラインに適切に供給します。
多くの種類の原材料・部品を在庫管理するのが大変
製造業の調達物流における原材料・部品は、製品によっては取り扱いに注意が必要な場合や、非常に種類が多い場合があります。例えば、食品製造業の工場では、厳しい温湿度管理や消費期限の管理が必要です。半導体を扱う現場では、防塵対策が必要となります。また、危険物を取り扱う可能性もあります。機械や自動車を製造する工場では、多くの似ている部品を扱うこともあります。このように、製造業界の在庫管理はモノによって様々な管理上の難しさがあり、保管やピッキングでの原材料の破損やヒューマンエラーのリスクを減らすため、管理コストが発生することが課題となっています。
また、原材料・部品を製造拠点ごとに分散して在庫する場合、複数のWMSを同時に管理しなければいけない複雑さが問題となっています。
自動化とデータ化で
在庫管理を効率化
近年では、特別な管理が必要な原材料・部品も自動倉庫で保管し、入出庫を自動化することができるようになってきています。自動倉庫は温度や湿度を調節できるほか、防塵、防錆、防虫などの対策が可能です。また、棚搬送ロボットシステムのピッキングと棚卸では、ヒューマンエラーを防止することができます。例えば、誤ったピッキングによる在庫ずれや、消費期限の管理ミスを防ぐことができます。分散在庫の複数のWMSは、WESで束ねて一括管理することが可能になってきています。
このように、自動化・データ化によって在庫管理の効率化・簡易化が進められています。
生産物流
生産物流とは
生産物流は、調達した原材料が生産ラインに入ったあとのモノの移動と保管を指します。生産ラインには組立や検査など様々な製造工程があり、それぞれの工程ごとに作業場が分かれていることもあるため、1つの作業が終わると次の作業場所へモノの移動が発生します。搬送に遅れが出ると、製造作業が効率よく進まず、作りかけの製品の在庫の滞留や完成の遅れが発生してしまうため、生産物流は製造業者にとって重要な作業の一つです。搬送作業は、フォークリフトで行われることもあれば、現場で組立や検査を行っている作業者が手で箱を持って運ぶ場合や、台車やハンドリフターで搬送する場合もあります。
工程間搬送に割かれる人手が多い
生産のラインはなるべく無駄な移動が少なくなるようレイアウト設計で工夫されていますが、それでも複数の製造工程がある場合、工程間のモノの移動を0にすることは難しいと言えます。このように、製造工場では、人手不足にもかかわらずモノをA地点からB地点へ移動するだけの単純な搬送作業で人手が割かれてしまうという問題があります。特にフォークリフトオペレーターが不足している現場では、構内の運搬作業を効率化しなければフォークリフト台数が足りず製造工程に遅れが出てしまったり、作業時間の少なさから品質の低下が発生してしまう懸念があります。また、半導体や食品、精密機器を取り扱う現場はクリーンルームになっている場合が多く、フォークリフトを使えないため、人手で重い部品を搬送しなければならないという課題があります。
搬送の自動化により
搬送作業に割かれる人手を抑制
製造工程のモノの移動にかかる人手を減らすには、工程間搬送の自動化が一つの解決策となります。例えば、生産ラインのモノの移動をコンベアで自動化することで、人は搬送作業をする必要がなくなり、その場を動かずに製造作業に集中することができます。搬送距離が非常に長い場合や、搬送ルートが複雑な場合は、コンベアではなくロボットによる自動化も有効と考えられます。搬送ロボットであるAGVやAMRは、重い部品も人手をかけずに搬送することができます。また、フォークリフトと比較して塵や埃が舞わないような走行が可能なため、クリーンルームでも導入することができます。このように、コンベアや搬送ロボットが工程間の搬送を自動化することで、作業者は製造作業に集中することができ、製造の遅れや品質の低下を防ぐことができます。
販売物流
販売物流とは
販売物流とは、製品が生産工場から消費者に届くまでの物流のことを指します。製造業者から出荷された製品は、卸売業社や小売業者など物流センターを介して消費者に渡ります。このモノの移動が販売物流です。
販売物流では、生産ラインで完成した製品を納期に間に合うよう顧客へ出荷・輸送します。出荷に際しては、必要に応じて製品を倉庫に入庫・保管し、注文が入った段階で必要数をピッキング・仕分けします。製品を効率的に輸送先に届けるためには、納品先である卸売業社・小売業者や、輸送業者との協力が必要です。また、製造業者から出荷された製品が次の業者の物流センターや消費者へ移動する際の物流において、製造業者は製品を発送する荷主として、次のような課題を抱えています。
2024年問題:納品リードタイムの長期化、輸送コスト上昇、荷主勧告
2024年4月から適用された働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働に年間960時間という上限が設けられました。この上限規制によって生じる様々な問題は2024年問題と呼ばれ、製造業者にとっては、以下のような問題が発生しています。
まず、納品リードタイムの長期化や物流コスト上昇という問題があります。法改正でドライバーの輸送できる時間が減少すると、納期遅延が発生する可能性が生じます。したがって、従来より長めのリードタイムを設定する必要があります。また、ドライバーの働き方改革で適正運賃が見直されることにより、輸送コストが増加します。こうした納品リードタイムの長期化や輸送コスト上昇に対し、製造業社は、納期順守とコスト抑制に向けた対策を求められています。
さらに、ドライバーの長時間労働が荷主に起因する場合、国土交通省から荷主に対して再発防止の勧告が行われるようになりました。製造業者は、製品を発送する荷主として、輸送業者に対し、違反行為防止のための措置をとらねばなりません。例えば、ドライバーの長時間労働を防止するため、無理のないトラック到着時間の設定やドライバーの荷待ち時間削減に努める必要があります。
取引先との協力、物流のデータ化や自動化により、
2024年問題に対応
こうした2024年問題に対応するため、製造業者はいくつかの対策を取る必要があります。
まず、納品リードタイムの長期化に対しては、生産工程の見直しや調達の効率化など、自社内でリードタイム短縮に向けた取り組みを行うことが求められています。また、出荷先からあらかじめ余裕のあるリードタイムで発注をもらうなど、取引先に協力を要請することも解決策の一つです。
輸送コストの上昇に対しては、WMS、WES、TMSを活用した在庫管理や配車管理のデータ化が有効です。WMSやWESで需給予測し、効率的な出荷の量・時間をコントロールすることで、共同配送など輸送の効率化につなげることができます。また、TMSで輸送トラックの居場所や走行時間の情報をリアルタイムで見える化し、データを蓄積・分析することにより、最適な人数・ルートの配送を実現し、ドライバーの労働時間やトラック燃料費といった輸送コストを抑えることができます。
トラックドライバーの荷待ち時間削減に対しては、自動化機器の導入による出庫作業の効率化が一つの解決策となります。荷主である製造業者は、出荷場所に到着した集荷トラックに対し、すぐに製品を積み込めるよう、出荷準備を整える必要があります。そのためには、出庫作業や梱包作業を出荷時間に遅れないよう実施しなければなりません。そこで、自動倉庫やピッキング自動化システムの導入で計画的な作業を行うことで、出荷時間遅延を防ぎ、輸送業者の荷待ち時間削減に繋げることができます。
静脈物流
静脈物流とは
静脈物流とは、製品が消費者から製造業者・流通業者に戻る際に発生するモノの流れのことです。静脈物流には、返品物流、回収物流、廃棄物流、リサイクル物流といった種類があります。
返品物流は、故障品や不良品を消費者から製造業者に返品する際の物流を指します。返品は消費者主体で行われるため、発生する時期や量の予測がしづらく、まとまった単位ではなくバラバラと不規則な単位で返品の受付をしなければならないことが特徴です。
回収物流は、商品不具合によるリコールなど、製造業者が主体で消費者から商品を回収する際に発生するモノの移動を意味します。返品物流と異なり、あらかじめ製造業者が計画した回収作業を大規模に実施することが特徴です。
廃棄物流は、使用済み製品や不要になった製品のうち、リサイクルできないものを適切な処理施設で処理するために発生するモノの移動を指します。廃棄物とは、一般家庭から出る一般廃棄物と、事業活動に伴って生じた産業廃棄物とに分類されます。これらは環境保護法や廃棄物処理法などの法令に則って処理されるため、決められたタイミングで決められた業者が廃棄物の回収作業を行います。
リサイクル物流は、使用済み製品や不要になった製品のうち、再資源化できるものを消費者から回収し、適切な処理施設へ移動する際のモノの移動をさします。近年では、原材料不足やSDGsの観点から、原材料のリサイクル目的で製造業者が不用品の回収を積極的に行うことがあります。
中でも返品物流は製造業者が計画を立てて実行することが難しいため、製造業者にとって多くの課題があります。
突発的な返品対応
製造業者にとって、製品の返品対応は予告なく発生します。計画されていたその他の業務に対し、返品された製品の受け入れ・再入庫・保管・修理・梱包・仕分け・輸送といった作業が割り込んでくるため、適切な体制が整っていなければ、生産・販売業務が滞ってしまう可能性があります。
返品された製品に対しては、廃棄するのか、保管場所に再入庫するのか、保管場所に再入庫する場合はどの場所に再入庫するかを仕分ける作業が必要です。また、返品された製品の数や品目のデータを在庫管理システムに登録できる仕組みが整っていなければ、倉庫内にある製品の数とデータ上の数値が一致しない情物不一致の状態となり、在庫管理に混乱が生じます。
このように、返品対応は煩雑で、調達・生産・販売物流の現場に混乱を招く恐れがあります。
データ化、自動化、他業者との協力による
返品プロセスの見直し
生産・販売業務が滞らないよう返品業務に対応するには、あらかじめ返品対応が発生することを想定した作業設計をすることが重要です。例えば、返品対応マニュアルを事前に用意する、返品対応専用のスペースと作業者を確保する、設備投資にあたって返品による仕分けや再入庫に対応できる設備を選択する、などの工夫が可能です。
さらに、返品対応のプロセスをデータ化・自動化で効率化することも重要です。例えば、在庫管理システムに加えて、自動倉庫、AGVのピッキングシステム、ソーター等を導入することで、返品された製品の保管や仕分け作業を自動化し、ヒューマンエラーや情物不一致を防止することができます。
また、返品対応を含めた物流全般のノウハウを持つ物流業者に返品対応を依頼することも、一つの解決策になります。
このように、データ化や自動化システムの活用、他業者との協力によって、返品対応の効率化が進められています。
参考文献:
国土交通省「新たな荷主勧告制度の運用について(リーフレット)」
厚生労働省労働基準局労働条件政策課、国土交通省自動車局貨物課、公益社団法人全日本トラック協会(2018)「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」