シンプルな時代の人事処遇制度とは


2020.1.20

HR-i コンサルティング
代表 シニア・コンサルタント 伊藤 晃

時代はシンプル志向

人事評価や処遇では公正さ、透明性、納得性が重要です。そのため成果主義のように評価・処遇の根幹となる考え方を明確にし、評価項目、手続き、ツールを精緻に組み立てて制度は構築されます。しかしその丁寧さが運用段階では大きな負荷になります。

人事制度改革で「シンプルな制度にしたい」という要望をいただくことがあります。例えば目標管理制度でも上期・下期の目標設定を年1回に変えた企業もあります。評価のフィードバックも年1回~2回の評価面談ではなく、日々のこまめなコミュニケーションで必要なことをすぐフィードバックする方式へ変化してきています。「仕掛けはシンプル、運用はリアルタイム」がこれからの主流と言えます。

処遇制度シンプル化の視点

では人事処遇制度をシンプルにする場合、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。大別すれば人事評価のシンプル化と報酬配分ルールのシンプル化があります。

(1)人事評価のシンプル化
① 評価体系
評価の対象となる要素は成果(貢献)・行動・能力(コンピテンシー)・姿勢などです。行動や能力の評価要素は20項目以上の企業もあり大きな負荷となっています。処遇につなげる要素は成果(貢献)=目標や課題の達成度を軸とし、その他の要素を思い切って簡素にする方向が考えられます。

② 目標設定
「目標を握る」という言い方がありますが、期初に上司・部下で目標に合意したら(握ったら)、結果で評価が確定し言い訳無用ということですね。売上や利益が目標なら結果は数値でつかめ評価事実を洗い出す手間も不要となります。形式的な数値化には留意が必要ですが、定性的な職務でも任務と達成基準をできるだけ明快にする工夫が求められます。

③ 評価手続き
本人評価、一次、二次評価、総合評価会議…という評価手続きも要検討事項です。評価権限の委譲、評価シートの内容・記入方法や面談記録の簡素化等、一考の余地はあるでしょう。

(2)報酬配分ルールのシンプル化
① 報酬体系
処遇には報酬・地位・名誉の3つがあります。報酬でも給与・賞与、勤続年数や各種の貢献に対する報奨金等、いくつかの反映方法がありますが、多様な貢献に報いたい、と考え過ぎると報酬体系が複雑になります。すべての処遇策を書き出し目的と効果を検証し分かりやすい体系を目指しましょう。

② 報酬計算
各人の評価点(ポイント)を合計し、報酬原資を評価点で割り1ポイント当たりの単価を出し、評価点を掛けて支給額を計算するポイント制は賞与評価で広く導入されています。賞与原資枠を守る狙いがありますが、1ポイント当たりの単価が分かれば自分で報酬が計算できる点が重要です。人事評価のシンプル化とも絡みますが、会社業績⇒個人業績⇒報酬の連動制を高め、報酬計算の透明性を高めることも検討に値する着眼点です。

シンプルさへの向き合い方

シンプルな時代の人事処遇制度は、業績連動を徹底して評価の対象を成果・貢献に絞り、企業が査定する流れになるでしょう。その代わり各人のキャリアや成長(人材育成)は各人別に丁寧に行い、かつ企業側の査定の公正さをけん制する仕掛けを用意します(360度評価や第三者の検証等)。実務的にはICTやAI等の情報技術の進化と活用も前提となるでしょう。

SNSで思ったことを即座に発信・交流するのが当たり前となり、精緻さよりも単純さ、熟考より即断が好まれる社会になってきました。企業の意思決定もスピードが重要と言われます。しかし、真のシンプルさとは「本質をとらえると物事はシンプルになる」ことであり、「大切なことを見極めた先にシンプルさがある」という自覚が重要であることを言い添えておきたいと思います。

※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年1月時点のものです。

伊藤 晃(いとう あきら)
HR-iコンサルティング 代表 シニア・コンサルタント。

株式会社日本能率協会コンサルティングにて、業務改革および知恵と活力を高める組織・人材革新コンサルティングを推進。支援業界は自動車、運輸、繊維、製紙、製薬、精密機械、銀行、商社、建設、不動産、生保、IT、電力、ガス、新聞、大学、流通、ホテル、テーマパーク、経済連等 多岐にわたる。
2019年9月定年退職。10月より現職。現在は、人と経営の「意」をサポートする、をモットーに人材マネジメント全般を支援している。主要テーマは、人事・人材開発制度構築、経営幹部育成・登用制度構築、全階層一貫教育の企画・推進、意のある次世代リーダー育成、人材マネジメント全般に関する相談対応および自社流の構想立案・推進支援。


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