コラム

働き方改革と人材育成


2020.1.20

HR-i コンサルティング
代表 シニア・コンサルタント 伊藤 晃

働き方改革の目的

働き方改革は企業の重要な経営課題となっています。過重労働、各種のハラスメントにより社員の心身を害する企業は信頼されません。日本企業の生産性の低さも問題になっています。ムダな会議が多い、意思決定が遅い、手続きが煩雑等、業務の抜本的な改革が必要になっています。さらには深刻な労働力不足があり、育児や介護等の状況でも「働きたい人が働ける」環境づくりも進んでいます。

「多様な人材が働ける環境を作り、健康で安心・安全な働き方を維持し、社員がポテンシャルを発揮して生産性の高い事業・業務を実現させること」が働き方改革の目的と言えます。

働き方改革の人材育成への影響

働き方改革によるもっとも明確な変化は労働時間の短縮でしょう。しかし労働時間が減ったことで仕事が片付かずストレス要因になる場合もあります。サービス残業や家に仕事を持ち帰るなど、かえって忙しくなったと感じている人も存在します。

時短は人材育成にも大きな影響を与えています。働き方改革を推進している企業では「部下・後輩の育成に時間が取れなくなった。」「実力をつけるためにもっと働きたいのにできない。」という声をよく耳にします。このような問題にどう対処していけばいいのでしょうか。

時間制約の中での人材育成

働き方改革による労働時間の短縮を前向きに受け止め、人材育成の生産性を高める学び方の工夫をいくつか紹介しましょう。

(1)キャリア学習
各人が高い意欲を持って学ぶ意識を作ることがまず必要です。そのためには①自身のキャリアを展望する⇒②学びのターゲットを明確にする⇒③学んで振り返り教訓を活かす…というキャリア・ラーニングサイクルを回すことが必要です。「今(の仕事、環境の中で)しか学べないことは?」「将来のために今習得しておくべきことは?」という2つの問いを検討しながら進めてみると良いでしょう。

(2)TPフリー学習
いつでも(Time Free)、どこでも(Place Free)学ぶ工夫が不可欠です。在宅勤務やモバイルワーク、サテライトオフィスなどの環境を人材育成にも活かす必要があります。そのためには「学ぶ事柄を細分化し短時間で学べるよう段取りを整えること」が必要です。OJT(仕事の中での育成)、OFF-JT(研修)に加え、自己啓発=自分学習が重要になっていることを自覚しましょう。

(3)応用学習
経験から学び、教訓を生かすことが学びの基本ですが、学びの質をより高めるには応用学習という発想が重要です。応用とは「獲得した知識・経験を他の仕事や状況にあてはめて活かすこと」を言います。応用学習を身につけると一石二鳥の学びとなり、中期的に生産性が向上します。まずは「この情報、経験、事例、発想…は他の何かに役立つのでは?」といつも考える習慣を作りましょう。

人生100年時代と人材育成

これからの人材育成は「先輩が後輩に教え後継者を作る」だけでは不十分です。人生100年時代では、各人が人生の中で何度か「新たなスキル」を学び直す必要があります。学び続ける社員がいてこそ、企業の持続性も担保されるのです。

そのため企業の人材育成は、社員が自分で自分のキャリアを考え、主体的に学ぶ姿勢・行動を確立する啓発に力を入れています。社員としても、会社が求めるものを学ぶ「受け身の姿勢」からできるだけ早く脱却し、自分の人生のために何をどう学ぶのか、を自分で明確にしていく意志を持つ必要があります。

働き方改革はビジネスパーソン一人ひとりに「自分の人生をいかにすべきか?」という問いを突き付けています。働き方の多様性とは人生の多様性そのものなのです。

※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年1月時点のものです。

伊藤 晃(いとう あきら)
HR-iコンサルティング 代表 シニア・コンサルタント。

株式会社日本能率協会コンサルティングにて、業務改革および知恵と活力を高める組織・人材革新コンサルティングを推進。支援業界は自動車、運輸、繊維、製紙、製薬、精密機械、銀行、商社、建設、不動産、生保、IT、電力、ガス、新聞、大学、流通、ホテル、テーマパーク、経済連等 多岐にわたる。
2019年9月定年退職。10月より現職。現在は、人と経営の「意」をサポートする、をモットーに人材マネジメント全般を支援している。主要テーマは、人事・人材開発制度構築、経営幹部育成・登用制度構築、全階層一貫教育の企画・推進、意のある次世代リーダー育成、人材マネジメント全般に関する相談対応および自社流の構想立案・推進支援。


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