労使協定とは?必要な理由や締結までの流れをわかりやすく解説

労使協定とは、残業や休日出勤などの労働条件を適正に運用するために欠かせない法定手続きです。必要な労使協定を締結・届出せずに制度を運用すると、法令違反や罰則の対象となる場合があります。

本記事では、労使協定の定義を解説した上で、労働協約・就業規則・労働契約との違い、締結・届出・周知までの具体的な流れ、違反時の罰則をわかりやすく紹介しています。自社の労務管理体制を見直す際の参考にしてみてください。

No.8 「労務管理」

労使協定とは?簡単に解説

労使協定とは、使用者と労働側代表の間で取り交わす書面による契約です。労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合が、労働組合がない場合は従業員の過半数が選んだ代表者が、企業と労使協定を結びます。

ここでは、以下の項目について労使協定を解説します。

  •  労使協定が必要な理由
  •  労使協定の主な種類
  •  労使協定と36協定の関係

労使協定が必要な理由

労使協定が必要とされる背景には、労働基準法の原則だけでは対応できない実務上の課題があります。法律は、労働者保護のための最低基準を定めていますが、実際の現場では繁忙期の残業や変則的な勤務体系の導入など基準を超えた働き方をしなければならないこともあります。

その際に、企業が一方的にルールを変更すると、労働者が不利益を被るかもしれません。労使協定を締結することによって、企業と労働者の代表が対等に協議し、双方の合意のもとで法律の例外を認めることができます。

労使協定の主な種類

労使協定には様々な種類があり、企業の実情や導入したい制度に応じて労使協定を締結しましょう。以下は、代表的な労使協定の例です。

  •  1カ月単位の変形労働時間制
  •  1年単位の変形労働時間制
  •  1週間単位の非定型変形労働時間制
  •  任意貯蓄金
  •  賃金控除
  •  フレックスタイム制
  •  一斉休憩の適用除外
  •  事業場外労働
  •  専門業務型裁量労働制
  •  計画年休
  •  代替休暇
  •  時間単位年休
  •  育児休業・時間外免除・短時間勤務の適用除外
  •  介護休業の適用除外
  •  看護休暇・介護休暇の適用除外

上記のように、労使協定を締結すると、柔軟な働き方に対応したり、育児休業の適用除外を設けたり、使用者と労働者の合意の上で労働条件を定められます。

労使協定と36協定の関係

36協定は労使協定の一種であり、両者は独立した別の制度ではありません。

「時間外・休日労働に関する協定届」である36協定を結ぶことは、労働基準法第36条に基づいた使用者と労働者間の合意です。

法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて従業員を働かせる場合や法定休日に出勤させる場合には、36協定の締結が必要です。労使協定を結ばずに法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働を命じた場合は、法令違反となります。

36協定を締結すれば無制限に労働時間を延ばせるわけではなく、月45時間・年360時間といった上限が法律で定められています。

労使協定と似ている言葉の違い

ここでは、労使協定と混同されがちな以下の言葉について解説します。

  •  労働協約
  •  就業規則
  •  労働契約

労使協定と労働協約の違い

労使協定と労働協約は、いずれも労働条件に関する取り決めです。それぞれの違いは、以下のとおりです。

費目 労使協定 労働協約
当事者 使用者と労働組合、
または労働者の過半数代表者
使用者と労働組合
目的 労働基準法の禁止事項の解除
・労働条件の向上・維持
・労使間のルールの設定
適用対象 事業場の全労働者 原則として組合員のみ

労使協定は、労働基準法などが定める要件に従い、法定基準の例外的な取扱いを可能にする手続きとしての側面が強いです。
一方で、労働協約は、賃金や労働時間などの労働条件、団体交渉や組合活動などの労使関係上の事項を定める役割があります。

労使協定と就業規則の違い

労使協定と就業規則は、いずれも労働条件に関わる重要な文書です。それぞれの違いは、以下のとおりです。

費目 労使協定 就業規則
労働者との合意
あり なし
目的 労働基準法の例外を認める
職場の労働条件や服務規律を定める

就業規則には、一定の要件の下で労働契約の内容を補充する効力があります。

就業規則は労働基準法に反する内容を定めることはできません。一方で、労使協定を締結することで、法令が明示的に認める範囲内において、法定基準の例外的な取扱いが可能になります。

労使協定と労働協約の違い

労使協定と労働契約は、いずれも労働条件に関する取り決めですが、適用対象や内容が異なります。以下の表で、労使協定と労働契約の違いをまとめました。

費目 労使協定 労働協約
当事者

使用者 と 労働組合または過半数代表者

使用者 と 個々の労働者

目的 労働基準法の範囲外の特例の働き方・労働条件に対応する
使用者と個々の労働者の間の労働条件を定める
適用対象 事業場の全労働者 契約を結んだ個々の労働

労使協定は、事業場の労働者全員に適用される労働条件です。一方、労働契約は、企業と1人ひとりの労働者が個別に結ぶ契約です。

労使協定の有効期間

労使協定には、有効期間の設定が必須のものと定めなくてもよいものがあります。

有効期間を定めることが義務づけられているのは、以下の5つの協定と1つの決議届です。

  •       1カ月単位の変形労働時間制に関する協定
  •       1年単位の変形労働時間制に関する協定
  •       時間外・休日労働に関する協定(36協定)
  •       事業場外のみなし労働時間制に関する協定
  •       専門業務型裁量労働制に関する協定
  •       企画業務型裁量労働制に関する決議届

出典 :労使協定とは|厚生労働省 (PDF形式)(327KB)  (厚生労働省のサイトに遷移します。)

労使協定は、有効期間が満了すると無効になります 。労使協定の有効期限切れ後、労使協定を継続するには、再度労使協定を締結し直す手続きが必要です。 特に36協定は、1年以内の設定が一般的で、有効期間内に労働基準監督署への届出が必要である、期限管理には注意しましょう。 

 

労働基準監督署長への届出を要する労使協定

労使協定の中には、締結後に所轄の労働基準監督署長への届出が義務付けられているものがあります。以下の8つの労使協定は、労働基準監督署長の届出が受理されて初めて法的効力が生じるため、労働基準監督署長の届出に不備があった場合や届出を怠った場合には、労使協定は無効となります。

  • 任意貯蓄(貯蓄金管理に関する協定届)
  • 1カ月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制
  • フレックスタイム制(清算期間が1ヶ月以内のときは不要)
  • 時間外・休日労働(36協定届) 
  • 事業場外労働のみなし労働時間制(労働時間が法定労働時間を超えていなければ不要)
  • 専門業務型裁量労働

出典:労使協定について|厚生労働省 (厚生労働省のサイトに遷移します。)

上記が、労働基準監督署長への届出が義務付けられている労使協定の一覧です。8つの労使協定を締結した際には、効力発生日の前日までに所轄の労働基準監督署長に届出を行い、受理を確認する必要があります。

労働基準監督署長に届出が受理されなければ、協定に基づく残業や変形労働時間制は法的に認めらません。労使協定がないまま労働をさせたことになり、法令違反となるリスクがあります。

労働基準監督署長への届出を要しない労使協定

労使協定の中には、締結・合意するだけで効力が生じ、所轄の労働基準監督署長への届出が義務付けられていないものも存在します。ただし、労働基準監督署長への届出が不要であるからといって、協定内容の周知義務が免除されるわけではありません。労働基準法に基づき、労使協定の内容を労働者に周知することを徹底しましょう。

労働基準監督署に届出が不要な労使協定は、以下のとおりです。

  • フレックスタイム制に関する労使協定(清算期間が1ヶ月を超えない場合)
  • 年次有給休暇の計画的付与に関する協定
  • 時間単位での有給休暇の付与に関する協定
  • 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の協定
  • 育児休業、看護休暇及び介護休業が出来ない者の範囲に関する協定
  • 休憩の一斉付与の例外に関する協定
  • 賃金から法定控除以外の控除を行う場合の協定

出典:労使協定について|厚生労働省 (PDF形式)(327KB) (厚生労働省のサイトに遷移します。)

フレックスタイム制や事業場外労働のみなし労働時間制など、状況や条件によっては届出が必要となるケースがある点には、注意が必要です。

具体的には、フレックスタイム制であれば、清算期間が1カ月を超える場合には届出が義務化されます。事業場外労働のみなし労働時間制は、1日8時間を超える場合に届出が必要になります。

労使協定の円滑な締結までの流れ

労使協定の締結は、一連の流れを経て完了することによって、それぞれの段階で法令に定められた手続きを確実に踏むことが求められます。労使協定の締結は、以下の流れで進められます。

  1.  労使協定の内容を交渉する 
  2.  労使協定を締結する
  3.  就業規則を変更する
  4.  従業員に労使協定の内容を周知する
  5.  労働基準監督署に届出をする

労使協定の流れを理解し、企業が労使協定を締結する際に円滑に締結できるようにしましょう。

労使協定の内容を交渉する

労使協定の締結に向け、使用者側は先に労使協定の案を作成します。労使協定の種類によって必要項目が異なるため、厚生労働省のガイドブックなどで確認し、記載漏れを防ぐことが重要です。労働基準監督署長への届出をする労使協定は、必要項目を満たさないと無効となるため気を付けましょう。さらに、使用者の事業上の必要性からであっても、労働基準法の上限を超えるものは無効です。

労使協定の交渉では、労使双方が誠実に協議に注力し、使用者は労働者側の要望に合った制度の導入を検討することが重要です。

労使協定を締結する

労使協定の内容が取りまとまった段階で、使用者と労働者側代表の間で締結手続きに入ります。書面による締結が一般的であり、労使協定事項を漏れなく記載した文書に締結日を記し、双方が記名・押印することで労使協定が成立するのが標準的な流れです。

労使協定締結に際して注意すべきは、労働者側の代表者が正規の手続きを経て選出された者であるかどうかという点です。従業員の過半数が参加する労働組合が設置されている場合は、労働組合の代表者が交渉権限を持ちます。他方、労働組合が存在しない事業場では、投票や挙手といった方法によって選ばれた過半数代表者がその役割を担います。ただし、管理監督者の職位にある者や、会社が一方的に指名した者は代表者となる資格を有しません。

仮に、代表者の選出が円滑に進まない場合であっても、企業は従業員に対して選出方法を丁寧に説明し、労働者自身の判断で代表者が決めることが大事です。

就業規則を変更する

労使協定を締結・届出したら、就業規則に反映します。就業規則の変更には、取締役会などの承認を得た上で、労使協定の効力発生日までに手続きを完了させましょう。

就業規則の変更は、労使協定が労働基準監督署に受理された後に行う必要があります。効力発生前の変更は避けなければなりません。

就業規則の変更手続きについては、以下の記事を参考にしてみてください。

No.20 就業規則変更届 

従業員に労使協定の内容を周知する

労使協定の締結後、事業主には協定内容を労働者に周知する義務が生じます。

周知の手段は、以下のとおりです。

 一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。

 二 書面を労働者に交付すること。

 三 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は第二十四条の二の四第三項第三号に規定する電磁的記録媒体をもつて調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

参考:労働基準法施行規則 第52条の2 | e-Gov 法令検索

近年では、紙媒体ではなくイントラネットのようなデジタル環境を活用して情報共有する企業もあります。重要なのは、全従業員が労使協定の内容を自由に閲覧できる状態を確保することです。

口頭での説明や特定の従業員しかアクセスできない場所への掲示は、法的に求められる周知とはみなされないため、注意しましょう。

労働基準監督署に届出をする

労使協定のうち、労働基準監督署への提出が義務づけられているものについては、締結後に必要な書類を監督署長に提出します。労使協定の提出期限は、労使協定の効力発生日の前日までです。また、常時10人以上の労働者を雇用する事業場では、労使協定の内容を含む就業規則の変更についても、あわせて労働基準監督署への届出が求められます。

労働基準監督署への届出の際には、労使協定の種類ごとに定められた様式を使用し、厚生労働省が示す記載上の注意事項をよく確認した上で、作成します。

出典:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)(厚生労働省サイトに遷移します。)

近年、労使協定の締結に電子契約サービスを活用する企業もあり、法的有効性を保ちながら押印や郵送の手間を省くことができます。

労使協定に関する違反行為・罰則

労使協定の締結や運用を誤ると、罰則が科される可能性があります。違反には大きく分けて2つの場合があります。

  • 労使協定を締結していない場合
  • 労使協定に定められた内容を逸脱した場合

いずれのケースも労働基準法違反となり、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象となります。協定に関するルールを正しく理解し、適切な運用を心がけましょう。

参考:労働基準法 | e-Gov 法令検索

労使協定を締結していない場合

労使協定の締結が義務づけられているにもかかわらず、労使協定を結ばずに該当する労働を行わせた場合は、法令違反になります。代表的な例は、36協定を締結していないにもかかわらず、労働者に法定労働時間を超える残業や休日出勤をさせたケースなどです。

また、労使協定に有効期限が設定されている場合、期限が切れると労使協定は失効します。労使協定が失効した状態で該当行為を継続すると、未締結時と同様に法令違法となります。

労使協定に定められた内容を逸脱した場合

労使協定を適正に締結・届出していても、上限・規制を超えて労働者を働かせることは許されません。例えば、36協定で月間の残業時間を30時間以内と定めたにもかかわらず、労使協定で定めた残業時間の上限を超えて労働させた場合です。

労使協定の定めを超えた場合、労働基準監督署によって是正勧告が行われる場合があり、罰則が科せられる可能性があります。労使協定や労働基準法に違反した際は、速やかに実態を把握し、再発防止を含めた是正措置を講じましょう。

労使協定を締結する際の注意点

労使協定は企業が一方的に決めるものではなく、労働者代表との十分な協議を経て双方が納得したうえで締結することが重要です。

また、締結した労使協定は、全従業員に周知する義務があります。労働基準法第106条で定められており、違反すれば30万円以下の罰金の対象となります。労使協定の周知は、就業規則への記載、社内ポータルや掲示板での常時閲覧、入社時や制度変更時の個別説明などを通じて徹底しましょう。

参考:労働基準法 | e-Gov 法令検索

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労使協定は、36協定や変形労働時間制など多岐にわたり、労使協定の種類によって届出の要の有無が異なります。締結すべき労使協定を漏らしたり、届出を怠ったり、労使協定で定めた上限を超えて労働させたりすれば、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金といった刑事罰の対象となるリスクがあります。

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