インダストリアルAI技術の活用戦略 ~AIは第2ステージへ~

AIの登場によって、社会はダイナミックな変化を加速させています。2010年代、ディープラーニング技術を中心にAIの実用化研究が飛躍的な発展を遂げ、2020年代は、AIを本格的にビジネスに活用するステージに入ります。ここでは、東芝が推進しているインフラサービスやデータサービスで、AIがどのように活用されつつあるのかを中心に、ご説明します。


社会課題の解決にAIを活用


世界はいま、地球温暖化や度重なる自然災害の発生、感染症の世界的な大流行など多くの社会課題を抱えており、東芝グループは、こうした社会課題を解決する一助となるべく、さまざまな取り組みを進めています。

その一方で、技術革新により、社会はダイナミックに変化し続けています。2020年代に入り、企業が組織やビジネスモデルに対し、デジタル技術を活用して社会に変革をもたらす、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する時代を迎えました。この新しい時代に向けて東芝グループは、サイバーフィジカルシステム(CPS)やIoT、AI、クラウドなどを活用したインフラサービスやデータサービスの提供を進めています。

東芝グループには、長年携わってきたインフラ事業で培った豊富な知見と実績があります。フィジカル(実世界)に持つさまざまなコンポーネントやシステム、それらからデータを収集するIoT技術、さらには集めたデータをサイバー(仮想世界)で分析し、付加価値に変えるAI技術など、CPSを実現するためのさまざまな先進テクノロジーにより、社会課題に応える新たなサービスの創出を進めています。

AI技術は、CPSの高度化に欠かせません。IoTデータの収集およびAIを活用した分析により、高度な画像検査や不良要因の解析、最適化などによる生産性の向上を実現し、また、人物の認識や行動推定、リスクや需要の予測、故障の予兆検知などによるインサイト(洞察)を可能にします。こうして得た、AIによる新しい知見をフィジカルにフィードバックし、CPSを高度化していくのです。

AIを活用した生産性の向上やインサイトの提供は、ニューノーマルへの対応やデジタルテクノロジーの実装加速、レジリエント(強靭)な事業オペレーションの実現に貢献し、お客さまのビジネス、そして社会課題の解決にもつながっていくと考えています(図1)。


AIの本格的なビジネス活用が進む


近年、注目されているAIですが、その歴史は古く、1956年のダートマス会議で人工知能(Artificial Intelligence)という言葉が初めて使われました。その後、第1次AIブーム、第2次AIブームを経て、2010年代、ディープラーニング(深層学習)技術の登場により、AIの技術進化が一気に加速しました。囲碁やクイズ番組などで人に勝利するAIが登場し、多くの人に知られ、話題になりました。また、自然言語処理技術も飛躍的に進歩し、今ではスマートフォンの音声認識やチャットボットなど、人々の身近なツールにも数多く活用されています。

このようなディープラーニング技術をきっかけとしたAIの技術革新から10年余り。2020年代に入り、いよいよAIは本格的にビジネスでの利活用が進むステージに移ります(図2)。


東芝のAIの強み


東芝が提供するAIは、社会インフラやエネルギー、製造などのさまざまな産業領域で強みを発揮します。実際に、スマートファクトリーや電力プラント、水処理施設、鉄道、放送メディアなどで活用されつつあります。

しかし、産業領域へのAIの適用は、容易ではありません。その理由は、(1)システムが大規模かつ複雑で、膨大な運用データやパラメーターが複雑に絡みあっている、(2)ミッションクリティカルなシステムが多く、稼働を止めることができず、また障害発生時には早期復旧が求められる、(3)欠損データが多く、また異常データが少ないというデータの特徴により、正常データのみあるいは少量のデータから学習して異常などの予測をしなければならないなど、産業領域特有の課題があるためです。さらに、産業領域では(4)人とモノとが協調して作業する場面も多く、システムだけでなくそこで働く人たちに関するデータの収集も必要になるという課題もあります。

私たちはこれらの課題を、東芝が長年培ってきた各産業領域における知識や、多種多様なAI技術とソリューションの開発実績、ミッションクリティカルなシステム構築の知見を基に整備したAIの品質管理、外部環境やビジネスニーズの変化に応じてAIが進化し価値を提供し続ける仕組みの開発などにより、解決していきます(図3)。

これらを支えているものは、50年以上におよぶ東芝のAI研究開発の歴史にあります。この間、多くのAI人材を育て、画像・音声・音響・テキスト・時系列データなどの幅広い分野でAI技術を磨いてきました。取得した特許は5000件以上。蓄積してきた多種多様なAI技術と、それをベースに開発したソリューションやサービスが、東芝のAIの強みです。

東芝デジタルソリューションズでは実際に、次のようなAIサービスを提供しています。映像から人物を特定する顔認識AI「カオメタ」をはじめ、健康診断データから将来の疾病リスクを予測する「疾病リスク予測AIサービス」、東芝独自の良品学習方式を使ったAIによる画像検査で、検査の自動化と精度向上を短い期間で実現する「Meister Apps AI画像自動検査パッケージ」、FAQ(Frequently Asked Questions)集を取り込むだけですぐにチャットボットを利用でき、問い合わせ業務を効率化する、シナリオレス型AIチャットボットサービス「コメンドリ」、請求書や受発注伝票といったオフィスの紙文書を読み取る「AI OCR文字認識サービス」、そして音声認識や音声合成、対話、知識処理などの技術を融合して人とシステムとをつなぐ東芝コミュニケーションAI「RECAIUS」など、さまざまな業務シーンでAIの活用を進めています。

※疾病リスク予測AIサービスについては、同号3つ目の記事で詳しくご紹介します。


東芝独自のAIの品質管理と開発・運用を支える基盤


AIを継続的に活用するうえで欠かせない、AIの品質管理技術とそれを考慮したAIの開発と運用を支える基盤への取り組みについて、ご紹介します。

東芝では、(1)頑健性の高いAIモデルをつくる、(2)良質かつ十分なデータを使う、(3)機敏に動ける開発プロセスを使う、(4)システム全体の品質を考える、(5)お客さまの要求や期待を適切に管理する、という5つの項目を中心とした「AI品質保証ガイドライン」を独自に策定しました。

そして、このガイドラインを考慮しつつ、AIモデルの開発から実際にAIを提供した後の運用、さらには提供後も外部環境やビジネスニーズの変化に応じた価値を提供し続ける仕組みとして独自に整備したのが、「MLOps(Machine Learning & Operations)基盤」です。この基盤を活用することで、データサイエンティスト、AIエンジニア、ITエンジニア、さらにはサービスエンジニアが密に連携して、高品質なAIサービスを継続的にお客さまにお届けすることが可能となります。

※AIの品質管理については同号4つ目の記事で、MLOps基盤については同号2つ目の記事で詳しくご紹介します。


産業領域向けに充実したAIソリューション


製造業におけるものづくりの現場では、設計・調達・製造・保守のそれぞれのプロセスのなかで、調達品の見積回答に対する適正で迅速な評価や、製造現場での作業者の作業効率の改善、画像検査の精度向上、歩留まりの改善、設備の保守の効率化、製造パラメーターの最適化、保守部品の在庫の最適化といったさまざまなニーズがあります。

そこで私たちは、東芝グループでのAI利活用の知見を集約した東芝アナリティクスAI「SATLYS」の活用により、さまざまなソリューションを製造業のお客さまのニーズに合わせて提供しています。

これらのソリューションは、長きにわたり東芝グループのものづくりの現場で実際に活用し、検証を続けてその効果を確認したものばかりです。それだけに、現場のニーズを知り尽くし、知見を結集したワンストップのAIソリューションとして自信をもって提供できるものです。その一部を、実際の導入事例を交えてご紹介します。


熟練者の知見をAIが学習。検査品質の均質化やノウハウの継承に寄与


画像検査にAIを活用した中から、まずは、鋳物部品を製造している東芝グループの現場での事例をご紹介します。

鋳物部品を製造する過程では、加工した部品の表面を検査員が目視で検査して、その品質をチェックしています。しかし、この方法では判断基準が検査員に依存するため、検査の結果にばらつきが出てしまったり、長時間の目視検査で検査員に疲労がたまって検査の品質が低下したりするといった課題がありました。また、検査員の育成や技術の蓄積には相応の時間がかかるなど、技術やノウハウの継承は容易なことではありません。

これらの問題を、SATLYSを使った画像解析で解決します。ここでは、熟練者が判断した結果を蓄積し、教師データとしてSATLYSに学習させます。そして、部品の加工面をカメラで撮影し、SATLYSが状態の良否を判別します。これによって、品質判定時間の短縮や検査品質の均質化が可能となり、誰でも熟練者並みの検査品質を実現することができ、さらには熟練者の技術や知見の継承を支援することにもつながります。

※ この取り組みは、Software & AI Technologyで、詳しくご紹介しています。

また、SATLYSの画像処理技術と深層学習を使った「金属組織の粒度等級判定」という高精度な画像解析が求められる現場での活用例もあります。

ここでは、匠の知見を盛り込んだ多様な教師データを使って深層学習させることで、ルール化が難しい画像解析を熟練した検査員の目視に近い認識精度で実現しました。これまで目視で判断していた金属組織の粒度の等級をAIで自動判定できるようにしたことで、判定精度の平準化、さらには検査の大幅な時間短縮や省力化につながります。これは、「METALSPECTOR/AI」というAIサービスで提供しています。 


業務別に寄り添ったAIサービスで、産業分野の支援を加速


またここでは、お客さまの調達業務や東芝グループの保守業務などにおける、具体的なAIの活用事例をご紹介します。

1つ目は、調達業務での活用です。これまで、調達先から届いた見積回答は、人が確認する必要がありました。しかし、その作業には異常値の早期発見や改善ポイントの発見など、ベテランバイヤーのノウハウと時間が必要でした。そこでAIが、これまでの見積実績や関連情報などを分析し、見積りの推定値を自動的に算出。これは、東芝デジタルソリューションズが提供している戦略調達ソリューション「Meister SRM」の機能で、推定値が算出されることで気づきを得ることができ、見積りの効率化と迅速化を促進しています。

2つ目は、保守業務での活用です。AIを使って、保守部品の在庫を最適化した例となります。実際に、 AIが過去の保守履歴データを分析して機器の故障の発生を予測し、それを基に在庫の数量を最適化した結果、保守部品の在庫を3割削減することができました。これは、「SATLYS KATA 保守部品在庫最適化」として提供しています。

さらに、倉庫内のピッキング作業では、AIで作業者の行動履歴を分析して作業環境を適正化することで、作業時間を2割弱短縮できた事例もあります。これは、ウェアラブルデバイスやBI(Business Intelligence)ツールなどを活用して作業内容を見える化し、作業環境を改善・最適化したことで実現しました(「SATLYS KATA 作業行動推定」を活用)。

※保守部品在庫の最適化についてはDiGiTAL T-SOUL Vol.24 #04で、作業行動推定については、DiGiTAL T-SOUL Vol.31 #03で、詳しくご紹介しています。 

このように、AIによる分析によって現状を見える化することで、さまざまな場面で作業の効率化ができるようになっています。


AIは第2ステージへ


東芝デジタルソリューションズでは、現場のニーズに応えるためにさまざまなAIを活用したソリューションを開発し、提供しています。これら産業領域で使えるAIをつくることができたのは、東芝グループの現場で培った知見や実績、ノウハウがあったからに他なりません。東芝グループは、AIのビジネス活用に積極的に取り組んでおり、多くのお客さまを支援するに足る経験を積んでいます。そして、その経験と実績に裏付けられた東芝のAIを、本格的にさまざまなお客さまのビジネスシーンでご活用いただく第2ステージに入ります。

社会課題の解決は急務です。これからも、東芝のAIソリューションで、多くのお客さまをご支援していきたいと考えています。

ぜひ、東芝にご相談ください。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2021年5月現在のものです。

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