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研究者紹介 バックナンバー2016

第一線で活躍している研究者と研究をご紹介

“屋内で正確な位置情報を得る” ディジタル信号処理技術 谷口 健太郎
ワイヤレスシステム部門 2008年入社 物理情報工学専攻

インドアポジショニングシステム(IPS)の開発

無線を利用した位置推定技術の研究をしています。スマートフォンに入っている無線LANやBluetooth等の技術を利用し、自分が今いる場所を正確に検出する技術です。位置推定ならGPSを使えば良いではないかと思われるかもしれませんが、GPSは人工衛星から受信した電波を利用するので、屋内ではあまり使えません。バッテリーの消費が激しいといった課題もあります。そこで、無線LANなどの技術を利用して位置を推定するインドアポジショニングシステム(IPS)を開発しているのです。IoT(Internet of Things)という言葉が示すとおり、無線デバイスがありとあらゆるものに組み込まれる社会が近い将来やってきます。人やものがどこにあるのか、どのような経路で動いたのか、どこが混雑しているのかなど、精度の高い位置推定や詳細な導線解析が求められるようになると予想しています。

谷口 健太郎の写真

ディジタル信号処理技術の図

的確な調査を実施した上でアルゴリズムを考案

空間を飛ぶ無線信号を解析すれば、その信号が飛んできた距離や方向を推測することができます。ただ、無線信号は雑音や干渉の影響を受けやすいので、推測した結果は曖昧性を含んでいます。信号処理のアルゴリズムを工夫して、いかに正しい情報を取り出して解析するか、そこが研究者の腕の見せ所です。正しい信号を抜き出しただけでは、それは単なる時間情報や電力値の情報に過ぎません。時間的にも空間的にも広い範囲で信号の情報を集め、今いる場所としてもっとも可能性の高い座標を算出します。信号処理のアルゴリズムをあれこれ考え実験や検証を繰り返すのはとても楽しいものですが、企業の研究者として、研究を始める際に、既存技術として何が明らかになっていて何が課題として残っているのか、その調査を的確にできたかどうかがその後の研究の成果を大きく左右すると考えています。私はその調査に決して手を抜かず、きちんとやるようにしています。

谷口 健太郎の写真谷口 健太郎の写真

いくつもの専門技術をもつ研究者が協力してもの作り

大学の研究は先端的ですが、理想的な技術です。おもしろいけれど、本当に社会の役に立つ技術になるのか、確信が持てませんでした。社会に役立つもの作りに携わるため、企業に就職することにしました。一つのものを作るために、いくつもの専門技術が必要ですが、大学院で狭い領域を深く掘り下げていると、隣の研究室の専門技術もよくわからないものです。東芝の研究開発センターを見学したとき、さまざまな専門技術をもつ研究者が協力して一つの製品に向けて研究開発をしている姿を見て、そこに大学にはない大きな魅力を感じました。私のように信号処理を専門とする者もいますし、ハードウエアの電子回路を扱う者、アンテナを扱う者、電波の伝搬技術を扱う者もいます。それぞれお互いが作用しあって一緒に仕事をするので、見識も広がります。技術が製品になっていく道筋も見え、実感することができます。

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学生の皆さんに一言

学生の皆さんに一言!『学生時代だからできる、自己研鑽を忘れずに』

学生時代にくらべ、就職後は時間の余裕がなくなります。自分を磨こうと思っても、限られた時間で取り組まねばなりません。自分の場合は英語をもっと学生時代に学んでおけば良かったと思っています。学生の頃、論文は読めるし発表もできたので英語はできると自惚れていましたが、いざ規格の標準化委員会に参加したらネイティブ同士の会話に全然ついていけませんでした。自分の未熟さを思い知り、なぜあの時満足してしまったのだろうと感じたものです。時間をかけて培っていくような経験を、学生の間にいろいろ積んでおくと良いと思います。