2023年11月28日
株式会社東芝

コバルトフリーな5V級高電位正極を用いた新たなリチウムイオン電池を開発

-高電圧化とパワー性能の向上を実現、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーの実現に貢献-

概要

当社は、コバルトフリーな5V級高電位正極材料を用いて、副反応として生じるガスを大幅に抑制可能な、新たなリチウムイオン二次電池を開発しました。一般的に、レアメタルであるコバルトは多くの正極材料に含まれており、生産国の偏りによるサプライチェーンやコストの安定性が課題とされていますが、本5V級正極材料はコバルトを含みません。また、近年の需要増加と共に価格が高騰しているニッケルの含有量が少ないため、コストだけでなく資源保全の観点でも優れています。
5V級高電位正極は、電解液の分解によってガスが発生することが実用上の課題でしたが、電極の構成部材を改良することにより、従来型の電解液を使用しながらも副反応を大幅に低減しました。5V級高電位正極をリチウムイオン二次電池に採用することで、電池の高電圧化とパワー性能の向上が期待できます。
当社は、今般、本正極技術とニオブチタン酸化物(NTO: Niobium Titanium Oxide)負極を組み合わせたリチウムイオン電池(ラミネート型)を試作し、3V以上の高電圧、5分間で80%の急速充電性能、高いパワー性能に加えて、60℃の高温下でも優れた寿命特性を実証しました(図1)。
本リチウムイオン電池は、小型で高電圧が必要な産業用途から、将来的に電気自動車などの大型用途に至るまで、幅広いアプリケーションへの適用が期待されます。
当社は、本研究開発の成果を、2023年11月28日から大阪国際会議場にて開催される第64回電池討論会にて発表します。

図1: 試作した電池の外観

開発の背景

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、家庭用から産業用まで幅広い用途でリチウムイオン二次電池の需要が高まっています。こうした中、正極を安定させる特性のあるレアメタルのコバルトは正極材料として広く用いられている反面、供給量の懸念、コストの変動、資源産出国の偏在、採掘や精錬の際の土壌や水質汚染、生物多様性の低下などの環境問題を引き起こすことが指摘されています(*1)(*2)。
リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める特性のあるニッケルも同様に正極材料に多く使われていますが、精錬過程における特定国への偏在等があります(*2)。以上のことから、サプライチェーン上のリスクを抑えるにあたり、レアメタルを含まず、安定的な調達と資源保全を両立する材料を用いた電池が求められています。
また、自動車産業において、モーターやインバーターを含む電動システムの高効率化、電池の高出力化に加え、充電時間の短縮に向けて電池パックを高電圧化する動きがあります(*3)。電池1セルあたりの電圧が高まれば、電池モジュールのセル積層数を削減することができ、低コスト化につながります。

従来技術と課題

リチウムイオン電池の正極には、コバルトフリーかつニッケル含有量が少なく、スピネル型(*4)の高電位正極である「ニッケルマンガン酸化物(LNMO)」が着目されています。しかしLNMOは作動電位の高さゆえに電解液が酸化分解してガス化するため、電池が著しく膨れたり寿命が短くなったりする課題がありました。これまでに、電解液の高濃度化や、フッ素化溶媒・イオン液体の適用など、電解液の酸化耐性を向上する試みが多く報告されてきましたが、ガス発生の抑制とリチウムイオンの良好な伝導性の確保の間でトレードオフの課題がありました。ガスの発生を抑えようとすると電気抵抗が上がり、電気の入出力性能や低温性能の低下など、性能やコストの観点から課題が未だに多く、実用化に向けた対策が必要でした。

本技術の特徴

当社は、高電位正極の表面で電解液が分解されてガスが発生することや、正極材料に含まれる金属が溶出し、溶出した金属が負極表面でガス発生を促進するメカニズムを持つことをつきとめました。これにより、正極の粒子表面を改質して電解液との反応を抑制する技術に加え、負極表面で溶出イオンを無害化する技術を開発しました(図2)。この技術により、一般的に広く使用されている電解液を使ってもガスの抑制が可能になります。

図2: 本開発技術の模式図

今回の開発技術の実証にあたり、当社はニオブチタン酸化物(NTO: Niobium Titanium Oxide)負極を採用し、1.5Ah級のラミネート型電池を試作しました。
電池性能評価では、3V以上の高電圧、5分間で80%の急速充電性能、充放電を6000回以上繰り返しても初期に対して80%以上の容量を維持する耐久性、および60℃の高温下においても優れた寿命特性を実証しました(図3)。

図3: 開発電池の各種性能

今後の展望

当社は、本電池の応用先として、先行して電動工具や産業機器など小型で高電圧を必要とする用途への展開を検討しています。将来的には車載用途への展開を目標とし、本技術を用いた電池の大型化を目指します。当社は、本電池を2028年に実用化することを目指し、研究開発を進めてまいります。