生産ラインで搬送中の製品表面の微小な欠陥を広い撮像視野でリアルタイムに
可視化・判別する光学検査技術を開発

-ミクロンサイズの微小な欠陥を捉える匠の技をデジタル化し、製造現場の効率向上および品質向上に貢献-

2022年8月1日
株式会社東芝

概要

当社は、生産ラインでの外観検査において、製品が高速に搬送される中、製品の表面のミクロンサイズの微小な欠陥(キズなど)を、広い撮像視野でリアルタイムに可視化・判別する光学検査技術「OneShotBRDF®」を開発しました。本技術は、ミクロンサイズの微小な欠陥により生じるわずかな光の方向を色で識別するもので、微小欠陥の有無に加え、深さも推定することが可能です。
外観検査の自動化においては、製品表面の画像を撮影し、その画像を解析することにより欠陥を検出する手法がとられています。しかし、微小な欠陥は明暗のコントラストがつきにくく判別ができないことがあり、微小欠陥の判別が求められる検査においては、今でも、熟練者による目視検査や触診検査が行われています。
当社が開発した「OneShotBRDF®」は、製品の表面からの光の方向を色で識別して(データ化し)ミクロンサイズの微小欠陥を、広い撮像視野でリアルタイムに判別します。搬送中の製品を高精度に撮像できる「ラインカメラ」に対応し、光学フィルターを変更することで、凹凸の3Dデータを取得することも可能です。また、当社独自の画像解析技術と組み合わせることで、取得画像から微小欠陥を自動判別することもできます。
当社は、本技術の詳細を、8月1日に開催される国際学会ISOM’22 (International Symposium on Imaging, Sensing, and Optical Memory 2022)にて発表する予定です。

開発の背景

生産現場では、熟練者の高齢化や生産年齢人口の減少などによる人手不足の問題が顕在化しており、自動化による生産性の向上が求められています。外観検査の自動化も例外ではありませんが、搬送を止めることなく、リアルタイムで高精度に製品表面の微小な欠陥を判別するのは困難です。
生産ラインでの外観検査の自動化では、カメラで撮像した画像を解析する手法が頻繁に用いられます。カメラには、対象を「面」で捉える「エリアカメラ」と、「線」で捉える「ラインカメラ」がありますが、「エリアカメラ」は、二次元の画像を容易に得ることができる一方で、製品が連続的に高速に流れるライン上での外観検査への適用が難しいといった課題があります。「ラインカメラ」は、搬送方向に沿った連続画像の取得・処理ができたり、各画素の感度を個別に細かく調整できるため、多くの量産現場で導入されていますが、ミクロンサイズの微小な欠陥は、ラインカメラを用いても明暗のコントラストがつきにくいため、撮像画像では鮮明化しにくいという課題が残ります。微小な欠陥の判別が求められる検査においては、今でも、熟練者による目視検査や触診検査が行われているのが現状です。
当社は2019年に、カラーフィルターを用いて光の散乱角度を色で識別し、従来の画像検査では捉えられなかった微小な欠陥を瞬時に可視化する「エリアカメラ」向けのワンショット光学検査技術を開発しました。しかし、「ラインカメラ」が生産現場で多く使用されているため、同カメラに適用できる検査技術の開発が求められていました。

本技術の特長

そこで当社は、「ラインカメラ」に適用可能な光学技術「OneShotBRDF®」を開発しました。本技術の特徴は、搬送方向とそれに直交する幅方向で、機能を分離したことです。搬送方向には、光の方向に応じて色を対応させる光方向識別機能を持たせます。幅方向には、全視野を取得する機能を持たせます。これにより、ラインカメラの全視野で欠陥を鮮明化することが出来るようになりました。
当社は、上記機能を実現するために、搬送方向は平行光で、幅方向は拡散光となる独自の照明と、ラインカメラのレンズの前に設置したストライプ状の多波長開口で光学系を構成しました。欠陥の無い平滑な被検物に照明を照射すると、光は搬送方向には平行を保ったまま正反射されます。それらの光は、多波長開口の幅方向に一様な色の中心ラインを通過し、全て同じ色として撮像されます。一方、被検物に欠陥がある場合、照明光はさまざまな方向に散乱する光となります。多波長開口は搬送方向には色が変化するフィルターとなっているため、それらの光は多波長開口の搬送方向へも広がり、光の方向に応じて異なる色となって撮像されます。つまり、欠陥は平滑な周囲とは異なる色となり、鮮明化されます。また、照明は幅方向には拡散光となっているため、レンズの有効径に制限されることなく(*1)、広い視野で撮像することができます。
このような反射光分布は、BRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function)と呼ばれる分布関数によって示すことができます。従来、BRDFを取得するためには、様々な方向に受光器を細かく刻んで動かす必要がありました。一方、本技術は、ラインカメラの全視野にわたって、各画素でBRDF情報を色で取得できるため、ワンショットでBRDF情報を取得することが可能です。今般開発した「OneShotBRDF®」の多波長開口は汎用性が高く、そのフィルター特性を変更することで、表面凹凸の3Dデータも取得可能です。また、当社独自の画像解析技術と組み合わせることで、取得画像から微小欠陥を自動判別することもできます。

図1: OneShotBRDF®技術をラインカメラに適用
図2: 従来のOneShotBRDF®を大きく超える視野で欠陥を鮮明化
図3: 通常のカメラでは難しい表面状態の識別も色の違いで可視化(光沢紙では歪みも可視化可能)

「OneShotBRDF®」を用いることにより、ラインカメラの広い視野にわたって微小な欠陥を色で鮮明に識別することができるようになりました。さらに、取得画像の各画素をRGB色空間でのベクトルとして扱う独自の解析技術により、微小な欠陥を自動で識別できるようになります。これらにより、生産ラインにおいて搬送される製品を、リアルタイムで高精度に外観検査することができるようになります。

今後の展望

当社は今後、本技術をシステムに組み込み、システム全体としての有効性を高め、さまざまな生産工程への早期導入を目指します。さらに、AI技術に基づく画像処理と組み合わせ、適用範囲の拡大を進めます。そして、デジタル化された検査技術により、製造現場の生産性および製品品質の向上に貢献します。


*1:2019年当社発表の「エリアカメラ」向けワンショット光学検査技術では、全ての方向で平行光となる照明を用いていました。そのため被検物で反射した平行光を撮像できる領域、すなわち「エリアカメラ」のレンズの有効径程度が撮像範囲でした。