ナノ材料

有機半導体を用いたフィルム型光センサーによる放射線のパルス検出に世界で初めて成功
-薄型、軽量、広範囲測定等の特長を活かし工業用、医療用などにも応用-

2019年09月02日
株式会社東芝

当社は、人の検知、体温の測定、物体までの距離の測定、放射線の計測などさまざまな用途に使用される光センサーにおいて、柔軟・軽量といった特徴をもち大面積化が可能な有機半導体を用いた、高感度のフィルム型光センサーを開発しました。従来、有機半導体では実現が難しかった微弱な光の検出を可能とし、放射線によって微弱に発光するシンチレータと組み合わせることで、有機半導体を用いたフィルム型光センサーとしては世界で初めて、放射線のパルス検出(注1)に成功しました(図1)。薄型・軽量を実現する本センサーはIoT・ウェアラブルセンサーなどへの応用を可能にするとともに、大面積化により一度に広い範囲の計測を実現し、今後、工業用、医療用など多方面への活用が期待できます。
当社は本技術の詳細を、9月3日から4日に岩手大学で開催される電気学会 基礎・材料・共通部門大会にて発表します。

光センサーは、光を電気信号に変換し、その電流を測ることで、光の有無や強さを判別します。カメラのイメージセンサーを始め、人体から発する赤外線を検出して人を検知したり、体温を測ることに使用される他、レーザーを対象物に照射させ反射光を測定することで物体の距離を計測するなど、様々な用途で使用されています。また、シンチレータを組み合わせることで放射線を計測することもできます。近年IoTの普及により、IoT・ウェアラブル端末への光センサーの搭載の拡大が見込まれる中、従来のシリコンなどの無機半導体を利用した光センサーと比較して薄型・小型・大面積化が期待できる有機半導体薄膜を用いた光センサー(有機光センサー)の開発が注目されています。
一方、有機光センサーは、無機半導体を用いた光センサーと比べて、光の検知特性が十分ではなく、その応用範囲に制限があることが課題となっています。例えば、シンチレータは放射線を受けて微弱な光しか発しないため、有機光センサーでパルス検知をすることは困難でした。また、有機半導体は無機半導体と比較して電荷の輸送特性が低く、光検出時に半導体層内で生成した少数の電荷を電流として検出することが困難であるため、パルス検出が難しいという課題がありました。

そこで当社は、微弱な光も検出できる高感度なフィルム型有機光センサーを開発しました。一個の放射線の入射に伴うシンチレータからの微弱な光も検知することができる、有機半導体を用いたフィルム型の光センサーとして世界で初めて、放射線のパルス検出に成功しました。
開発したフィルム型光センサーは、透明電極、バッファ層、有機半導体層、金属電極の積層構造になっており、有機物を主成分としたフィルム状の材料で封止をしています。放射線の検出にはこの素子にシンチレータを取り付けます。まず、シンチレータから放出された光が透明電極とバッファ層を透過し、その光を有機半導体層で吸収し、電荷を生成します。その電荷を、両電極から電流としてパルス検出します(図2)。
微弱な光を検出するためには、有機半導体層で生成した電荷をロスなく取り出し、電流信号の強度を高めることに加え、測定時の電流のノイズを低減することが必要です。今回当社は、電荷の取り出し効率の向上のため有機半導体層の材料構成の最適化および成膜プロセスの改善を行い、光検出効率80%以上を達成しました。また、ノイズ低減のため、有機半導体層の膜厚等、素子構造の改良を行いました(有機半導体層厚5μm)。当社は、今回開発したフィルム型有機光センサーを用いて、放射線の一種であるベータ線を放出する放射性物質であるストロンチウム90の検出試験を行い、ベータ線のパルス検出を確認しました。有機半導体層の材料や構造を調整し、最適な種類のシンチレータと組み合わせることで、ガンマ線、エックス線等、ベータ線以外の放射線検出も可能です。

また、素子部のフィルム化により、装置を小型・軽量化・曲面状化することができ、様々な形状の機器へ搭載することが可能となり、体に貼り付けて用いる医療用の放射線検出器等の応用も考えられます。さらに、大面積構造を作りやすい特徴を活かし、一度に広い面積の光や放射線の分布を測定するといった応用が期待できます。

当社は今後、光計測から各種放射線の計測への幅広い実用化に向けて、さらなる本センサーの高感度化を目指します。そして、このフィルム型センサーの特徴を活かし、工業、医療、インフラ計測、安全管理等様々な分野への活用を目指します。

図1:開発したフィルム型光センサー(厚さ:100μm)

図2:フィルム型光センサーとシンチレータの構造と仕組み

(注1)一個の放射線が入射した際に発生する電流を検知すること。