ナノ材料

5cm×5cmサイズのフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールで世界最高の変換効率10.5%を達成-壁などにも設置可能な曲がる太陽電池モジュールの低コスト・高効率化技術を開発-

2017年9月25日

概要

当社は、独自の塗布印刷技術を用いて、樹脂フィルム基板上に作製した5cm×5cmのペロブスカイト太陽電池(注1)モジュール(注2)で、世界最高のエネルギー変換効率(注3)10.5%(一般財団法人電気安全環境研究所の測定による)を達成しました。
これまで培ってきた有機薄膜太陽電池(注4)モジュール作製技術をベースに、フィルム基板を用いたペロブスカイト太陽電池向けの成膜プロセス技術や、モジュール作製のためのスクライブ(注5)プロセス技術を開発したことで、フィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールとしては、10%を超える世界最高の変換効率を達成しました。本モジュール技術はフレキシブルなフィルム基板を用いていることから、ロール・ツー・ロール方式で作製でき、低コスト化が可能です。また、高効率のポテンシャルを持つペロブスカイト太陽電池のため、更なる高効率化が期待できます。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発」による成果で、パシフィコ横浜アネックスホールにて開催されるNEDOの成果報告会で9月22日に発表しました。

フィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュール

開発の背景

現在、主流となっている結晶シリコン太陽電池は、重量および形態の面から設置場所が限られてしまいます。フレキシブルで軽量なフィルム型モジュールは、従来は設置できなかった耐荷重性の低い建築物への設置や、曲面への設置、ZEBやZEH(注6)の普及にも繋がる壁への設置等、多様な設置形態を可能とします。また、ペロブスカイト太陽電池は、印刷プロセスで作製できるため低コスト化が可能であり、しかも高い変換効率のポテンシャルを有する(注7)次世代太陽電池です。
フィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールは上記の特長を併せ持ちますが、従来は均一で大面積なペロブスカイト多結晶膜の形成が困難でした。また、モジュール作製に必要なスクライブ工程では、フィルム基板が柔らかく刃圧を強くすることができないため、電極上の膜を十分に除去できず、結果的にセル間の抵抗が高くなり変換効率が下がる問題がありました。この様に、フィルム基板を用いたモジュールは作製が困難で変換効率も低く、報告数はわずかでした(注8)

本技術の特徴

当社は、独自の塗布印刷技術を用いて、フィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールを作製し、5cm×5cmサイズで世界最高の変換効率10.5%を達成しました。
本技術では、PEN(注9)のような樹脂フィルムを基板として用いることから、セル構造として150℃以下の温度で作製可能なプレーナ型逆構造(図1)を採用しました。大面積化の課題に対しては有機薄膜太陽電池の研究開発で培ったメニスカス塗布印刷技術でCH3NH3PbI3(注10)ペロブスカイト多結晶膜の均一成膜に成功し、セルごとの特性ばらつきを低減させてモジュールとしての効率を向上させました。また、モジュール作製のスクライブプロセスでは、刃圧の最適化と、弱い刃圧でも電極上の膜が良好に除去できる材料の組み合わせにより、ガラス基板を用いた場合と同等なレベルにセル間抵抗を減少させ、変換効率を向上させました。樹脂基板向けに開発したITO(注11)透明電極のシート抵抗低減も高効率化に寄与しています。

図1:プレーナ型逆構造

図2:メニスカス塗布印刷技術

今後の展望・予定・目標

今回、変換効率が10%を超え、フィルム型モジュールの高効率化、大面積化のポテンシャルを示すことができました。
今後は、ペロブスカイト材料の組成変更やプロセス改善等により、モジュールサイズの拡大と変換効率向上を進めていきます。
フィルム型太陽電池は多様な設置形態で太陽電池の普及を促進し、ペロブスカイト太陽電池の高効率化と低コスト製造技術は発電コストの低減に繋がります。東芝は、結晶シリコン太陽電池に匹敵する効率、および基幹電源並みの発電コスト7円/kWhの実現を目指して、研究開発を進めていきます。

(注1)光吸収層がペロブスカイト結晶で構成されている太陽電池

(注2)セルは太陽電池の基本単位の素子、モジュールは複数のセルを電気的に接続したもの。上記モジュール写真で細長い長方形の部分がセル。

(注3)太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する効率

(注4)有機薄膜太陽電池の効率では、セル、ミニモジュール、モジュールで東芝が世界トップ(Solar Cell Efficiency Tables Vol.50 (2017) )。

(注5)セルの直列接続構造を形成するために、電極上の膜の一部分を取り除き、電極を露出させる工程。

(注6)ZEB:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル、ZEH:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス

(注7)世界では0.0946cm2の小面積セルで22.1%という高効率が報告。大面積化、モジュール化が課題。

(注8)例えばUniversity of Rome、面積31.36cm2で変換効率3.1%。

(注9)ポリエチレンナフタレート。樹脂の一種。

(注10)メチルアンモニウムヨウ化鉛。別称MAPbI3

(注11)酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)。