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2016年度 人工知能学会 現場イノベーション賞・金賞を受賞-四日市工場における半導体生産性改善-

2017年6月
株式会社東芝
東芝メモリ株式会社

株式会社東芝(以下、東芝)と東芝メモリ株式会社(以下、東芝メモリ)はこのたび、「四日市工場における半導体生産性改善」の取り組みが評価され、2016年度人工知能学会現場イノベーション賞・金賞を受賞しました。本日贈呈式が行われました。

人工知能学会現場イノベーション賞は、実生活やビジネスの現場における問題に対して人工知能技術により解決した事例を評価し、その研究開発を遂行した個人や団体を表彰するものです。今回の受賞は、東芝メモリの製造拠点である四日市工場において、製造装置や検査装置から収集したビッグデータを人工知能で解析し、生産性を改善したことが、人工知能をビジネスにつなげた事例として高く評価されたものです。

両社は今後も、人工知能の技術を用いて半導体の品質改善と生産コスト削減を推し進め、さらなるメモリの大容量化・生産規模拡大を図っていきます。

背景

四日市工場では、従来、製造装置や検査装置から収集したデータを熟練の技術者が解析し、品質改善や生産コスト削減、生産規模の拡大を図ってきました。一方、メモリの急速な大容量化と、製造プロセスの複雑化や大規模化に伴い、人手によるデータ解析が困難になりつつあります。そこで当社は、近年著しい発展を遂げている人工知能と機械学習を用いて、これまで熟練の技術者が担ってきたデータ解析の一部を自動化する技術を開発しました。

受賞した取り組みの概要

・不良原因の自動解析
最終工程の全数検査で得られた不良データから不良原因を自動的に解析する技術です。解析された不良原因は不良の発生状況とともに「歩留新聞」(注)(図1)として可視化され、この「歩留新聞」を頼りに技術者が不良原因を取り除きます。「歩留新聞」の作成にはクラスタリングとパターンマイニング技術を用いています。一度発生した不良はシステムに登録され、再発が常時監視されます。本技術により、不良1件当たりの解析時間が平均6時間から2時間に短縮されました。

・欠陥検査画像の自動分類
工程間の抜き取り検査において、走査型電子顕微鏡で撮影された欠陥検査画像(図2)を、欠陥の種類ごとに自動的に分類する技術です。多様な種類の欠陥がある中で、従来の検査画像の自動分類技術では、49%の欠陥に留まっていたものが、深層学習を用いることにより、83%の欠陥の自動分類を実現しました。

・製造プロセスの早期改善
製造プロセスに関わるさまざまな条件や、製造装置に取り付けられたセンサの値から、製造工程の途中段階で、品質や特性を予測する技術です。その予測結果に基づいて、製造プロセスの改善や制御を行います。従来、膨大なセンサデータから品質の予測モデルを構築するには熟練者の高度な知見が必要でしたが、機械学習手法の一つであるスパースモデリングを用いることによって、高精度な予測モデルを自動的に作成することが可能となりました。

・装置保守時期の自動決定
製造装置を低コストで安定的に動作させるための保守時期を自動的に決定する技術です。装置の保守時期が遅すぎると故障リスクが高まり、早すぎると保守コストがかさんでしまいますが、装置ごとに適切な保守時期を計算するモデルを作るのは困難です。そこで、強化学習を用いて保守コストが小さくなるタイミングを短期間で学習し、適切な保守時期の決定を自動化しました。

図1: 「歩留新聞」画面例

図2: 欠陥検査画像

現場イノベーション賞

人工知能学会現場イノベーション賞は、実生活やビジネスの現場における実問題に関して、人工知能技術により解決した事例を学会として評価した上で、その研究開発を遂行した個人や団体を表彰するものです。2009年に始まり、今回で8回目となります。現場から見出した問題と、それに対する解として開発した技術の独創性・有用性を基準に受賞者が選定されます。

URL:https://www.ai-gakkai.or.jp/about/award/#INNOVATION

(注)歩留新聞:ビッグデータを活用し、ウエハー上の不良分布、発生トレンド、および不良発生装置の候補を一覧で確認できるシステムのこと。