電子デバイス

安全な水素社会の実現に向けて高速検知と低消費電力を両立した水素センサーを開発

2017年6月

概要

当社は、検知速度を落とすことなく、従来(注1)の約100分の1以下の低消費電力で水素ガスを検知する水素センサーを開発しました。センサー膜にパラジウム系金属ガラス(注2)を用いた当社独自のMEMS(注3)構造を採用することで、従来トレードオフの関係にあった高速検知と低消費電力を両立することに成功しました。また、本センサーは、半導体製造ラインで生産できるため、低コストで大量生産が可能です。本技術の詳細を、台湾で開催されるMEMSに関する国際会議「Transducers2017」にて、6月20日(現地時間)に発表します。

開発の背景

現在、地球温暖化防止の観点などから、水素社会の実現に向けた技術開発が世界的に進んでいます。一方、水素は可燃性ガスであるため、安全に使用するためには漏洩時に速やかに検知する必要があり、高速検知が可能な水素センサーが求められています。また、水素検知器は電池で駆動させることで多様な場所に設置することが可能になりますが、電池の電力で常時水素を検知するためには、低消費電力であることが必要です。しかし、従来の水素センサーではセンシング動作時にヒーターによる加熱が行われるため、消費電力が数10mW~数W(注4)と大きいことが問題でした。また、検知速度を向上させるためには頻繁に加熱しなければならず、検知速度と消費電力にはトレードオフの関係がありました。

本技術の特徴

そこで当社は、半導体事業で培った加工技術を応用することで、センサー膜にパラジウム系金属ガラスを用いた独自のMEMS構造を開発し、高速検知と低消費電力の両立を実現しました。本センサーは常時加熱することなく水素を検知することができ、消費電力が小さい容量型MEMS構造(注5)を採用しているため、従来の約100分の1以下である100μWオーダーの低い消費電力で動作することが可能です。

また本センサーは、パラジウム系金属ガラスをセンサー膜として採用しています。一般にパラジウムは水素吸蔵合金として知られていますが、水素と結合するため応答時間が遅く、また放出のために加熱が必要という問題がありました。当社は、パラジウムに替わり、アモルファス(注6)合金であるパラジウム系金属ガラスを採用することで、水素との結合を抑制し、従来の高速検知が可能な水素センサーと同水準である数秒での検知を実現しました。

なお、本センサーは半導体製造ラインで生産することができ、1枚のウエハーから多数のセンサーを製造できるため、低コストで大量生産することが可能です。

図1: 水素社会のイメージ図

図2: 応答時間と消費電力の関係

図3: 試作した水素センサーと動作原理

図4: 試作した水素センサーの水素ガスに対する応答波形

今後の展望・予定・目標

当社は、今回得られた知見から構造、製造プロセスのさらなる最適化を行い、燃料電池車(FCV)や水素ステーションなど水素関連の市場が拡大していく2020年以降の実用化に向け、研究開発を進めていきます。

(注1)現在使用されている接触燃焼式などの水素センサーとの比較

(注2)パラジウムは水素吸蔵合金の一種で水素を貯蔵する事ができる金属。通常は結晶状態だが他の元素と急冷しながら合金化することで結晶状態が崩れ金属ガラスの状態になる。

(注3)Micro Electro Mechanical Systems

(注4)当社調べ

(注5)可動電極と固定電極間に容量が形成されており、メンブレンが変形することで電極間の距離が機械的に変わり、容量変化が生じる構造。直流電流が流れないため消費電力が小さい。

(注6)原子や分子等の配列に規則性がなく、結晶構造をもたないもの。