電子デバイス
インキュベータ内で培養中の細胞を観察できる蛍光イメージング装置を開発
2017年6月
概要
当社は、インキュベータ(注1)内で培養する細胞集団の蛍光像(注2)を、対物レンズを用いることなく可視化するイメージング装置を技術開発しました。本開発品は、細胞集団の中から単一の細胞を個別に判別することが可能で、従来比3分の1(注3)の空間分解能10μm未満を世界で初めて達成しました(注4)。本開発品の詳細は、台湾で開催される国際会議「Transducers 2017」にて、6月20日(現地時間)に発表します。
開発の背景
iPS細胞の発見に代表される細胞生物学の発展に伴い、創薬や再生医療といった分野で細胞の培養中の観察が重要となっています。従来、これらの観察には対物レンズを使用した蛍光顕微鏡が用いられていたためレンズやフィルタなどの光学系部品の小型化が難しく、通常のインキュベータ内で用いるには適していませんでした。また、観察のたびにインキュベータから蛍光顕微鏡に細胞サンプルを搬送する操作は、不純物混入の要因となっていました。そのため、細胞集団の蛍光像をインキュベータの中で、より簡単に取得できる新しい技術の開発が望まれていました。
本技術の特徴
そこで当社は、対物レンズではなくCMOSイメージセンサを用いて細胞を観察する手法(注5)に着目し、CMOSイメージセンサの上に特定波長の光を除去するフィルタを形成することで、細胞集団の蛍光像を可視化するイメージング装置を技術開発しました(図1)。
これまで学会などで提案されている類似技術では、10μm程度の一般的な大きさの細胞を判別するために、画像処理による高解像度化を行う計算機が必要でした。当社は、トレードオフの関係にあるフィルタ性能と空間分解能の両立を独自の最適設計で実現し、空間分解能を従来の3分の1となる世界最小(注4)の10μm未満に改善しました(図2)。また、観察の対象となる細胞の核を蛍光染色した細胞集団(注6)の蛍光像をインキュベータ内の蛍光イメージング装置で取得することに成功しました。
本開発品のセンサモジュール上で細胞培養を行うことで、任意のタイミングで蛍光の画像を取得・送信することができるため、本開発品はいつでも遠隔でインキュベータ内の細胞の様子を簡単(注8)に観察することができます。また、装置の小型化(注7)が可能になるため携帯性にも優れており、屋外でも活用することが可能です。
今後の展望・予定・目標
当社は、今回技術開発した蛍光イメージング装置の事業化に向けて、あらゆるパートナー企業との連携を目指すとともに、顧客に提供する価値の更なる向上のために研究開発を進めていきます。
なお、開発した技術の一部には、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)により得られた成果が含まれています。また、本開発品を用いた実証実験の一部は、武田薬品工業株式会社のご協力のもとで実施されました。
(注1)温度・湿度・CO2濃度管理下で細胞培養を行う装置。
(注2)サンプルである細胞の特定の部位や特定のタンパク質の発現を蛍光色素や蛍光タンパク質などによって可視化した像。
(注3)蛍光ビーズを用いた評価で10μm未満の空間分解能であることを確認しています。
(注4)超解像等の特別な画像処理技術を用いず1回の撮影で画像化が完了する方式間の比較において。2017年4月時点での当社調べ。
(注5)オンチップイメージングやレンズレスイメージングとも呼ばれる技術。
(注6)Hoechst® 33342色素を用い、初代ラットニューロン細胞およびヒト由来結腸腺癌細胞でそれぞれ実験を実施しました。
(注7)開発品はシステム全体(PC除く)で140(W)×70(D)×140(H) mm3です。
(注8)センサに接着している細胞の像が取得されるため、対物レンズのピント調整をする操作が不要です。