情報システム

複数送信者と単一受信器で量子暗号鍵配信するシステムを世界で初めて実証

2013年9月

概要

量子暗号鍵配信技術は光子の量子力学的な性質によって安全性が保障された暗号技術です。従来、量子暗号鍵配信の研究開発は、送信器と受信器を一対一に接続したシステムを用いて行われてきました。今回、東芝欧州研究所ケンブリッジ研究所は、独自の高速光子検出技術を適用し、複数の送信器と1台の受信器を接続したシステム(量子アクセスネットワーク)を用いて、世界で初めて量子暗号鍵配信の実験・検証を行うことに成功しました。この結果は、最も権威ある総合科学雑誌の一つであるNatureにも掲載されました。

開発の背景

これまで量子暗号鍵配信技術の研究開発は、1台の送信器と1台の受信器を接続したシステムで行ってきました。しかし、このシステムのままでは、ユーザが増えるたびに送信器と受信器が一対一に接続された通信路が増加します。複数のユーザと通信するセンター側で、量子暗号鍵配信用の光ファイバーの引き込みや受信器を置くスペースがユーザの数だけ必要になるなど、量子暗号鍵配信システムの普及の課題となります。

量子アクセスネットワーク

そこで、受信器1台で複数の送信器と接続することができる量子アクセスネットワーク技術の開発に取り組み、実験・検証を行いました。具体的には、1ナノ秒間隔で光子を検出できる当社独自の技術により、1台の受信器で複数のユーザから送信された光子を検出することができるようになりました。また、温度変化による光ファイバーの長さの変化を送信器側でアクティブに補正する手法も実装し、安定で連続的な通信ができるようになりました。今回は、送信器2台を光スプリッタにつなぎ、1本の光ファイバーで受信器1台と通信を行いました。その結果、毎秒250キロビットを超える量子暗号鍵送信や、12時間にわたる安定動作、最大64ユーザまでの同時接続可能性を示しました。

この量子アクセスネットワーク技術により、複数のユーザから信号を集め、一本の光ファイバーでセンターへ送るネットワークを、標準的な光通信部品で構成することができるようになります。これは、量子暗号鍵配信技術を使ったシステムを導入したいユーザのスペースや設置の手間、コストなどの低減ニーズに応えることにつながります。

今後の展望

今後は、より多くのユーザとつながる量子アクセスネットワークの検証や、量子暗号鍵の配信速度の向上を進めると共に、フィールド試験で有用性を確認することにも取り組みます。

※本件研究成果の一部は、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「セキュアフォトニックネットワーク技術の研究開発」により得られたものです。