ナノ材料・デバイス
信頼性が高く、紙のように軽量・薄型のシートディスプレイの試作~プラスチック基板上に200℃で高信頼性酸化物半導体TFTを形成~
2011年5月
概要
当社は、液晶テレビなどで用いられるアモルファスシリコンの10倍以上の高い信頼性を有する酸化物半導体薄膜トランジスタ(TFT)を200℃でプラスチック基板上に形成し、ゲートドライバ回路内蔵の3型有機ELシートディスプレイを試作しました。従来のガラス基板(※注1)の約10分の1の軽さ、7分の1の薄さを実現しています。この軽量で紙のように薄いシートディスプレイは、タブレット端末などのモバイル機器のさらなる軽量化・薄型化とともに、ポスターのように壁に貼ることができるテレビの実現など、従来のディスプレイの利用シーンを大きく変える可能性があります。
背景
当社は、シートディスプレイの画素駆動素子として、比較的低温で形成でき、有機ELへも適用可能な酸化物半導体TFTに注目しています。TFTの信頼性が低いと、コントラスト低下や残像といった表示上の問題が生じるため、信頼性を確保する必要があります。2010年12月に、ガラス基板上に320℃で世界最高レベルの駆動信頼性を有する酸化物半導体TFTを開発しました。ただ、TFTの形成温度が低くなればなるほど信頼性が低下するため、プラスチック基板上に低温で形成したTFTの信頼性を確保することが、シートディスプレイの実用化に向けた大きな課題となっていました。
特長
今回、ガラス基板上で培った高信頼性酸化物半導体TFT技術をプラスチック基板上へ展開しました。低温で形成した酸化物半導体TFTの信頼性と、成膜および熱処理する際の成膜パワー、ガスの種類、圧力、温度などとの相関関係を見出し、TFTの形成条件を最適化した結果、プラスチック基板上に200℃で形成した酸化物半導体TFTの駆動による特性変動を抑制することができました。バイアス温度ストレス(BTS(※注2))試験(ゲート電圧±20V、70℃、2,000秒)前後での閾値電圧変動量を0.3V未満とし、液晶テレビ等で用いられるアモルファスシリコンの10倍以上の信頼性を実現しています。なお、チャネル材料にはアモルファスIGZO(酸化インジウム・ガリウム・亜鉛)を用い、高画質な映像を実現するために高い値が必要となるキャリア移動度は、11.6cm2/Vsを確保しました。今回開発したシートディスプレイは曲げることも可能で、最小曲率半径は約1cmです。
今後の予定
今後は、プラスチック基板上に形成した酸化物半導体TFTの信頼性をさらに向上させるとともに、量産化技術の開発などを進め、プラスチックを基板とした軽量・薄型のシートディスプレイの実用化を目指します。なお、本成果は2011年5月にアメリカ・ロサンゼルスで行われたSID(※注3)にて発表しました。
注1:当社が2010年12月1日に発表した「世界最高レベルの駆動信頼性を有する酸化物半導体TFTの開発について」で用いたガラス基板と比較。
注2:BTS:Bias Temperature
Stressの略。トランジスタの駆動信頼性を評価するための試験。ある温度条件でゲート電圧を印加し続けるストレス試験により、トランジスタの閾値電圧が変動する。閾値電圧の変動量が信頼性の指標であり、変動量が小さいほど信頼性が高い。
注3:SID:Society for Information Displayの略。ディスプレイ分野における最大の国際会議。