カスハラ対応が企業の義務に。企業に求められるハラスメント対策とは
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号。以下「改正法」という。)が2025年6月11日に公布され、1年6か月以内に施行されます。
改正法のうち、ハラスメント対策の強化として近年問題となっている「カスハラ」の防止のために企業に対し、必要な措置をすることが義務付けられることになりました。
具体的にどのような対応が求められるのか確認しておきましょう。
【著者プロフィール】
北條 孝枝 ほうじょう たかえ
株式会社ブレインコンサルティングオフィス / APブレイン社会保険労務士事務所
社会保険労務士 メンタルヘルス法務主任者
略歴・経歴
会計事務所で長年に渡り、給与計算・年末調整業務に従事。また、社会保険労務士として数多くの企業の労務管理に携わる。
情報セキュリティについての造詣も深く、実務担当者の目線で、企業の給与、人事労務担当者へのアドバイスや、業務効率化のコンサル等に取り組むとともに、実務に即した法改正情報、働き方改革などの企業対応に関する講演も多数行っている。
カスタマーハラスメント対策の強化
雇用管理上の措置を義務化するにあたり、カスタマーハラスメントの定義として、以下の3点のいずれをも含むものと示されています。
1. 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと
・「顧客」には、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含むと考えられる
・「施設利用者」とは、施設を利用する者をいい、施設の具体例としては、駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等が考えられる
・「利害関係者」は、顧客、取引先、施設利用者等の例示している者に限らず、様々な者が行為者として想定されることを意図するものであり、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等、事実上の利害関係がある者も含むと考えられる
2. 社会通念上相当な範囲を超えた言動であること
・権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は、手段・態様が相当でないものが考えられる
・「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の判断については、「言動の内容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断することが適当であり、一方のみでも社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得ることに留意が必要である
・事業者又は労働者の側の不適切な対応が端緒となっている場合もあることにも留意する必要がある
・「社会通念上相当な範囲を超えた言動」、また、性的な言動等が含まれ得る
3. 労働者の就業環境が害されること
・労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味する
・「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当である
・言動の頻度や継続性は考慮するが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があり得る
上記のほか、以下のようなことが指針等で示されます。
・正当なクレームであれば、カスタマーハラスメントには当たらないこと
・障害者差別解消法に基づく合理的な配慮の提供義務を順守する必要があること
・セクハラ防止指針に倣い、他の事業主から必要な協力を求められたことを理由として、その事業主との契約を解除する等の不利益な取り扱いをすることは望ましくないこと
・他の事業主から協力を求められた場合、必要に応じて事実確認等を行うにあたり、自社で雇用する労働者に不利益取り扱いをしないことを労働者に周知し、実際にカスタマーハラスメントをしていた場合は、就業規則に基づき適正な措置を講ずることが望ましいこと
義務化で企業に求められること
具体的な内容は、今後、指針で示されることとなっていますが、現段階(執筆時点2025年8月)では、下記の3つが挙げられており、具体的な内容は、今後、指針で示されることとなっています。
・事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・相談体制の整備・周知
・発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置
対策している「つもり」では何も変わらない
多くの企業がハラスメント防止を掲げ、マニュアルを作成し、研修も年に一度は実施していることと思います。問題はその実態です。従業員アンケートでは「相談したけど、何も変わらなかった」、会社としては、周知しているはずなのに、相談窓口があるのか分からない、メールなのか電話なのか、どのように相談したらよいのか分からないという結果になることもよくあります。
また、研修も「年1回受けたら終わり」というスタンスでは、職場の空気は変わりません。
実効性のあるハラスメント対策に必要なのは、組織としてどれだけ「人を大切にする姿勢」を持てるかどうかです。
誰もが、気づかぬうちに行為者にも被害者にもなりうるという自覚をもつこと。そして、「うちの職場は大丈夫」と思った瞬間こそが、最もリスクの高い状態だという意識をもつこと。この両方が、真にハラスメントのない職場づくりの第一歩になります。
「ビジネスと人権」に注目が集まっている今、整えた体制を実効性があるものになるよう、自社の対策や実情を再検討する機会にしていきたいものです。

