DX人材の育成について、課題とその解決策とは


日本はDXが遅れている、と言われて久しいですが、企業や自治体などでDX人材育成に携わっておられる方々は今、一筋縄ではいかない複合的な課題に悩まされながら業務に邁進されていることと思います。

ここでは国内のDXの進捗状況を振り返りながら、DX人材育成のポイントを少し皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

目次


1.国内のDXの遅れとその原因

2.日本の現在地とその課題

  ①技術的課題

  ②人財的課題

  ③組織・文化的課題

 

1.国内のDXの遅れとその原因


欧米の先進国と異なり、国内でDX推進がこれほどまで叫ばれている背景には主に三つの理由が挙げられます。

●グローバル市場における企業間競争の激化への対応

  DXが進む欧米企業がIT企業の躍進により大きな経済成長を遂げる中、日本企業が国際競争力を維持・向上させる

  ためには同様なDXが不可欠

●レガシーシステムの老朽化対策(所謂「2025年の崖」問題)

  DXを急がねば企業の存続に関わる、「2025年の崖」問題があります。これは単なる戦略的選択ではなく、回避すべき

  ビジネスリスクであり最悪の場合年間最大12兆円もの経済的損失が生じる可能性があると言われています*1。

●少子高齢化に伴う労働人口の減少への対応

  DXによる業務効率化が待ったなしの状況です。

 

2.日本の現在地とその課題


それでは、国内でのDXの現状はどうでしょう?結果的には、技術、人材、組織・文化の三つの側面において、複合的な課題に直面していると言えます。

①技術的課題

まずはレガシーシステム刷新の困難さです。多くの企業は複雑化・巨大化した既存システムに依存し、これらは通常ビジネス知見やデータを含んでいて単純なシステム置き換えが困難です。これにより新しい技術やビジネスニーズへの対応の遅れ、企業のイノベーションや効率化が阻害され、結果として企業の経営戦略とIT戦略の間に乖離が生じています。

 

 

②人材的課題

高度なスキルを持つDX人材の市場競争は激化しており、DX人材の量と質の不足は深刻です。そして多くの企業ではDX人材の育成・評価制度が未整備です。DX推進に必要なスキルやそのレベルが定義できていない、または採用したい人材のスペックが明確でないと回答する企業が約4割に上ります*2。またDX先行企業であっても学びを促進するコミュニケーションや、評価・報酬に紐づく人事制度の整備が十分ではない状況が見られます。これにより、従業員のリスキリングの動機付け不足が生じており、トレーニング機会や時間確保の課題に加え、個人がデジタル領域の学習に必要性や興味を感じにくい状況が、デジタル人材層の拡大を妨げています。

 

 

③組織・文化的課題

DX推進は技術や人材の問題だけでなく、組織全体、特に企業文化・風土の変革が必須です。経営層がDXの本質を理解し全社的な変革を強力に牽引する必要があります。また、DXは業務プロセスやビジネス全体の大規模な変革に取り組むため、部門間の連携不足や変革への抵抗が生じやすい傾向があります。従来の働き方や思考様式からの脱却には痛みが伴うため、企業文化そのものを変革していく必要性が指摘されています。

 

 

これらの課題はそれぞれが独立しているのではなく、相互に絡み合い、負の連鎖を生み出しています。例えば、レガシーシステムがDXを阻害し、その刷新にはDX人材が必要ですが、その人材が不足している上に、経営層のコミットメントや組織文化がその育成・定着を妨げているといった具合です。

 それでは、企業を含めた我々はどのようにこれらの課題を解決していけばよいのでしょうか?これについては次編でお話ししたいと思います。

 

 


*1 「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(経済産業省・IPA 2025年5月28日発表)

*2 「DX推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」IPA(情報処理推進機構)


【著者プロフィール】

田中 尚(たなか ひさし)

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部
エキスパート

略歴・経歴
1984年株式会社東芝に入社。1998年よりエンタープライズ向け人事給与ソリューションGeneralistシリーズの開発リーダを経て、2003年より事業推進リーダ、責任者として事業に

従事。また2021年よりこれまでの経験を元に、DX人材育成のためのワーキンググループ
DSMパートナーズ(デジタルスキルマップ)を立上げ活動、現在に至る。

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