2025年度税制改正で年末調整・給与計算はどう変わる?実務担当者としておさえておくべきポイント


2025年度の税制は、「年収の壁」の引き上げ、大学生年代の子を扶養対象にできる条件の変等の大きな制度改正がなされました。加えて社会保険でも「130万円の壁」についても、大学生年代の健康保険の被扶養認定の条件が2025年10月に変更される予定です。企業の実務への影響と対応のポイントについて、株式会社ブレインコンサルティングオフィス/APブレイン社会保険労務士事務所 社会保険労務士 メンタルヘルス法務主任者の北条孝枝氏より解説します。

【著者プロフィール】

北條 孝枝 ほうじょう たかえ

株式会社ブレインコンサルティングオフィス / APブレイン社会保険労務士事務所
社会保険労務士  メンタルヘルス法務主任者

略歴・経歴

会計事務所で長年に渡り、給与計算・年末調整業務に従事。また、社会保険労務士として数多くの企業の労務管理に携わる。

情報セキュリティについての造詣も深く、実務担当者の目線で、企業の給与、人事労務担当者へのアドバイスや、業務効率化のコンサル等に取り組むとともに、実務に即した法改正情報、働き方改革などの企業対応に関する講演も多数行っている。

2025年度の税制改正の概要


2025年度の個人所得税の改正の目的は主に2点あります。

  ①物価上昇(H7~R5にかけて20%上昇)への対応
  ②労働力人口不足の解消に、学生・短時間労働者の就業調整への対応

上記①②を踏まえ、以下の改正がされました。

  ①への対応
   ・所得税の基礎控除を最高10万円引き上げ、48万円から58万円に(合計所得2350万円以下)

  ②への対応
   ・給与所得控除の最低保障額を10万円引上げ、55万円から65万円に(給与の収入額190万円以下)
   ・大学生年代(19~23歳未満)の子の親への特別控除の創設
     子の給与収入が、 150万円以下→63万円
     子の給与収入が、 150万円超 →控除額が段階的に逓減(188万円超で控除額はなし)

 

「税の壁」と「社会保険の壁」の注意ポイント


2025年の税制改正後の「年収の壁」は、下記の表のように整理できます。

「年収の壁」と言いますが、「税」と「社会保険」では、対象とする「収入」は同じではありません。
 ・「税」で対象とする収入
  課税収入(給与以外の事業や退職金も含む)、通勤手当等の非課税収入は含まない

 ・「社会保険」で対象とする収入
  通勤手当・健康保険の給付金・雇用保険の給付金等の非課税収入も含む

この違いにより、「税」では扶養対象になるものの健康保険(社会保険)では扶養対象にならないケースがあります。特に、2025年の税制改正で創設された特定親族特別控除の目的が、大学生年代の就業調整への対応であることから、19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)の健康保険の被扶養者の認定条件は、2025年10月1日から年収150万円未満として取り扱うことが予定されています。(2025年5月27日現在)

年末調整や社会保険の手続きで間違いがないように注意しましょう。

 

2025年の年末調整


改正法は、2025年度分の所得税について適用されますが、2025年については、12月の最終の給与(賞与)での年末調整で改正法に基づいて所得税を確定することになっています。

 年の途中での退職者については、改正前の税制で源泉徴収した結果の源泉徴収票を発行します。2025年については、税制改正への対応は年末調整のみとなります。

 

 

2026年での対応ポイント


2026年の月々の給与・賞与等では、2025年改正を反映した「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて所得税の源泉徴収をします。2025年は、年末調整のみで対応する特定親族特別控除について、所得の見積額が100万円以下であれば、2026年からは、給与・賞与の計算の都度、源泉対象親族としてカウントできるというものです。そのため、2026年の扶養控除等異動申告書には、特定扶養親族に加え、特定親族も記載され、所得の見積額についての確認が必要になります。

 その他、1年限りの時限措置として、23歳未満の扶養親族を有する場合の生命保険料控除額の計算方法については、控除額の合計12万円は変わらず、一般生命保険料控除額を4万円から6万円に引き上げることや、子育て世代が2025年中に居住した住宅借入金控除の特別措置が2026年の年末調整に影響してきます。

 また、2026年1月1日以降に支払う退職金について、源泉徴収の計算方法と提出範囲の変更がありますので、退職金の支払いを予定している場合は、確認しておきましょう。

 

 

おわりに


給与・年末調整のご担当者は、税・社会保険のそれぞれの「壁」の要件をおさえ、従業員の方からの問い合わせに対応できるよう準備しておく必要があります。

 2025年は、年末調整で特定親族特別控除申告書が新たに追加となり、現行の申告書と兼用になり様式変更がされます。また、源泉徴収票も記載項目が増えることで様式変更が確定しています。

財務省・国税庁からは、給与計算や年末調整での源泉徴収についてのパンフレットやQ&Aが随時公開されることになっています。新たな控除の創設もあり、実務対応で不明な点がないよう、情報収集をしていきましょう。

(ご参考)
国税庁HP:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm

財務省パンフレット: 「令和7年度税制改正」(令和7年3月発行)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei25.html


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