本コラムでは、企業研修の最新トレンドと実践事例を通じて、社員のスキル向上と組織力の強化を目指した教育施策をご紹介します。近年、働き方の多様化や技術革新、市場環境の変化により、企業に求められる人材育成のあり方も大きく変化しています。従来の集合型研修に加え、オンラインやハイブリッド、自律学習など、研修スタイルの多様化が進む中で、現場で活用できる具体的な手法を探っていきます。皆様の企業における人財育成の一助となれば幸いです。

企業研修のトレンド


企業研修は、単なる知識習得の場ではなく、組織の未来を支える人材育成の戦略的手段です。業務に直結するスキル向上だけでなく、将来必要とされる人材像から逆算した成長設計にも関わります。また、研修は社員の意識改革にも寄与し、考え方や価値観に働きかけることで、行動様式の変化を促します。さらに、企業文化の醸成や価値観の共有を通じて、組織力の強化にもつながります。現代の急速な変化に対応するためには、社員が学び続ける姿勢を持つことが不可欠であり、研修はその文化を育てる装置でもあります。つまり、企業研修はスキル習得だけでなく、経営と人材をつなぐ橋渡しであり、組織の成長を支える重要な基盤なのです。この10〜15年で研修の「かたち」も大きく変化しました。かつては集合型の対面研修が主流でしたが、コロナ禍をきっかけにオンライン研修へと急速にシフト。現在では、対面とオンラインを組み合わせた「ハイブリッド型」が主流となっています。ハイブリッド型が主流になったことにより、柔軟性・効率性・アクセス性が向上しました。

また研修形式の多様化も進んでいますが、目的に応じて研修形式を使い分けることが、効果的な研修を作るカギになります。インプットにはeラーニング、アウトプットには対面、継続には自律学習といった感じです。

研修の効果については、2023年の調査データが示す通り、研修後にフォローアップがある場合、業務への活用率は82%、成果創出率は73%と非常に高くなります。一方、研修のみではそれぞれ31%、30%、研修なしでは9%と低くなります。つまり、研修の有無だけでなく、その後の支援設計が成果に大きく影響することが明らかになっています。フォローアップには、1on1の振り返り、プロジェクト参加、ナレッジ共有会、eラーニング補完、メンターからのフィードバックなどが含まれます。こうした背景を踏まえ、2025年の企業研修トレンドとして注目されているのが以下の4つです。

1.マイクロラーニング:短時間・高頻度の学習スタイル。5分程度の動画やスマホでの確認テストなど、日常業務に自然と学びを組み込める仕組みが好まれている。

2. AIによるパーソナライズ学習とスキルギャップ分析:社員の職種や目標に応じて、AIが最適な学習コンテンツを提案。スキルの可視化により、効率的な学習が可能になる。

3. LXP(ラーニングエクスペリエンスプラットフォーム)の活用:従来のLMSが管理中心だったのに対し、LXPは学習体験を重視。社員が自分に合った学びを選べる環境を提供する。

4.自律的・継続的な学習支援:オンデマンド教材の整備、学習履歴の可視化、キャリア面談との連動などにより、社員が学び続ける文化を育む。

教育アプローチの設計と評価


研修をどう設計し、どう実行するかという観点からお話しします。

研修をどのように設計するか

研修を成功させるうえで重要なのは、しっかりと目的を定め、現場との接続を意識しながら、一貫性のある設計をすることです。

【研修設計のステップ】

1. 目的設定
企業の経営戦略や人材育成方針と連動させて、「なぜこの研修を行うのか」「どのような成果を期待するのか」を定義

2. 対象者分析
対象者の職種・階層・スキルレベル・学習スタイルなどを分析し、最適な研修内容や形式を設計するための基礎情報を収集

3. コンテンツ設計
学習目標に基づき、教材(動画・資料・演習など)や形式(集合・オンライン・ハイブリッド)を選定

4. 実施
研修当日の運営(講師手配、会場準備、システム設定など)を行い、受講者がスムーズに学べる環境を整える

5. 効果測定
アンケート、テスト、行動変容の観察、業績指標などを用いて、研修の効果を定量・定性の両面から測定


【効果測定について】

研修の効果測定をどのように行うかについて、代表的なフレームワークをご紹介します。

まずご紹介するのが、「カークパトリックモデル」です。
これは、研修の成果を4つのレベルで段階的に評価する方法で、最も広く知られているモデルの一つです。

レベル1:反応(Reaction)
 → 受講者の満足度や印象。研修に対して“よかったか”“理解しやすかったか”などを測定します。
  アンケートや即時の感想などが使われます。

レベル2:学習(Learning)
 → 研修を通じて、どれだけ知識やスキルを習得できたか。
  確認テストやワークの成果、振り返りシートなどで評価します。

レベル3:行動(Behavior)
 → 職場に戻った後、受講者が実際にどのように行動を変えたか。
  上司の観察や1on1でのフィードバック、業務レポートなどを活用します。

レベル4:結果(Results)
 → 研修によって組織全体にどのような成果が生まれたか。
  生産性向上、売上増加、品質改善、離職率低下など、定量的な成果指標で測定します。

このように、単なる“満足度”だけでなく、“学び”“行動”“成果”までを包括的に捉えることができます。

そして、もうひとつご紹介したいのが、フィリップスのROIモデルというものもあります。これは、カークパトリックの4段階に“レベル5:ROI 投資対効果”を加えた評価法です。『この研修にかけたコストに対して、どれだけリターンがあったか』を数値で算出するものです。たとえば、研修によって新規案件の獲得件数が増えたとか、業務効率が向上して時間コストが削減された、というようなケースですね。ROI(Return on Investment)は経営視点での評価にもつながるため、研修の“戦略的価値”を示すうえで有効です。

この二つ以外にも効果測定の方法はありますが、大事なのはしっかりと効果測定を行うこと、やって終わりにしないことです。

なぜ今、教育体系の見直しが必要なのか

 単に『今の研修が古くなってきたから』ではありません。
企業を取り巻く環境や働く人の価値観が大きく変化していることが背景にあります。

【教育体系の見直しが必要な理由】

①環境変化への対応力強化

市場の変化、テクノロジーの進化、働き方の多様化など、企業を取り巻く環境は年々スピードを増しています。
こうした変化に柔軟に対応できる人材を育てるためには、教育体系自体が変化対応型であることが求められます。

一度つくった仕組みを数年単位で更新するのではなく、常に現場やビジネスと接続しながら、柔軟に見直せる設計が必要です。

②社員のキャリア志向の多様化

最近では、年功序列や画一的なキャリアパスではなく、一人ひとりの価値観やライフスタイルに応じた多様なキャリア像が求められています。

にもかかわらず、教育体系が“一律の研修”であると、現場とのギャップが広がります。
キャリア段階や職種、本人の志向に応じた、選択肢のある学びの仕組みが必要です。


③学習の主体性

従来は『会社が研修を与える』という考え方が一般的でしたが、
今後は『社員が自ら学ぶ』ことを支援する仕組みが必要になります。

つまり、受動的な研修から、自律的に学び続ける文化への転換です。

たとえば、自分のタイミングで学べるオンデマンド教材や、日常業務の中で学びを深められるような“仕掛け”が、これからの教育体系の鍵になります。


④人材育成と経営戦略の連動

教育体系は単なる“人事の仕事”ではなく、企業全体の未来像とつながっているべきものです。

たとえば、ある企業が“グローバル展開”を目指すのであれば、語学力や異文化対応スキルの習得が重要になりますし、
デジタル変革を掲げる企業であれば、ITリテラシーやデータ活用スキルが不可欠です。

つまり、教育体系は戦略を実行するためのインフラであり、組織の未来を支える柱とも言えます。

こうした背景から、今の時代に合わせた“柔軟かつ個別性のある教育体系”が求められているのです。

事例紹介


できる人材を育てるには、単に知識を与えるだけでは足りません。では、何がその壁を越えさせるのか?企業研修の現場を見ていると、できるに変わるには「実践の場がある」「フィードバックがある」「目的が明確」「成長が見える」「成長の実感」といった共通点があります。このように、できるに変わる瞬間は、学びと実践がつながったときに生まれます。そしてそのためには、研修をただの“知識提供”ではなく、“体験”として捉えることが重要です。

事例①:リーダーシップ研修(トップダウン型)

トップダウン型のアプローチを用いた、リーダーシップ研修の事例です。この企業は、情報通信業で、従業員数は約800名ほど。中堅社員の離職率の高さと、管理職層のリーダーシップ不足が大きな課題となっていました。そこで経営層と人事部門が主導し、次世代の管理職候補を育成するための選抜型研修をスタートしました。

成功のポイントは、トップダウンによる明確な期待設定と、研修と業務をしっかり接続させたことです。さらに、フィードバック体制の構築や、定期的な振り返りの仕組みも機能しました。このように、“座学→実践→フィードバック→再実践”のサイクルが回ることで、受講者が“できる”と実感できる場面が生まれたんです。

事例②:DX人材育成(ハイブリッド型)

“ハイブリッド型”のアプローチを採用したDX人材育成の取り組みです。この企業は、製造業で従業員数は約1,500名。近年、業務プロセスのデジタル化を急速に進めていて、社内にDX推進部門を新設するなど、本格的な変革に取り組んでいました。

印象的だったのは、“学びが業務に直結する設計”によって、受講者の行動が変わったこと。たとえばある受講者は、AIツールを自部署の業務に取り入れ、その改善成果を社内で発表。これが部門内だけでなく、経営層にも評価され、実際の業務改善につながったという好例となりました。この成功を支えたのは、学習テーマと業務課題を連動させた構成、成果発表や社内承認といった“評価と承認の仕組み”でした。これが、受講者のモチベーションを大きく引き上げました。従来は“汎用的なIT知識の習得”が中心でしたが、この企業ではそれをやめて、“業務課題解決型のDX研修”へと大きく舵を切りました。また、ハイブリッド型の運用により、短期集中ではなく継続的な学びが実現できた点も、非常に効果的でした。

事例③:自律学習支援(LXP活用)

社員の自律的な学びを支援する仕組みづくりに取り組んだ企業の事例です。この企業はITサービス業で、従業員数は約600名。若手社員の自律性や提案力を重視しながら、一方で中途採用者の教育に課題を感じていました。

この事例の成功を支えたのは、学習の“見える化”と“キャリア支援の連動”です。『学んだだけ』では終わらせず、それを評価や育成にきちんと反映させることで、社員一人ひとりにとって“意味のある学び”として定着していきました。また、従来の集合研修から、時間や場所に縛られず、社員が自律的に学べる環境へと転換したことも非常に大きな変化でした。

教育体系の見直しのヒント Generalist e-University®で実現する新しい教育


Generalist  e-University®には、3つの大きな特徴があります。

①生成AIによるパーソナライズ学習の仕組み

Generalist e-University®では、AIが学習者に最適な教材を自動提案する機能を搭載しています。
受講者の職種・レベル・過去の履歴などをもとに、今この人に必要なコンテンツをレコメンドしてくれるため、 たとえば同じDX研修でも、営業担当にはビジネスモデル中心、 技術部門にはAIやデータ分析を中心に、といった形で学びを個別最適化できます。

②ポイント制による教材選択

学習意欲のある社員には、ポイントを多めに付与するなどの調整が可能で、 自ら“興味のあるテーマ”を選んでどんどん学べるように設計されています。これにより、やらされる研修ではなく、自分から選ぶ学びが実現できるのが特徴です。

③豊富な教材ラインナップ

教材ベンダーの垣根を超えた700点以上のコンテンツにすべてアクセス可能で、 ビジネススキル、リーダーシップ、DX、AI、財務など幅広いニーズに対応できます。一律の研修では対応しきれなかった多様なキャリアや興味にも応えられる、まさに学びのインフラと言える仕組みです。

Generalist e-University®が提供する学習コンテンツは700点以上あり、テーマ・業種・階層を問わず、幅広い学習ニーズに対応できるようにしております。数が多いだけでなく、質や網羅性にもこだわっており、新任社員から管理職、DX推進リーダーまで、あらゆる層に“ちょうどいい学び”が見つかるようになっています。

このように、Generalist e-University®は単なる研修ポータルではなく、 社員の成長を自律的に支え、組織全体の学習力を底上げする仕組みです。ぜひ、自社の教育体系や戦略と照らし合わせながら、こういう仕組みがあれば現場も動くかもしれないという視点でご検討いただければと思います。

さいごに


これからの企業に求められるのは、“知識を得る”だけではなく、“行動できる人材”を育てる仕組みです。そしてそれを実現するためには、教育を単発のイベントではなく、継続的な仕組みとして設計することが鍵となります。

私たちがご提案している Generalist e-University® は、AIによるレコメンド、ポイント制、豊富な教材ライブラリといった機能を通じて、社員一人ひとりが自走できるよう支援する教育の土台をご提供します。

企業研修の最新トレンドと実践事例を通じて、社員のスキル向上と組織力の強化を目指した教育施策をご紹介し、教育体系の見直しが必要であると説明させていただきましたが、そのヒントとしてGeneralist e-University®をご活用いただければ幸いです。

『そろそろ自社の研修も、次のステージに進めたい』
『やりたいことはあるけど、仕組みが追いついていない』——
そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

【講師プロフィール】

2001年よりプログラマーとしてIT業界に参入。客先常駐や請負開発など、さまざまなプロジェクトを経験した後、2007年頃からeラーニング教材作成ツールの開発に取り組んでいる。さらに2009年からは、教材を配信するためのLMS(Learning Management System)の開発にも関わっており、現在も両分野において継続的に開発・運用を行っている。

現在は、Generalist®/LM 、 Generalist®/LW 、 Generalist e-University® などのGeneralist教育ソリューションの導入支援や提案活動に従事しており、企業や教育機関向けにeラーニング環境の構築を支援している。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
デジタルエンジニアリングセンター HRMソリューション部 技術担当

川橋 浩二

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