企業を取り巻く環境は、かつてないほどのスピードで変化しています。AI、IoT、クラウドなどの技術革新は、業務の在り方やビジネスモデルを根本から変えつつあります。
このような急速な技術の進化に備えるためには、学びやリスキリングに積極的で柔軟な従業員を育成しておくことが企業の成長と継続に不可欠です。変化に柔軟に対応できるスキルと知識を持つ従業員がいることで、企業はどんなイノベーションにも迅速に対応し、競争力を維持することができます。
本稿では、2025年4月に開催された社内セミナー「次世代の企業研修とは? ~これからの学習スタイルを紹介~」を題材に、企業研修の現状と課題、求められる新しい学習スタイル、それを実現する方法について、具体的な事例を交えながら紹介します。
人材育成に関わるすべての方にとって、本稿が今後の教育施策を考えるうえでのヒントとなり、企業の成長と従業員のキャリア形成の両立に貢献することを願っています。

企業研修の現状と課題 〜なぜ今、学びの再構築が必要なのか〜


企業を取り巻く環境は、技術革新と社会変化のスピードが加速する中で、従業員のスキルや知識のアップデートがますます重要になっています。
しかし、現実には多くの企業が人材育成に関して深刻な課題を抱えています。厚生労働省の調査によると、企業の約8割が人材育成に何らかの課題を抱えているという結果が出ています。特に多いのが「指導する人材の不足」「育成しても辞めてしまう」「育成の時間がない」といった問題です。 (図1: (出典)厚生労働省「令和5年度 能力開発基本調査」)人材不足、時間不足、やめてしまって再教育=時間、コストが倍かかる…と人材育成に必要な様々なリソースが不足している状態だとわかります。

図1:(出典)厚生労働省「令和5年度 能力開発基本調査」

一方、従業員側も「必要な能力を会社が考えていない」「必要な能力を会社が分かりやすく明示していない」「教育訓練の費用支援が不十分」「会社に人材育成や能力開発に関する方針がない」 (図2: (出典)独立行政法人労働政策研究・研修機構 「人材育成と能力の現状と課題に関する調査(労働者調査)」) といった不満を抱えており、企業と従業員の間には大きな認識のギャップが存在しています。このミスマッチを放置すれば、意欲ある人材が離れていくリスクが高まり、企業の競争力低下につながりかねません。

図2:(出典)独立行政法人労働政策研究・研修機構 「人材育成と能力の現状と課題に関する調査(労働者調査)」 (令和3年)

2025年1月に開催した当社セミナー に参加いただいた方に回答していただいたアンケート結果(図3:2025年1月28日開催 当社セミナーアンケートから人材育成の課題)から、「社員全体の意欲・スキルアップが進まない」「デジタルツールの活用が遅れている」「研修プログラムの不足・マンネリ化」といった具体的な課題があることが分かりました。これらの背景には、研修が一方通行でやらされ感が強いこと、学習時間の確保が難しいこと、教材の更新が滞っていることなどがあり、結果として研修の効果が低下し、企業全体の能力や生産性の停滞を招いています。
このような状況を打破するためには、企業が「人材育成に本気で取り組む姿勢」を示すことが不可欠です。従業員の成長意欲に応え、柔軟で効果的な学習環境を整えることが、これからの企業研修に求められる第一歩となります。

図3:2025年1月28日開催 当社セミナーアンケートから人材育成の課題

求められる新しい企業研修 〜Learning3.0への進化〜


前章[ 企業研修の現状と課題 〜なぜ今、学びの再構築が必要なのか〜 ]で述べたように、従来の企業研修は「意欲の低下」「デジタル化の遅れ」「マンネリ化」といった課題を抱えており、企業の競争力を維持するうえで深刻な障害となっています。では、これからの企業研修には何が求められているのでしょうか。

前述の3つの課題に対して、問題点も3つにまとめました。

  1. 投資対効果が低く感じる
  2. 従業員ニーズとのアンマッチ
  3. 研修内容の固定化

これらの課題は、単にeラーニングを導入するだけでは解決できません。むしろ、導入後の運用設計や学習者へのナビゲーションが不十分な場合、従業員の学習意欲を削ぎ、教育投資の無駄遣いになってしまうリスクすらあります。

新しい企業研修には、以下のような要素が求められています。

  1. コスパ・タイパの良い研修
  2. 柔軟な学習機会の提供
  3. パーソナライズされた学習体験

私たちは、これらを次世代のeラーニング「Learning3.0」 (図4:次世代のe-Learning) と名付け、AIを活用することで実現しています。

「Learning1.0」時代は集合研修しかなかった時代です。
集合研修は最も学習効果が高いといわれていますが、大きなコストがかかるため、費用対効果といった面では気軽に実施できるものではありません。
適切なタイミング、内容で実施し、ほかの学習方法と併用していくべきものでしょう。

「Learning2.0」はeラーニングが浸透していった時代です。
eラーニングは2000年ごろから一般化していっていきました。政府がe-Japan構想をうたっていたころで、インターネットの普及に伴い広まって、いまでは多くの企業で導入されています。しかしながら、eラーニングを導入するだけでは、期待した効果を出すことは難しいでしょう。

そして、いま私たちが進めているのが「Learning3.0」で、これはAIを活用した新しい学習スタイルです。
従業員の受講データや教材データについてAIを 使って分析、一人一人にパーソナライズした学習を提供しています。
教材は特定のベンダーにとらわれず、様々なベンダーの教材を活用でき、その中で最適化された教育プランを提供することで、費用対効果を最大化し、従業員に満足してもらえる学習を提供しています。

活用事例から見る企業研修の変革 〜AIによる学習の自走化と成果の最大化〜


前章までで述べた課題を解決するため、東芝デジタルソリューションズではGeneralist e-University®をご提案しています。Generalist e-University®の導入によって、企業研修の課題をどのように解決できるのか。ここでは、実際に導入した企業の活用事例を通じて、AIを活用した学習スタイルがどのような成果を生み出しているかを紹介します。

事例1 :DX推進部の立ち上げと自走化

とある中堅〜大手企業では、DX推進部を新設したものの、部門内の役割や期待値が共有されず、プロジェクトが PoC止まりになるなどの課題を抱えていました。Generalist e-University®を導入し、動画+ワークショップ形式で「DXとは何か/自社での役割」を共通理解させたうえで、AIによるスキル別研修を展開。結果として、DX推進部が社内で信頼される組織へと成長し、自走できる学習カルチャーが確立されました。

事例2 : IT企業のリスキリング研修

とあるソフトウェア開発会社では、技術トレンドへの対応が急務となる中、従業員のスキル格差や学習意欲のばらつきが課題でした。Generalist e-University®では、開発言語やクラウド技術などのスキル別コースをAIが個別に配信し、学習プランを最適化。これにより、即戦力エンジニアの育成と生産性向上が実現され、計画的な学習によってスキル格差も解消されました。

事例3 : 若手社員の離職防止とエンゲージメント向上

「成長実感がない」という理由での早期離職が増加していました。Generalist e-University®を福利厚生の一環として導入し、自由選択型の学習支援ツールとして展開。AIレコメンドによる興味関心に応じた教材提供により、自主的な学びが促進され、安心感と成長支援文化が定着。結果として離職率の改善に貢献しました。

事例4 :採用前の学生への教育提供

とある新卒採用を行う企業では、学生の企業理解が不十分なまま選考に進むケースが多く、志望度が上がらないという課題がありました。Generalist e-University®を活用し、インターンや説明会参加者に対してロジカルシンキングやビジネスマナーなどの教材を提供。AIレコメンドにより学生の興味に応じたコンテンツを提示することで、企業理解と納得感が高まり、選考移行率・内定承諾率の改善につながりました。

事例5 :入社前教育による即戦力化

とある新卒・中途問わず採用を行う企業では、入社前の不安やモチベーション低下による辞退が課題でした。
Generalist e-University®を使って、業界理解や業務基礎、希望職種に応じた学習を事前に提供。AIによる関連教材のレコメンドにより、学習の連鎖が生まれ、配属後の立ち上がりが加速。企業への期待感と帰属意識も高まりました。

Generalist e-University® コンセプト 〜AIが導く次世代の人材育成〜


企業の人材育成において、従来のeラーニングや集合研修では対応しきれない課題が顕在化しています。社員の学習意欲の低下、教材の選定の難しさ、コストの非効率性など、多くの企業が共通して抱える悩みに対し、東芝デジタルソリューションズが提案するのが「Generalist e-University®」です。

このサービスは、AIを活用したパーソナライズ学習を中核に据え、社員一人ひとりのスキルや関心に応じた最適な学習体験を提供します。単なるeラーニングの延長ではなく、「学びの自走化」を実現するための教育プラットフォームとして設計されています。

コンセプトの3つの柱

1.予算内で無駄なくポイント消費

 従来のID制では、全社員分のライセンスを購入する必要があり、利用率に関係なくコストが発生していました。
 Generalist e-University®では、ポイント制を導入することで、実際に学習した分だけコストが発生する仕組みを実現。
 余ったポイントは回収・再配分が可能で、柔軟な運用が可能です。

2.AIで楽々コンテンツ選び
 学習者の属性や理解度に応じて、AIが最適な教材をレコメンド。
 キーワード検索、AIレコメンド、類似検索の3つの検索モードを備え、学習者が迷わずに必要な教材にたどり着ける
 設計になっています。

3.最適なコンテンツがここで見つかる
 700点以上の教材を収録し、DX、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など、幅広い分野に対応。
 ベンダーの枠を超えた教材ラインナップにより、 学習の幅と深さを両立しています。

さいごに


企業研修のあり方は、今まさに転換期を迎えています。学びの文化が根付き、社員が自ら学び続ける環境が整えば、企業は変化の激しい時代にも柔軟に対応できる強い組織へと進化していくでしょう。今こそ、学びのあり方を見直し、未来に向けた人材育成の一歩を踏み出す時です。

一人一人にパーソナライズした学習を提供を実現するために、ぜひGeneralist e-University®をご活用ください。

【講師プロフィール】

2001年よりプログラマーとしてIT業界に参入。客先常駐や請負開発など、さまざまなプロジェクトを経験した後、2007年頃からeラーニング教材作成ツールの開発に取り組んでいる。さらに2009年からは、教材を配信するためのLMS(Learning Management System)の開発にも関わっており、現在も両分野において継続的に開発・運用を行っている。

現在は、Generalist®/LM 、 Generalist®/LW 、 Generalist e-University® などのGeneralist教育ソリューションの導入支援や提案活動に従事しており、企業や教育機関向けにeラーニング環境の構築を支援している。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
デジタルエンジニアリングセンター HRMソリューション部 技術担当

川橋 浩二

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