加速するデジタル化、そして激動する社会情勢などが相まって、製造業は従来のものづくり企業からの変革が求められている。これにアプローチすべく、東芝グループが推し進めているのが、スマートマニュファクチャリング事業の強化に向けた体制整備だ。詳細について、製造業向けのソリューションビジネスに長年携わり、現場の事情にも詳しい、東芝デジタルソリューションズおよび東芝インフラシステムズ取締役の甲斐武博氏に聞いた。

 ものづくりに携わる多くの企業は、製造業が直面する様々な課題に対応しつつ、顧客への製品やサービスの提供だけでなく、地球環境への貢献など新たな価値提供へ向けた変革を進めている。少子高齢化による働き手の減少と熟練者の退職という従来からの課題に加え、自然災害や地政学的リスクを想定したサプライチェーンの強靭化、生産活動におけるCO2排出量削減、製品ライフサイクルでのCO2排出量管理といった新たな課題も生まれている。

 企業がさらなる変革を進めていくにあたり、「デジタル技術の活用が一つの変革の鍵となりますが、それぞれの現場ではデジタル化に取り組んでいるものの、組織が硬直していて部門間でデータの連携が図られていなかったり、長年稼働している古い設備や機械をITシステムにつなげられなかったりと、変革の前段階で課題を抱えている企業も少なくありません。また、不確実性が高まる事業環境の変化を予測し対応できるようにすることや、様々な社会課題の解決に貢献していくことも求められるでしょう」と指摘するのは、東芝でスマートマニュファクチャリング事業を牽引する甲斐氏だ。

 では、どのような処方があるのだろうか。甲斐氏は「“腹落ち”さえすれば強い団結力を生み出せるのが、日本のカルチャーです。トップのリーダーシップのもと、さらなるデータ連携や見える化を進め、部門の壁を打破しながら意識の共通化を図っていくことで、次の変革に必要な行動変容が生まれてくると考えています」と述べる。

情報をつないで変化に強い体質を作る
スマートマニュファクチャリング

 さらなる変革を目指す製造業に東芝が提案するのが「スマートマニュファクチャリング」である。

 スマートマニュファクチャリングとは、工場のデジタル化を図るスマートファクトリーの考え方をバリューチェーンにも拡大するとともに、カーボンニュートラルの実現やエネルギーマネジメントといった新たな社会課題にも対応できるものづくりの形を指す。

 「東芝グループ自身がものづくり企業であり、多くの現場を持ち、実際に様々な変革を進めてきました。東芝グループでデジタルソリューション事業を担う東芝デジタルソリューションズが得意とする製造業向けソリューション『Meister シリーズ』などのデジタル技術に加え、インフラシステム事業を担う東芝インフラシステムズが得意とする産業用コンピュータやオペレーショナルテクノロジー(OT)と呼ばれる工場の制御技術、さらには東芝の生産技術センターが培ってきた高度な生産技術を提供できるのが強みであり、これらをソリューションやコンサルティングの形で包括的に提供して、お客様の変革を支援していきます」と甲斐氏は説明する。

― ものづくり企業としての実践経験・知見を用いて「スマートマニュファクチャリング」を提案 ―


ものづくり企業としての実践経験・知見を用いて
「スマートマニュファクチャリング」を提案


図1.東芝グループが提案するスマートマニュファクチャリング

 同社はスマートマニュファクチャリングの条件として、「すべての情報がデジタル化されている」、「すべての情報がつながっている」、「すべての情報が見え、活用されている」、という3つの要素を挙げる。これが結果として、「変化に強い、止まらない」、「正常・異常がすぐに分かる」、「人にやさしい」を実現するのだという。

 このうち、つながるという観点では、サイバー空間と現実世界とをつなげるサイバーフィジカルシステム(CPS)に力を入れている。「Meister Factory シリーズ」の中核的なソリューションの一つである、ものづくり情報プラットフォーム「Meister DigitalTwin」は、ものづくりの現場で起きていることをサイバー空間上に写像できるデータモデルを備えた統合データ基盤として顧客からの評価も高く、電子部品メーカーや自動車部品メーカーに採用されているという。また、現場のデジタル化を促進するソリューションのほか、サプライチェーン上の企業同士がつながるプラットフォームサービスも提供する。

 「製造業への提案やソリューション提供を強化するために、東芝デジタルソリューションズと東芝インフラシステムズは両社それぞれにスマートマニュファクチャリング事業部を2023年4月に新設しました。製造業の現場から経営まで企業活動全体のデジタル化実現に向け、データ収集、可視化、自動化に加え、戦略立案・実行までのトータルサービスをワンストップで提供していきたいと考えています」(甲斐氏)

Meister シリーズや産業用コンピュータで
データ収集から活用までトータルにサポート

Meister シリーズや産業用コンピュータで
データ収集から活用までトータルにサポート

 東芝グループのスマートマニュファクチャリングを実現するソリューションからいくつかを紹介しよう。

 先ほども挙げた「Meister DigitalTwin」は、つながる工場を実現してものづくりプロセス全体のリアルな状況把握とマネジメントを強化するソリューションである。工場や工程ごとに使われている異なるシステムも含め、現場で発生する多種多様な情報の統合、可視化、および活用を実現する、ものづくり統合データ基盤と考えればいいだろう。

 「現場から上がってくるデータだけを対象にした見える化や分析だけではなく、生産計画、BOM、製造指示などのビジネスデータとひも付けて時系列に蓄積し、生産計画と実績のリアルタイムな予実管理や生産計画の精度を高めることができるのが、当社のソリューションの特長です」と甲斐氏は説明する。

 さらに、自社や関連会社の工場間をつなぎ、横断してボトルネックの把握や生産影響度の確認など製造プロセス全体の最適化を実現する。

― 分散した多種多様なデータを関連付け、
ものづくりプロセス全体を最適化 ―


分散した多種多様なデータを関連付け、
ものづくりプロセス全体を最適化


図2. つながる工場を実現してものづくりプロセス全体のマネジメントを強化する「Meister DigitalTwin」

 また、現場のデジタル化ソリューションとして、人の動きや作業を定量化する「現場作業見える化パッケージ」、旧型設備の操作の自動化・遠隔化を実現する「設備あやつり制御パッケージ」、良品画像のみで学習して検査を自動化する「AI画像自動検査パッケージ」が用意されている。

 CPSの実現で重要になるのが、現場で発生するデータの収集・分析である。ソフトPLCを搭載したエッジ向けスマートコントローラ「typeCP」のほか、膨大なデータのAI分析にも応える高性能な産業用サーバ「FS20000R model 200/100」、クラウド環境でPLCのエンジニアリングやシミュレーションが利用できる「nV-Toolsクラウド」などのソリューションも展開する。

 製造業のバリューチェーンにおいては運用や保守も重要である。納入した設備・機器をリアルタイムに監視し故障に至る前のメンテナンスを可能にする設備・機器メーカー向けアセットIoTクラウドサービス「Meister RemoteX」は、従来のように製品を売って終わりではなく、ハードウェアの機能をソフトウェアで実現するソフトウェア・デファインドにより、売った後に育てていくサービスビジネスへの道も拓くことができる。

CO2排出量管理やサプライチェーン強靭化
新たな社会課題にも取り組む

 製造業にとって喫緊の課題になっているカーボンニュートラルに関しても、同社はソリューションを提供する。分散して設置された設備や機器を統合管理し、保全作業の効率化のほか、省エネ運転の推進やCO2排出量のモニタリング機能を備えるのが、工場・プラント向けアセットIoTクラウドサービス「Meister OperateX」である。

 また、もう一つの大きな課題であるサプライチェーンの強靭化に対しては、ものづくりに関わる企業をネットワークでつなぐサプライチェーン・プラットフォーム「Meister SRM ポータル」を提供する。2008年に販売を開始した戦略調達ソリューション「Meister SRM」はバイヤーとサプライヤーとのコミュニケーション基盤を提供しており、二次以降のサプライヤーも含めると数万社のネットワークをカバーする。この「Meister SRM」と連携し、サプライチェーンを構成する企業同士をつなぐプラットフォーム上で様々なサービスを提供することで、サプライチェーンリスクの可視化や、サプライチェーンにおけるCO2排出量管理を進めているという。

― サプライチェーンの強靭化と
カーボンニュートラルの実現を支援 ―


サプライチェーンの強靭化と
カーボンニュートラルの実現を支援


図3.「Meister SRMプラットフォーム」を中核に、カーボンニュートラルの実現へ貢献

 「カーボンニュートラルの問題は製造業に限らず人類として取り組むべきことであり、サプライチェーンの強靭化も広い意味では社会貢献に当たると考えています。お客様の変革を加速するとともに、『人と、地球の、明日のために。』という東芝グループの経営理念に沿った未来につながるソリューションを提供していきたいというのが、私たちの思いです」と甲斐氏は説明する。

 東芝の総合力で製造業の変革をサポートとするスマートマニュファクチャリングソリューションは、これからも新たな価値を提供し続けることだろう。

記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです(2023年8月)。
この記事は日経クロステックSpecial(製造)に2023年9月15日~10月12日まで掲載されたものです。
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