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現場・企業・未来をつなげる東芝のスマートマニュファクチャリング事業(前編)

人手不足、熟練者の技術継承、既存設備の更新難。製造現場は、従来の現場改善の積み重ねだけでは、年々深刻化する課題に対応しきれない局面に入りつつあります。加えて、自然災害や地政学リスクなど予測が困難な事象に対するサプライチェーンの強靭(きょうじん)化や、脱炭素社会への転換が求められるなど、企業を取り巻く環境が複雑化しています。こうした状況の中で鍵となるのが、製造現場のデータや知見を分断せずにつなぎ、意思決定と改善のスピードを上げることです。今回は、製造業全体を俯瞰(ふかん)しながら、東芝のスマートマニュファクチャリング事業を技術面から牽引している技師長の岸原正樹が登場。製造業を取り巻く環境の変化と、当社のスマートマニュファクチャリング事業に対する考え方、事業の全体像について話を聞きました。
前編では、製造業が直面する課題とその捉え方を起点に、当社が掲げる「現場・企業・未来をつなげる」という考え方、そして製造業向けソリューションの全体像について取り上げます。

(後編はこちら


製造業を取り巻く「複合的な課題」の本質


―技師長として、製造業全体の課題を捉え、解決に向けた取り組みの支援を進めてこられた岸原さんの経歴を教えてください。

最初は、主に社会インフラ分野に向けた監視制御システムの開発を手掛けていました。具体的には、上下水道の監視、それからエレベーターや空調などの遠隔監視や遠隔保守をするシステムの開発です。こうしたシステム開発のさまざまな現場を経験した後、IoTシステムや製造業向けソリューションの開発推進を担いました。IoTシステムとは、設備や機器をネットワークにつなぎ、そこから得られたデータを活用して安全性や業務効率を高める仕組み全体をいいます。現在は、スマートマニュファクチャリング分野の技師長という技術の責任者の立場で、製造業の課題解決に貢献するためのソリューションやサービスの開発や推進に取り組んでいます。

 

―現在の製造業には、どのような観点での課題が顕在化しているとお考えでしょうか。

製造業全体を見渡すと、そこで生じている課題は、単一ではなく複数が重なり合っていることがわかります。なかでも大きく捉えて、「人」に関わる課題と「生産性」に関わる課題の二つが、根本的なテーマだと考えています。

まず、「人」に関わる課題です。少子化による若年層の人口の減少と団塊の世代(高度成長期世代)の高齢化により、労働市場を出る(引退する)人の数が、新たに入る人の数を大きく上回っています。加えて、多くの熟練者が定年を迎えることに起因し、これまで現場を支えてきた技術者たちの知見やノウハウをいかに次の世代につなげていくかが課題になっています。つまり、生産年齢人口の減少と技術の継承が、人に関わる大きな課題です。

次に、「生産性」に関わる課題です。ここでいう生産性は「付加価値労働生産性」を指し、一般に1人あたりや労働時間あたりに生み出される付加価値の高さをいいます。日本の製造業では、これまでも現場での気づきや工夫による改善(カイゼン)が日常的に行われ、良品率や業務効率の向上などの成果(価値)を出してきました。

しかし、こうした現場改善は部分最適にとどまり、国際比較で求められる生産性には遅れがあります。真の生産性向上には、データ活用を前提とした全体最適化が不可欠であり、そのためには設備の最新化や各種情報のデジタル化による環境の整備と、業務プロセスの抜本的な刷新を一体で推進する必要があります。ただし、設備の最新化には難しさもあります。製造の現場には長年使われてきた設備が多く、簡単には置き換えることができません。そのため、既存の設備を前提としながら、どこにデジタル技術を適用すべきか、デジタルトランスフォーメーション(DX)をどう進めるのかが、より重要になっています。現場の実態に即したかたちでデジタルを活用していくことが求められていると感じています。

 

―ものづくりを取り巻く環境に目を向けると、近年、地政学リスクなどによるサプライチェーンの不確実性が高まっています。また環境面では、GX※1やCFP※2といった新たな動きもあります。こうした外部環境の変化を、製造業としてどのように捉えるべきだとお考えでしょうか。

地政学なリスクについては、ここ数年にわたって指摘されてきました。製造業全体としても、海外生産一辺倒ではなく、国内回帰や生産拠点の分散といった動きも見られるようになってきています。資源の観点では、レアアースなどの供給不安を背景に、電子基板などを都市鉱山として再活用していくことも重要になっています。さらに直近では、政治的な動きや紛争リスクの高まり、関税の影響なども無視できません。今後は、こうした外部要因によるリスクを織り込みながら事業を継続できる仕組みづくりが、多くの企業にとってより重要になってくると考えています。GXやCFPといった環境対応については、LCA※3対応などの負荷が企業側にのしかかっています。これは単独の企業だけで完結させるのではなく、サプライチェーン全体でデータを連携し、取り組んでいくことが重要だと考えています。現時点では、省エネやCFP削減といった取り組みが中心ですが、今後はより広い範囲で、データを前提とした対応が求められていくでしょう。

※1 GX:Green Transformationの略。CFPやLCAの結果を活用し、社会・産業構造そのものを変革する国家・企業レベルの取り組み
※2 CFP:Carbon Footprint of Productの略。LCAの結果のうち「温室効果ガス排出量(CO2換算)」に特化した指標
※3 LCA:Life Cycle Assessmentの略。製品・サービスの「一生涯」における環境負荷を評価する手法

 

―グローバルでは、製造業においてもAIの活用が進み、AIを前提とした価値づくりが求められています。この点についてどのように見ていらっしゃいますか。

この1年の変化のスピードには驚いています。特にAIエージェントの進展により、「AIに何をさせるか」ではなく、社内の知見に基づいてAIに支援を受けながら「人が何を担うか」を考える局面に入ったと感じます。さらに、AIが、ソフトウェアの中だけで使われるのではなく、製品や設備と一体となって機能するケースも増えてきました。その一例が、自律協働ロボットのように、現場で人と協調しながら動く仕組みです。こうしたデジタルの知能が現場の設備や動きと結びついていく流れは、近年「フィジカルAI」とも呼ばれています。日本の製造分野においても、この考え方を実装レベルで捉えられるフェーズに入りつつあると感じています。


スマートマニュファチャリング事業理念と、「つながる」視点の3つのビジョン


―ここまで、製造業を取り巻く課題や技術動向について伺ってきました。それらを踏まえ、東芝では、スマートマニュファクチャリング事業を、どのような理念や考え方のもとで展開されているのでしょうか。

「デジタルで製造業を元気にする」はスマートマニュファチャリング事業を担う私たちのパーパス(存在意義)です。その背景にあるのは、デジタルの力によって「現場」「人」「企業」が持つ価値を最大限に引き出し、つながりや生産性、創造性、持続性に満ちた、活気ある製造業の未来を実現したいという考え方です。こうした考え方のもと、私たちは業務側のITデータと製造現場側のOTデータを起点に、AIやIoTといったデジタル技術を活用しながら、現場の知見と実装力を融合させることを重視してきました。データや技術だけでなく、東芝ならではの現場で培われてきた考え方や判断基準を価値として捉え、製造業の変革に貢献したいと考えています(図1)。

この考え方をもとに整理したのが、「現場がつながる」「企業がつながる」「未来へつなげる」という3つのビジョンです。製造業の課題は、個別の工程や企業単体では解決できないものが増えており、「つながり」を前提に捉え直す必要があると考えました。

まず「現場がつながる」という視点では、これまでサイロ化されがちだった製造現場のデータや人、設備をデジタルでつなぎ、現場全体を俯瞰できる状態をつくることが重要だと考えています。

次に「企業がつながる」という視点では、バリューチェーン全体を対象に、企業が単独で取り組むのではなく、他社と協力・協業をしながら、ものづくりを高度化していくことがポイントになります。サプライチェーンの強靭化や新たなビジネスモデルの創出も、こうした企業のつながりを前提に進めていく必要があります。

最後に「未来へつなげる」という視点では、GXやCFPへの対応を通じた環境面への配慮により、持続可能な製造業を次の世代につないでいくことを重視しています。


IT/OT領域を横断するスマートマニュファクチャリング・ソリューションを適材適所に


―それでは、東芝のスマートマニュファクチャリング・ソリューションが、どのような領域をカバーし、どのような考え方で構成されているのか、全体像を教えてください。

スマートマニュファクチャリングの推進においては「IT領域」と「OT領域」を横断しながら、現場・部門・企業をつなぎ、データを価値につなげていくことが重要になります。そこで当社は、この考えのもとスマートマニュファクチャリングの全体像を体系的に整理しました(図2)。

IT領域では、設計・開発、調達、生産、利用・アフターサービス、リユース・リサイクルといったバリューチェーンにおける各プロセスの高度化を支援します。重要なのは、各工程を個別に最適化するのではなく、データを起点にプロセス全体を見渡し、AIを含めたデータ活用により判断や改善につなげられる状態をつくることです。そのために、シミュレーションやデータの統合、現場データの活用などを組み合わせながら、業務と現場の接続を進めています。

一方、OT領域では、各々の製造現場における設備や制御の領域をカバーしています。流量計などの計測装置やリストバンド型センサーを通じて、製造現場の設備や作業者の状態を正確に把握し、安定、安全な運用を支えます。こうしたOT領域のデータをクラウドにつなげ、IT領域のデータと一体的に活用しAIによる高度な分析や改善に結びつけています。

このように当社では、ITとOTの両面で幅広い領域をカバーしていますが、これらをすべて一律に導入することを前提としているわけではありません。抱える課題や現場の状況は企業ごとに異なるため、それぞれの目的や成熟度に応じて、必要なところから段階的に適用していくことが重要だと考えています。

(後編はこちら。現場・企業・未来をつなげる東芝のスマートマニュファクチャリング事業(後編))

岸原 正樹(KISHIHARA Masaki)

株式会社 東芝
スマートマニュファクチャリング事業部 技師長


これまで上下水道向けの監視システムや情報システム、エレベーターや空調などの遠隔システムなど、さまざまなシステム開発の現場を経験。現在は、スマートマニュファクチャリング事業部の技師長として、製造業向けソリューションに関する開発投資を主導。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2026年7月現在のものです。
  • この記事に記載されている社名および商品名、機能などの名称は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。

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