「AIエージェント元年」ともいわれ、企業での実装が進み始めた2025年。AIエージェントは、ユーザーの目的の達成に向けて自律的に判断し、行動を支援する技術です。東芝デジタルソリューションズでは、このAIエージェントの技術を活用して、企業の「人事戦略の立案」を支援しています。予測困難なVUCA※の時代において企業の持続的な成長のためには、経営戦略に連動した中長期的な人事戦略が重要といわれています。しかしながら、その実現には多くの企業が課題を抱えています。当社では、これまで培ってきた人事や給与、人材育成を支援する人財管理ソリューション「Generalist」の信頼性に加え、複数のAIエージェントと対話しながら戦略の検討を深められる環境を提供しています。歴史上の人物や自社の有識者をモデル化したAIエージェントと「壁打ち」することで、視点の偏りを防ぎ、新たな着想を得るきっかけをつくります。
この記事では、これらのAIマルチエージェントとGeneralistが生み出す、人事戦略の高度化と人事業務の改革について紹介します。
※VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉。
VUCA時代に求められる人的資本経営と人事戦略の重要性
昨今、日本では労働力の減少が大きな社会問題になっています。2035年には384万人もの労働力が不足するという推計が出されている※ことからも、働き手が不足する事態への対応は、多くの企業が取り組むべき喫緊の課題です。また、経済的にはインフレが加速し、国際的には地政学リスクが高まるなど、国内外でさまざまな事象が発生しています。このような予測の困難な変化の激しいVUCAの時代において企業が持続的に成長していくためには、環境の変化に柔軟かつ素早く対応できることが必要です。また、それに適応できる「人」の確保も欠かせません。
※出典:パーソル総合研究所「労働市場の未来推測2035」
このような状況において、「人的資本経営」と「人事戦略」が注目されています。人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業の持続的な成長へとつなげる経営のことをいいます。一方の人事戦略とは、企業の経営目標の達成に向けて、必要なスキルを持った人材を適切に採用したり育成したり配置したりするための戦略です。人的資本経営を進めるにあたって、人事戦略を経営戦略に連動させることの重要性はわかっていても、その実現には課題を抱える企業が少なくありません。実情として、「経営戦略を基に人事戦略を立てるための専門的な知識が不足している」、「実行するための人材や予算の確保が難しい」、「何から始めればよいのかわからない」など、リソースやノウハウに関する課題がお客さまからも聞こえてきています。
東芝デジタルソリューションズは長年にわたり、人事や給与、人材育成など、企業の人に関する業務を支援する人財管理ソリューション「Generalist」を提供してきました(図1)。幅広い業種で、すでに累計9800社以上の企業で活用され、ライセンス(利用者)数は1000万を超えているソリューションです。※
※2025年9月時点の情報です。
Generalistで目指しているのは、企業の人事基盤を総合的に支え、その会社で働くすべての人に価値あるサービスを提供することにより、会社と個人のよりよい関係性を築くことです。経営層には人の価値を最大化して人的資本の可視化から人事戦略の立案までの支援を行い、人事業務を担う部門には、業務の可視化や共有、自動化により属人化を防ぎながら業務の効率化と高度化を図る仕組みを提供していきます。さらに従業員一人ひとりに対しては、企業が持つ多様な情報やサービスを提供し、たとえ退職した後でも継続して情報が活用できる仕組みを提供します。
この中で、人事戦略の立案と、人事部門における業務の効率化にAIエージェントを活用する取り組みを紹介します(図2)。
AIマルチエージェントと描く経営戦略を加速する人事戦略
昨今は、物価の上昇や国際情勢の不安定化などが重なり、企業における意思決定の難度が上がっています。場当たり的な対処では持続的な企業経営を維持することが困難になるため、自社の収益性や効率性、成長性、安全性といった経営の実態(経営指標)を踏まえながら中長期的な視点で経営戦略に連動した人事戦略を立てていかなければなりません。このような人事戦略の策定をAIエージェントにより支援します。
具体的には、ユーザーと複数のAIエージェント(AIマルチエージェント)が議論しながら戦略的な人事戦略を検討していくというものです。AIエージェント同士が議論することも可能です。インプットするのは、自社の経営戦略。経営戦略に基づき、個性の異なる複数のAIエージェントと「壁打ち」をして出てきた多様な意見から新たな気づきを得ることで、より洗練された人事戦略の立案に貢献します。
当社が準備している歴史上の人物や、人事コンサルタントなどに加え、ユーザー企業内の有識者の知見をペルソナ化してAIエージェントにすることもできます。ペルソナ化は、人物の特徴や価値観、行動特性、代表的な役割、話し方の例などのテキスト情報を基に、当社で行います。こうして準備されている中から、例えば、革新的な「信長」と臨機応変な「秀吉」と保守的な「家康」といった対照的な思考の特性を持つAIエージェントを選択することができます。これらと一緒に発散(オプション探索)と収束(実行計画化)を繰り返すことで、単一のAIエージェントでは得られない深度のある検討が可能になります(図3)。
議論した結果として、人財ポートフォリオの案や採用が必要な人数、育成の計画、具体的な施策などが自動的に整理され、提示されます。これらの情報を踏まえ、経営戦略に連動した人事戦略の立案に生かします。こうした人事戦略検討プロセスの実現に欠かせない、ペルソナの設計や対話の制御、論点を抽出する方法論などは、東芝の総合研究所との連携により磨きあげました。提案の根拠を明確にすることも重視して実装しています。
GeneralistとAIエージェントで人事業務を高信頼に自動化
労働力が不足する事態へ対応するために、人事部門の業務を効率化したり自動化したりすることも重要です。人材の発掘や給与の計算とチェック、勤怠処理、従業員の支援といった定型業務をそれぞれ専用のAIエージェントが担い、それらを協調して実行させるAIエージェント(AIオーケストレーション)によって、業務の生産性を大幅に高められるようにしていきます。これにより、最終的には給与業務における現在の業務工数の約6割をAIエージェントが担える状態を目指しています。
人事業務には、給与計算のように間違いが許されない処理が多くあります。このような処理は、すでにGeneralistの機能で対応済みです。当社が現在進めているのは、この実績ある正確性を担保できるGeneralistの機能を、AIエージェントで実行する仕組みです。例えば、AIエージェントの自動処理により、給与データの変動を検知して例外だけを抽出し、人が最終確認に集中できるようにします。締日や制度改定に合わせたスケジューラー運転、確認が必要な項目をためる例外キュー、そして処理した履歴を残す監査証跡なども連動させ、属人化の解消とBCP(事業継続計画)の強化に資するように設計しています。
Generalistには、現場で求められる業務を一気通貫で支えるための多様な機能を搭載しています。その価値を最大限に引き出すのが、AIエージェントです。人は目的や意図をAIエージェントに指示するだけで、複数の機能で成り立つ業務をスムーズに遂行できるようにする環境を整備しています。こうしてこれまで人手がかかっていた定型業務の負担を、AIエージェントで軽減していきます。
目指すは「社会の人事部」。人材の流動化で企業も個人も支える
私たちは、AIエージェントを活用して高度化したこのGeneralistで、「社会の人事部」を目指しています。これまで、人事データは企業だけに属するという考え方が主流でした。しかし今後は、個人のデータでもあるという考え方が重要になってきます。当社では、こういったデータを企業の中だけに閉じるのではなく、個人が自らのスキルや学習した履歴、実務の実績を安全に持ち運べる世界をイメージしています。個人が社内外を問わず新たな役割や環境で価値を発揮する際に、これまで活動してきた履歴や持っている知識やスキルの情報を、その人自身の「トリセツ」として活用できる世界です。
そのためには、社会や業界全体でスキルレベルの共通理解を持つことが重要です。当社では、「DSMパートナーズ」という団体を設立し、デジタルスキルの標準化を進めています。※ こうしたデータを活用するための共通のルールなどが整備され、世の中で普及していけば、企業の枠組みを超えた人材の流動化も可能になると考えています。スキルが標準化されれば、企業が求める人材像が明確になり、企業間で人材交流がしやすくなります。その結果、個人が期間限定で他社を支援するといった柔軟な働き方も実現します。これが広がれば、日本全体で労働力のシェアや最適な人材の配置が進むことも期待されます。もちろん、人材の流動化は各企業の制度にもよるため、簡単ではありません。しかしながら、個人主導のキャリア形成と、企業横断の学習や実務の機会がシームレスに接続される未来を見据え、当社はこれからもプライバシーとガバナンスに配慮した基盤づくりを進めていきます。
※DSM:デジタルスキルマップ。DSMパートナーズの活動、デジタルスキル標準化の取り組みは、こちらで紹介しています。
東芝デジタルソリューションズは、「働く人と企業の未来のために」というビジョンのもと、日本社会の全体で企業の成長を止めずに、世界と伍していけるようなソリューションを今後も継続して提供していきます。業務の自動化で「手離れ」を実現しつつ、経営と連動した人事戦略で「前進」を加速する――その双方を支える実践的なAI活用に、ぜひご期待ください。
- この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2026年2月現在のものです。
- この記事に記載されている社名および商品名は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。


