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ここ数年、ビジネスの現場で「VUCAの時代」という言葉がよく使われるようになりました。新型コロナウイルス感染症の拡大や地政学リスクの高まりなど、予測できない事象が次々と起きている今、先の読めない時代に企業が柔軟に対応し、成長を続けていくための経営の在り方として注目されているのが、「人的資本経営」です。ここでは、人材の価値を最大限に引き出す人材育成の実現により企業の人的資本経営を支援する、東芝デジタルソリューションズの「Generalist」および「PeCoMe」をご紹介します。


変化に対応し、持続的な企業の成長に向けた新たな人事戦略が必要な時代に


予測が困難なVUCA(変動性:Volatility、不確実性:Uncertainty、複雑性:Complexity、曖昧性:Ambiguity)の時代。ほんの2、3年前まで、従業員がオフィスに通勤することが当たり前でしたが、テレワークという時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が浸透しました。また、世界情勢の変化により海外にある拠点を閉鎖し、国内に新たな拠点を設ける動きも広がっています。このように数年前には想像できなかったビジネス環境に急激な変化が起こり、これまでの方法や成功体験、そして社内に蓄積してきたノウハウだけでは通用しない時代になりつつあります。

このような中、企業が持続的に成長するためには、変化に柔軟にかつ素早く対応できることが必要であり、そのためには「人」が重要となります。人材を「資本」として捉え、適切に投資していくことで、持続的な企業価値につなげるのです。これが、現在、注目されている「人的資本経営」です。

これまで日本企業の多くでは、終身雇用を前提とし、新卒の一括採用とその長期的なキャリア形成を主導する、いわゆる「メンバーシップ型雇用」を行ってきました。一つの企業の中でさまざまな業務を経験させ、人材を育てていくというものです。事業の方向性が20年、30年と変わらない場合には有効ですが、変化の激しい時代に求められる人材の確保や育て方は異なります。なぜなら、ビジネス環境の変化に合わせて経営戦略を変更し、それに応じて人事戦略も変わっていく、つまり、求める人材の変化への柔軟な対応が必要となるからです。

そこで今後は、仕事の内容に応じて適切な人材を採用する「ジョブ型雇用」が増えていくと見られています。しかし、これまでの雇用の慣例から、日本ではジョブ型雇用への移行が簡単には進まないと考えられます。ここでの大きな問題の一つは、日本では解雇に規制があり、事業の終息にも雇用の維持が求められる点です。ジョブ型雇用では、事業の状況に合わせて流動的に採用や解雇を行う必要がありますが、日本ではそれが制限されています。そのため、従来のメンバーシップ型雇用をベースに現有の従業員のスキル向上やスキルセットの変更により、事業環境の変化に対応する必要があるのです。

このような状況の中で進めるべき人的資本経営とはどのようなものなのか。東芝デジタルソリューションズでは、従業員一人ひとりの自立的な成長を促し、企業の人事戦略に合わせた現有の人的資本を最大化することではないかと考えています。

そこでは、「データ活用」と「自立型人材」が重要となります。

これらを強力に支援するのが、統合人財管理ソリューションとして当社が提供する「Generalist」です。Generalistには、人事や給与、就業管理を支援する「Generalist/HR/PR/TM」や、人材育成やタレントマネージメントを担う「Generalist/CM」、そしてeラーニングなどの研修の運用とそれらの教育を管理する「Generalist/LM」があります。多くの企業の支持を得て進化を続けているソリューションです。また、従業員の自立的な成長のための気付きを与える新たなサービスとして「PeCoMe」も立ち上げています。


人材データを活用した継続的な戦略改善が可能に


人的資本経営の推進に当たっては、人事システムをはじめ、社内に点在している各種システムから人材に関するデータを集めて個人のスキルなどを可視化し、人事戦略と突き合わせたギャップの把握、それを基にした育成や採用による人的資本への投資、その結果の反映、人事戦略のブラッシュアップというサイクルを回していくことが重要です。

当社が提供するGeneralistは「つなげる」をコンセプトとし、人と社会、人と企業をつなげるとともに、人事給与や人材育成、教育などに関する各ソリューションを連携することで、人的資本経営に必要とされるデータの収集や活用を支援します。また、他社の製品やサービス、プロダクトから多様なデータを収集するために、「Generalist HUB」というクラウドサービスの提供も始める予定です。このサービスにより、さらに戦略的なデータの活用を進められるようになります。

また、集めたデータに対しては、常に更新を続ける仕組みづくりが重要です(図1)。人的資本に関するデータをもとに経営戦略をブラッシュアップし、それを人事戦略へと都度落とし込んでいきます。従業員に対しては、育成計画により自身の現状と人事戦略とのギャップを認識させ、自立的なスキルアップを促します。さらに、投資家や労働市場に向けては、有価証券報告書などを介して人的資本に関する情報を開示し、それらの反応を見ながら自社の各種戦略に生かしていきます。当社は、この常にデータを更新する仕組みをプラットフォームとして整備することで、企業の継続的な改善と、デジタルトランスフォーメーション(DX)を支援します。

※労働市場:労働力を商品として、需要(企業側)と供給(労働者側)をめぐる取引が行われる市場のこと

企業の人的資本の情報は、国や投資家、労働市場などに開示が必要なものとなってきました。日本政府が提唱する「新しい資本主義」の議論においては人への投資と情報開示が重要視され、2023年3月期決算以降の有価証券報告書には人的資本に関する情報の記載が義務づけられます。さらにESG(環境、社会、ガバナンス)投資の観点からは、投資家からの信頼を得るために、今や欠かせない情報の一つです。このように情報開示の要求が進む世の中の動きからも、人的資本に関する情報の整備は、不可欠な時代となりました。

また、人的資本の情報として開示が求められる項目の中には、さまざまな指標(ISO30414では11項目58指標)があります。それぞれの指標に対して目指すところは企業により異なるため、各企業は自社の人事戦略に照らし合わせて、目標や推移を正しく見ていくことが大切です。例えば、離職率が低いという評価が出たとき、「従業員の満足度が高い」と捉えるのか、あるいは「人の流動が少なく、新規雇用が難しい」と捉えるのかで、改善の必要性や方向性が異なります。つまり、自社が人事戦略で立てた目標により指標の持つ意味が大きく変わるため、企業は正しく自社の人事戦略や経営戦略の改善に役立て、人的資本経営を推進していくことが重要なのです。


OJTやジョブローテーションからの脱却。自ら考え対応できる人材を育成


自立型人材について説明します。これまで日本では、実務を通してそこで必要な知識やスキルを学ぶ「OJT(On the Job Training)」や、さまざまな職場で経験を積むことで幅広いスキルを身に付ける「ジョブローテーション」により、長い期間をかけて従業員を育ててきました。しかし、VUCAの時代の従業員には、自ら答えのない問題に向き合い、周囲と協力しながら解決していく力が求められます。このような自立型の人材を育成するためには、人事戦略の変化に対応した人材育成の仕組みと、従業員の意識改革が必要です。これらを実現することにより、従業員が自立的に学びあう組織文化を醸成できます。

近年、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、自主的に新しいスキルを学ぶ「リスキリング(Reskilling)」が注目されています。リスキリングを進めるためには、スキルの可視化、学習プログラムの整備、学習への伴走、そしてスキルの実践という4つのステップが必要です。

まず、企業が今求めるスキルと、従業員が現在持っているスキルのギャップを「可視化」し、次に、スキルのギャップを埋めるために必要な「学習プログラム」を整備します。その後の学習においては、従業員に寄り添い学習が継続できるように「伴走」する仕組みも必要です。そして最後に重要なのが、スキルの「実践」です。企業側が、社内インターン制度やプロジェクトへの参画など、学んだスキルを使える場を積極的に提供することで、従業員にスキルを定着させていきます。座学だけでは20%程度の定着率が、体験することにより75%以上にあがるともいわれています。

当社は、これらのステップを、Generalist/LM/CMで支援していきます。スキルマップ機能を活用した、人事戦略で求めるスキルと従業員のスキルとのギャップの可視化や、学習機能を提供します。

また、リスキリングを成功させるためには従業員の学びに関する意識改革が重要です。企業にとって、人事戦略で求めるスキルと従業員のスキルとのギャップの明確化が欠かせなかったように、従業員個人にとっては、なりたい姿(キャリア)と自身の現在のスキルとのギャップを知ることが大切です。まずは、上司とのコミュニケーションを通して従業員一人ひとりが将来のキャリアを明確にし、そこに向けて必要なスキルを知ること、そしてギャップを埋めるための、いつでもどこでも学べる環境と学びの時間が大事になります。

Generalist/LMでは、クラウド上にある数百個もの学習コンテンツの利用が可能です。今後は、「学びを提供するポータル」を準備し、必要なスキルを学ぶ場としてはもちろん、高精度なAI分析により従業員のスキルレベルに最適な学習コンテンツをレコメンドすることなどで、継続した学習の支援も行っていきます。

企業が従業員それぞれの主体的な学びを後押しすることで、互いに学びあう文化が、すなわち「ラーニングカルチャー」が醸成されていくと考えています。企業において学んだ知識は、他の人とのコミュニケーションに生かされ、企業としてのパフォーマンスを向上する力にもなります。


個人のスキルやキャリアを可視化


ここまでは、企業の視点で人事戦略に合わせた従業員の育成について説明してきました。ここからは、従業員個人の視点で一人ひとりのライフスタイルをサポートするサービス「PeCoMe」について紹介します。

PeCoMeは、個々人向けのポータルサイトとしてさまざまなサービスや、個人のデータを蓄積する場を提供するサービスです。副業や社会貢献、学習などのサービスを利用した履歴や結果、また働く企業での職務や給与の履歴などを蓄積することができます(図2)。

これにより、例えば、給与のデータをファイナンシャルプランや与信のサービスなどで活用できたり、学習や経験、スキルなどを可視化して客観的に見ることで自身の興味や持ち味に気付かされたり、さらにそれを今後のキャリア形成などに役立てられたりします。蓄積されたデータは、これまで歩んできた軌跡として、自身の振り返りにも活用できます。

ここで重要となるのが、蓄積した個人データの取り扱いです。当社では、個人のデータは本人のものであると考え、その利用や提供は本人の同意のもとに、つまり本人がコントロールできるようにしています。給与データなどの取り扱いも、この考え方で仕組みを構築しているため、企業も従業員も安心して利用できます。


人的資本経営の要は「データ活用」と「自立型人材」


このように、当社は企業と従業員の両者を支援することで、それぞれにとって有益な効果をもたらすと考えています。ビジネス環境の変化に合わせて経営戦略、人事戦略、そして育成計画が変わっていく中、「データ活用」と「自立型人材」の育成による現有の人的資本の最大化により、企業は成長を続けていく。また従業員一人ひとりは、職歴や給与、さまざまな活動のデータを蓄積して自身の気づきや成長につなげる。これらを、GeneralistとPeCoMeで支援していきます。

東芝デジタルソリューションズは、これからも従業員の自立的な成長と、企業の人的資本経営の実践に貢献します。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2023年1月現在のものです。

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