生成AIが製造業にもたらす革新と活用促進の課題(4/4)

イノベーション、経営

2024年11月28日

日本企業が生成AI導入を促進していくための心構え

福本:
これからは膨大なデータを持つ企業のほうが、データがない企業よりも生成AIの活用面では圧倒的に有利になりそうですね。

岡嵜:
データの内容にもよりますが、特定の部署内でデータが閉じておらず、企業内で広く活用して、セキュアにアクセス権限に応じて情報が取れる環境を整備できていると強いでしょう。生成AIを導入しようとする企業が最初につまずく点は、いざ導入しようと思っても肝心のデータが無くセキュリティの仕組みが整備されていないことです。このような環境の整備は生成AI活用のベースの「筋力」として大事になるところです。

福本:
日本企業が生成AIを活用していくうえで、いろいろな障壁があります。これらを乗り越えるためには、総じてどうすればよいのでしょうか?

岡嵜:
生成AIの利便性を理解できても、導入が進んでいない企業があります。我々の調査では、何らかの形で生成AIを使っている日本企業の割合は約8割で、グローバルの状況と遜色ありません。しかし、生成AIを活用していく方針があるかという質問に対しては、あるという回答の割合が諸外国に比べて低いという結果が出ており、必ずしも全社レベルで取り組んでいるとはいえない企業が多いということだと思われます。

全社的に進めていくためには、トップの方針が非常に重要になってきます。また、あるお客様は「生成AIを活用できる業務は色々あり、それぞれの部分の最適化も必要だが、企業としては、例えばエンジニアリングチェーンをどう変えていくべきか、その際にどこから着手すればよいかというような、ブループリントや設計図が必要になってきている」とおっしゃっていました。今企業は、生成AIを活用して業務プロセスや人材、組織のあり方をどう変革するかを考えるタイミングに来ていると思います。そのような考え方が根底にあるかどうかで、変革のスピードも変わっていくでしょう。

福本:
生成AIというテクノロジーにより、事業や組織、人材など企業全体のあり方を見直す必要が出てきているのですね。日本の製造業ではまだ生成AIが使えないという意見も多い中、欧米や中国ではまず使ってみようと動いています。世界から遅れないためにも、日本の経営者の皆さんも含めて生成AIをどう推進していけば良いと思われますか。

岡嵜:
生成AIに100%を求めて「これができない。あれができない」というのではなく、まずは効果のあるエリアを見つけていくことが肝要です。トップが号令をかけても進まない原因は、ユーザー側の実感が伴っていないからです。自分の日々の業務でどう役立ち、便利になるのかを見つけて示してあげることが、利用促進のフックになるでしょう。1つの成功体験は人の行動を変容する大きな源泉です。例えばCopilotを使って、「ゴールデンプロンプト」と呼ぶ5つの指示を覚えるだけでも、日々の業務時間が30分から1時間ぐらい削減できます。具体的な業務でその効果を実感すれば、別の業務にも使いたいと思ってもらえるでしょう。個人の成功体験を増やすと、やがて社内にインフルエンサーやリーダーが出てきます。「この領域ならこう改善できる」と提案してくれるキーマンが現れてくれることに期待しています。

右:日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務
  クラウド&AIソリューション事業本部長 岡嵜 禎氏
左:DiGiTAL CONVENTiONアドバイザー 福本 勲

福本:
東芝グループでは全社を挙げて生成AIの活用を推進しているほか、東芝デジタルソリューションズではチャットボット(コメンドリwith生成AI)eラーニング(Generalist/LM)リスキリング・プラットフォーム(Generalist e-University)などのサービス・ソリューションに生成AIを取り込み、新たな機能・サービスを提供する取り組みを進めています。今後、東芝グループに何か期待するところがあれば一言お願いします。

岡嵜:
東芝グループとは戦略的に協業させていただいております。多様な事業領域で実ビジネスを展開されていて、かつITに詳しい人材も備えているので、生成AIの先進的な活用が可能な企業の代表として取り組みを加速し、日本の製造業のフラグシップ的な事例を出していただけると嬉しいですね。

またソリューション面では、様々なソリューションで生成AIを活用いただいており、今後市場にどんどん投入して欲しいです。生成AIの活用はモデルから業務での価値創出にシフトしてきていますので、業務価値を見出すノウハウや人材を育成できることが大きなアドバンテージになると思います。生成AIがソリューションの中で使える状態になっていれば、使い慣れたアプリケーションやデータベースで色々なことができるようになります。東芝が持つ多様なソリューションとインテグレーション技術により、多くのお客様に生成AIの可能性を拡げていく取り組みを、一緒に加速させていきたいと思っております。

福本:
今後、エンジニアリングチェーンやサプライチェーンがデジタルで繋がっていくと、データが更に増えていき人だけでは判別できない膨大な量になっていくと考えられるので、生成AIをはじめとするデジタル技術を活用できる企業がどんどん増えて欲しいです。 本日は有難うございました。


岡嵜 禎氏
日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長

1997年 NTTデータ関西テクシス株式会社 (現: NTTデータ関西株式会社) に入社、2002年 日本BEAシステムズ株式会社に転職、同社シニアコンサルタント、シニアプリンシパルコンサルタント兼 Japan EA Leadを経て、2008年 日本オラクル株式会社に入社。担当部長 SOAアーキテクト、同社エンタープライズ・アーキテクト本部長、2015年 アマゾン データ サービス ジャパン株式会社 (現:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社)、技術統括本部 本部長、執行役員 技術統括本部長を歴任し、2022年から日本マイクロソフト株式会社にて現職。


  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2024年11月現在のものです。

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