生成AIが製造業にもたらす革新と活用促進の課題(2/4)

イノベーション、経営

2024年11月28日

企業の生成AIの活用レベルの進化

福本:
では、現状では企業における生成AIの活用はどこまで進んでいるのでしょうか。

岡嵜:
2023年は生成AIをトライアルで導入する企業が多く、社内でChatGPT環境を構築し、どのようなことができるのかを模索していた印象です。2024年からいよいよ自社の業務データを連携させて、例えばアフターサービス時に過去のトラブル情報と組み合わせて適切な対処法を引き出すといった、カスタマーサポート領域での活用も増えてきました。

また、企業による生成AIの活用レベルに違いが出てきたように感じています。自社の各部署で業務データを適用しながら、本当に業務で使えるのかを検証するケースが多かったのですが、複数の情報を組み合わせて適用するケースも出てきており、ある先進的なお客様では「マルチエージェント型」の取り組みをされています。

A、B、Cという業務があれば、生成AIで3つの業務の専門知識をそれぞれ持つエージェントを3つ作り、ある質問が投げ込まれた時に3つのエージェントに議論をさせることによって、より高度な結果や高品質な回答を返すといった活用方法です。一見すると複雑なことをしているように感じられますが、お客様が「これは普通の仕事のやり方と同じ」とおっしゃっていたことが印象的でした。つまり、何か問題が発生して解決しようとする際に、複数の専門家が各々の立場で議論することと変わりがなく、そのような仕組みを生成AIで実現できるようになったというわけです。

製造業で例えると、Aは生産ラインの指導者、Bはエンジニア、Cはビジネス領域の専門家として定義し、それらのエージェントをデータが蓄積されたシステムと連携する形で活用すると、それぞれのナレッジが組み合わさって、より専門的で的確な回答を導き出すことができます。

福本:
ChatGPTが出始めた頃は検索エンジンの代替として一問一答で利用している人も多かったのですが、インタラクティブなやり取りがさらに高度化している印象を持っています。生成AIを手段とし、どのように活用できるか、理解できるか、気付けるかといったレベル感によって、活用レベルが変わってくる気がします。

岡嵜:
まだ一問一答型の使い方も多いようですが、やはり生成AIの大きな可能性は、例えるならばアイアンマンの相棒の人工知能「ジャーヴィス」のような使い方でしょうか。「これをやって」というコマンダー型でなく、「こんなことをやりたい」といったファジーな要望を投げても、いろいろなコンテキストをAIが理解しながら答えてくれる。よりヒトらしい、ヒトが期待するレベルまでコンピュータが進化を遂げていくのではないかと思っています。

データベースの高度な検索として生成AIを活用する場合は、ある程度目的を持ってコマンドを出さなくてはならないのに対して、複数のエージェントが連携する形であれば、ファジーな要望に対しても最適解を返してくれるようになります。このように、使い方や仕組みを高度化させる方向で挑戦するお客様が現れ始めたように思います。

日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務
クラウド&AIソリューション事業本部長 岡嵜 禎氏

生成AIが製造現場にもたらすインパクト

福本:
生成AIが製造現場にもたらすインパクトや変化について伺いたいと思います。例えば、IoTや従来のAIと異なりデータサイエンティストなど専門知識がある人でなくてもデータ活用が可能になったり、専門性を持った方の作業履歴などから暗黙知を形式知化してノウハウを活用できるようになったり、ルーチンワークやチェック業務のような単純作業がデジタルに置き換わっていくなどの変化が考えられると思います。情報活用、ノウハウ共有、業務の効率化・自動化といった観点から、生成AIがもたらすインパクトについて教えて下さい。

岡嵜:
まず情報活用については、生成AIの活用によってIoTデータを活用した異常検知やAI画像診断などが、ユーザーにとっては利用しやすくなり、サービス開発者にとってはよりサービスを作りやすくなると考えています。例えば蓄積した過去1年間のデータから傾向を分析して、自動的にグラフを作成したり、どのタイミングで異常があったのか、正常でない動きが発生したポイントはどこなのかといったインサイトを示してくれるようになります。自然言語で話しかけるとダッシュボード上でデータが見える化されるため、ユーザー側の敷居が下がる点がインパクトの1つ目でしょう。

一方でバックエンド側では、例えばIoTから取得されたデータが異常を示した時、蓄積されたデータベースと組み合わせて、過去のどのような事象に該当するのかを調べることができます。生成AIであれば、多くのデータを組み合わせたマルチコンテキストから正確な結果を容易に得られるようになる点も大きなメリットになります。IoTデータ、蓄積されたデータベースと生成AIを組み合わせて活用することで、特定の傾向が見えた場合に、どのような異常が発生し得るのかについて文章で示すことができますし、非定型データを組み合わせた分析も従来とは比べものにならないぐらい進化しています。

先ほど生成AIによる変革の方向性として、複数のデータを組み合わせて活用でき、推論がより高度化すると話しましたが、もう一つの変革として、バックエンドのプログラムを自動的に組み合わせて実行できるようになることも大きいと思います。これを我々は「Function calling(生成AIが自然言語を理解し、適切なタイミングで複数の外部システムやAPIを呼び出せる機能)」と呼んでいます。お客様の情報と組み合わせてトラブルを調べるだけなら従来のRAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)でも可能ですが、何かトラブルが起きた際には、そのお客様の情報が蓄積されているシステムやトラブル対応のデータベースなどの情報を組み合わせてプログラムを実行しなければなりません。生成AIで情報を読み出すだけでなく、それを元にプログラムまで実行できる仕組みを作れば、より高度なことが実現できるようになります。いろいろなシステムを持つ企業が多いと思いますので、それらのシステムと自動連携しながら協調動作する生成AIの仕組みを作れるようになれば、大きなインパクトをもたらすと考えています。

ロボットの制御のような部分でも、同様のことが可能になると思います。従来のロボットの制御プログラミングではAという命令に対してAの処理を行い、Bという命令に対してBの処理を行う形で書く必要がありましたが、AやBの判断を生成AIが行って実行できるようになります。例えばデンソー様が開発した生成AIを導入したバリスタロボットは、「暑いところを歩いて喉が乾いたのでサッパリした飲み物を下さい」と言うだけで、「たぶん冷たい飲み物が欲しいのだろう」と生成AIが判断してホットコーヒーではなく水を取るAPIを実行します。ファジーなリクエストに対しても生成AIのモデルがその意図を判断して対応できるようになると、膨大なプログラミングの制御文を書く必要がなくなるので、開発作業を劇的に少なくできるわけです。そういう点で生成AIが次の産業革命を牽引するとも言われています。これからインターネットやスマートフォンが出た時に匹敵するような変化が起きるかもしれませんね。

福本:
生成AIを活用することで、データのバラつきや偏差、ピーク値など、変化の読み方が分からないような人でもデータを分析できるようになり、細かく指示をすることなくファジーな指示でもナレッジから判断し対応できるようになってきました。さらにルーチン業務の自動化なども進んでいくと思います。

岡嵜:
生成AIが人の仕事を奪うと心配される方もいらっしゃるでしょうが、いま日本は人材不足で、どこでも人が足りない状況です。生成AIによってユーザー側がコンピュータやITの可能性を簡単に引き出せるようになれば、あまりプログラムが得意でない方々でも自然言語でいろいろなことができる可能性が広がり、一人一人ができることがもっと増えていくでしょう。生成AIは無限のポテンシャルを秘めていると感じています。


  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2024年11月現在のものです。

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