• 東芝レビュー 81巻5号(2026年9月)

特集:現在と未来をつなぐ技術を共創する総合研究所の取り組み

東芝は,社会やお客様から寄せられる信頼と期待を超える成果を創出し,新しい未来を始動することを目指して,2025年4月に総合研究所を設立しました。多種多様な要因が相互に複雑に関連し合う社会課題に対して,サイバーとフィジカル,素材からシステム,量子やAI,生産・品質など,幅広い技術を融合してソリューションを創造していきます。この特集では,社内外の多様なパートナーとの共創を通じて,今を支え,未来を創り,よりよく生み出す,総合研究所の取り組みを紹介します。

特集:現在と未来をつなぐ技術を共創する総合研究所の取り組み

落合 誠

複雑化する社会課題の解決に向けて,サイバーとフィジカルの融合をはじめ,技術・事業領域を横断・融合した研究開発が求められている。

これを受けて東芝グループは2025年4月,研究開発組織を再編し,新たに総合研究所を設立した。総合研究所は,経営・事業戦略を踏まえた研究開発を中核に据え,基幹事業の維持・発展,生産性・品質の飛躍的向上,及びAI・量子技術を含む未来洞察に基づく次世代事業のコア技術創出を担う。統合された研究開発体制の下,全社成長戦略と重要技術領域戦略に基づくソリューション創出を進めるとともに,人材流動化と社内外との共創で研究開発と社会実装を加速し,事業価値の創出と将来の競争力強化を図っている。

[特集一覧]
 

一般論文

淺谷 剛・藤永 賢治

カーボンニュートラル実現への取り組みが進む中,軽量・柔軟な特長を持ち, 高発電効率を実現できるポテンシャルもあるペロブスカイト太陽電池は,次世代太陽電池としての期待が高まっている。

東芝は,2025年日本国際博覧会(以下,大阪・関西万博と略記)において,“飯田グループ×大阪公立大学共同出展館”の屋内ジオラマ ウエルネススマートシティにフィルム型ペロブスカイト太陽電池(F-PVK)を設置し,照明演出環境下の発電特性や運用安定性などを評価した。朝・昼・夕・夜を模した色温度・照度条件下で発電特性を評価した結果,各照明条件下の発電効率の絶対値は異なるものの,照度依存性などは条件間でおおむね共通であった。同一照明条件下で評価した結晶シリコン太陽電池(以下,Si太陽電池と略記)と比較すると,F-PVKは低照度条件で最大約3倍の発電効率を示した。また,大阪・関西万博開催期間を通じた連続運用において,発電特性の顕著な劣化や安全上の問題は確認されず,屋内環境下での安定な運用が可能であることが分かった。

工藤 浩喜・富樫 雄一・衣斐 秀聽

企業や大学において,DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するにあたり,DX人材を育成することは重要である。特に,専門知識に依存せず,現場課題を起点として検討・試作・検証を行う仕組みが求められている。

東芝は,これらを解決するために,CPS(サイバーフィジカルシステム)の高速プロトタイピングを可能とするCPSスターターキットを開発し,活用してきた。また,IoT(Internet of Things)への適用を支援するため,ifLinkの“条件(IF)–動作(THEN)”レシピを取り入れ,技術者でない人を含む利用者が活用可能なifLinkスターターキットを開発し,トライアルサービスの提供を開始した。このサービスをDX人材育成プログラムや共創の場に適用した結果,仮説検証型の思考・行動様式の獲得に有効なことを確認した。

仲野 聡・栗原 宏文

近年,生成AIの普及や,クラウドサービスの利用拡大,バックアップ需要の増大などに伴い,データセンターの保存データ量は飛躍的に増加している。そのためストレージには,大記憶容量,低総保有コスト,及びT(テラ:1012)バイト当たりの消費電力低減が強く求められる。これらの要件を満たすニアラインHDD(ハードディスクドライブ)は,ストレージとして重要な役割を担っている。

このような中,東芝ストレージ&デバイス(株)は,独自の磁束制御型マイクロ波アシスト磁気記録(FC-MAMR)技術を採用したヘリウム充填の3.5型ニアラインHDD M12シリーズを開発し,商品化した。耐久性に優れ薄型化が可能なガラス基板を新たに採用した磁気ディスクを11枚搭載することで,瓦記録(SMR)方式により30 Tバイト超の大記憶容量を実現した。

R&D最前線

金子 桂

中赤外光の分光分析によるガス検出を室温において外付け光学フィルターなしで実現

中赤外光の分光分析によるガスセンシング技術は,高感度検知や遠隔検知が可能なことから,ガス漏えい検知をはじめとする安全確保や,環境保全,医療分野などでの応用が期待されています。しかし,従来の中赤外検出器は,外付け光学フィルターや光学系全体の液体窒素冷却を必要とするため,屋外や工場・プラントなどの現場での適用が進んでいませんでした。東芝は,フォトニック結晶を備えた面受光型量子カスケードディテクター(以下,PC-QCDと略記)を開発し,室温動作に加え,光学フィルターなしでの波長及び入射角に対する高い選択性を実現しました。これは,中赤外ガスセンシングを高度化するための基盤技術となります。

※東芝レビューに記載されている社名、商品名、サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。