デジタルで豊かな社会の実現を目指す東芝デジタルソリューションズグループの
最新のデジタル技術とソリューションをお届けします。

OTとITの架け橋となりスマートマニュファクチャリングを実現するクラウド型PLC

現在、日本のものづくりの現場では、労働人口の減少による人手不足や、製造ラインの生産性向上、装置の安定した稼働、効率的な運用・メンテナンスなどが重要な課題になっています。これらの課題解決に向けて強力に進められているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)による工場の自動化や省人化です。また、カーボンニュートラルの実現に向けた、環境問題への配慮も忘れてはいけません。サプライチェーン全体におけるCO2の排出量を可視化するためにも、デジタル技術は欠かせない存在となりました。ここでは、ものづくり企業として培ってきた東芝の技術と経験により実現した、クラウド上で提供する産業用コントローラを紹介します。これは、製造業における現場作業の負担削減と、OT(制御・運用技術)とIT(情報技術)の融合による新しいソリューションの創出をコンセプトに開発した、OTとITの「架け橋」となるサービスです。


産業用コントローラの進化と東芝の取り組み


産業用コントローラは製造現場を自動化するための装置で、製造業を中心に幅広い分野で使用されています。その中で「PLC(Programmable Logic Controller)」は、あらかじめ決められた順番に従って機械を制御する装置で、計測・制御システムにおいてセンサーなどのデータを基にアクチュエーター(モーターなど)を制御します。例えば、工場内では、ロボットや機械を制御する「頭脳」の役割を果たす重要な装置です。

※アクチュエーター:電気などのエネルギーを機械的な動作に変換する装置のこと。

東芝は、ものづくり企業として製造現場の革新に長い間取り組み、産業用コントローラを開発してきました。その歴史は1970年代半ばから始まり、現在に至っています。東芝の産業用コントローラは、鉄鋼、紙パルプ、石油化学プラントなどの一般産業や、通信、交通、上下水道、ビルなどの社会インフラ、電力の各分野における製造設備や環境関連機器など多岐にわたって使用され、計測・制御システムの中核として社会基盤を支えています。

時代の変化に応じて機器の統合や性能の向上、効率化、省スペース化、省配線化、導入および運用のコスト低減、国際標準への準拠、さらには複数のメーカーの機器を容易に接続して使用できるオープン化などに対応しながら、進化を続けています。2007年には、適用分野ごとに異なっていたコントローラと入出力(I/O)システムを統一した、ユニファイドコントローラnvシリーズを開発しました。また、2019年には、従来はハードウェアで実現していた制御機能をソフトウェア化(ソフトウェアディファインド)し、汎用アーキテクチャー上に実装することでコンピューター機能との連携を可能にした、ユニファイドコントローラVmシリーズを開発しました。そして現在は、制御機能にあたる「制御コア」をクラウド上に実装する仕組みを実現し、市場に投入しています。これが、「Meister Controller Cloud PLCパッケージ typeN1(以下、クラウド型PLC)」です(図1)。


クラウド型PLCがもたらす3つのメリット


クラウド型PLCは、クラウドにある制御コアと監視ソフトウェア、そして制御コアとI/Oシステムをつなぐための端末として現場に配置するエッジエージェント装置で構成されます。エッジエージェント装置を経由することで、クラウドにある制御コアと現場(エッジ)にあるI/Oシステム間の通信を実現し、現場のセンサーやモーターなどのI/Oデータを、インターネットを介してクラウド上に吸い上げる仕組みを一気通貫して提供します。産業用コントローラがクラウド上にあることで、これまで現地に赴く必要があった作業をリモートで行ったり、現場のI/Oデータや設備稼働データといった生データをリアルタイムに取得してクラウド上に蓄積したりできるようになりました(図2)。また、OT(制御・運用技術)側の制御データをIT(情報技術)側と連携することで、AI技術を活用したスマートマニュファクチャリングを推進できるようになります。

※東芝グループが提唱する「スマートマニュファクチャリング」は、工場のデジタル化を図るスマートファクトリーの考え方をバリューチェーンにも拡大するとともに、カーボンニュートラルの実現や、エネルギーマネジメントといった新たな社会課題にも対応できるモノづくりの形を提案している。

クラウド型PLCの導入による主なメリットを3つ紹介します。

【メリット1】収集したリアルタイムデータの利活用

現場から取得してクラウド上に蓄積した各種リアルタイムデータを、装置の最適な制御や分析に活用できます。MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)のような既にクラウド上で提供されているさまざまなITソリューションと連携し、生産性の向上やCO2排出量の可視化の実現、さらにはAI技術なども取り入れてOTとITの融合による新しいソリューションの創出に取り組むことも可能です。また、リアルタイムデータを活用してデジタルツインを構築することで、現場の迅速な改善に向けた取り組みにも貢献します。

【メリット2】開発にかかる期間の短縮と費用の削減

これまで現場に設置していた産業用コントローラ(実機)を、クラウド上に実装します。これにより、実機の納期に縛られずにシステムを立ち上げられるため、開発期間を短縮できます。現場の実機が削減されてライトアセットなシステムとなり、かつ現場の省電力化も実現します。またクラウドサービスが持つ、必要なリソースを必要な分だけ利用できるスケーラビリティーの高さにより、多数のPLCからなる複雑なシステムであっても、柔軟な製造ラインの変更やスケールアップに迅速に対応することが可能です。

【メリット3】運用の容易性向上と費用の削減

工場にある各種機器の監視や管理、運用、メンテナンスをリモートから行えるため、省人化とともに、作業員が現場に移動する回数の削減ができ、それらによって作業の効率化や、運用およびメンテナンスにかかる費用の削減に貢献します。また、プログラミングやデバッグ、制御・設定パラメーターの変更、ログのモニタリングなどもリモートで行えます。これにより、トラブルが発生した際にリモートから調査や対応を進めることができ、早期復旧につなげられれるため、ダウンタイムの少ない、より安定したシステムを構築可能です。システムのアップデートなどもリモートから可能なため、将来的な性能の向上や新機能追加も容易に行えます。


クラウド型PLCを実現する東芝の強みと技術


東芝が、このような効果をもたらすPLCのクラウド化に成功した理由は、これまでに培ってきたさまざまな強みがあるからです。

東芝グループには、さまざまな領域で新しい技術を研究開発してきた実績があります。

例えば、制御や通信の処理の遅延を抑制してリアルタイム性を担保する、東芝独自のLinuxディストリビューションである「Skelios※1」を活用することで、クラウド型PLCに応じたカスタマイズ・最適化をしたOS上での安定した動作が可能です。また、制御コアとエッジエージェント装置間の通信には汎用的な通信プロトコルであるHTTPS(Hypertext Transfer Protocol Secure)を使用しています。そのため、プロキシサーバーなどゲートウェイを介した通信でも特別な設定は不要であり、接続に手間がかかりません。そのうえで、東芝独自の通信方式「マルチコネクション型通信プロトコル」※2により、堅牢性を備えています。これは、複数の経路で通信を行い、たとえどこかの経路でパケットロスが発生しても別の経路から受信ができる仕組みです。これにより、パケットロスの確認や再送信にかかる時間を短縮し、インターネット接続の不安定性を軽減しています。

※1:Skeliosについては、産業用Linuxの技術解説連載「効率性と信頼性を追求した産業用システム向けLinuxの技術革新」の中で詳しく紹介する予定です。
※2:特許出願中。

サイバーセキュリティ対策については、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の脅威分析のガイドラインに準拠した複数の防御策を重ねて実施しています。具体的には、通信の暗号化やHTTPSによる相互認証を行っています。また、登録済みのプログラム以外の実行を制限するホワイトリスト方式により、マルウェアからの保護を行います。さらに、クラウド上のスナップショットによる自動差分バックアップとリストア環境を整え、エッジエージェント装置では USB(Universal Serial Bus) ストレージの自動読み込みを制限するなどの安全対策を講じています。

※東芝の制御システムセキュリティへの取り組みは、技術解説連載「『サイバーレジリエンス』を実現する制御システムセキュリティ技術」で詳しく紹介しています。

また、長期的なサポートを継続してきた強みもあります。これまで、計測機器や制御機器に関する製品やサービスを、50年以上の長期にわたり供給し、保守してきました。その実績に基づくサポート体制、そして長年磨いてきた独自の技術による解析力やアフターサービス、システム全体のライフサイクルに寄り添う提案力により、この新たなサービスの事業化を実現しました。


クラウド型PLCの活用事例とその効果


現在、クラウド型PLCは、製造ラインの監視や制御、食品製造における異物除去、スマートビルディング向けのメンテナンスや空調管理などでの活用事例があります。

まずは、新エフエイコム株式会社においての活用事例です。同社では、展示会場からリモートで工場の機器を制御するデモが行われました。クラウド型PLCとクラウド上にある同社のMESを接続し、データ連携をするシステム構成です。実際に、展示会場からクラウド型PLCに接続し、同社のスマートファクトリーで稼働するロボットを制御してバラ積みからのピッキング、および設備の稼働状況のMESでのリアルタイム表示に成功しました(図3)。さらに同社では、デジタルツインの実証として、このロボットとベルトコンベヤーの連携制御をクラウド上のシミュレーターでリアルタイムに動作させる取り組みなども進められています。

次に、食品製造業の株式会社フツパーでの実証実験事例です。同社では、グリルコンベヤー上で焼かれた食材をカメラで撮影し、現場側の外観検査AIがその焼き色の状態を判断します。さらに、クラウド上に配置したコンベヤーの速度を制御するAIとコンベヤーの間にクラウド型PLCを導入することで、リアルタイムな速度制御が可能となり、最適な焼き加減を実現しています。ほかにも、クラウド型PLCを使って全国各地の工場にある食品の製造ラインに設置した異物を除去する装置の設定やメンテナンスをリモートで行い、それらにかかる工数を削減するための実証実験を進めている企業もあります。

最後にユニークな取り組みとして、スタートアップ企業の株式会社アラヤにおける、スマートビルディングのビジネス展開を目指した実証実験があります。これは、クラウド型PLCと、空調を最適化する同社のAIを連携し、オフィスや商業ビルの業務用エアコンなどをリモートから運用・メンテナンスして、空調にかかる電力やCO2の削減を図るものです。さらなるシナジー効果として、人流を解析する同社のAIと東芝グループの照明やエレベーターといったビル事業などとを連携したサービスなど、地球環境に優しい新しいBEMS(Building Energy Management System)を目指した取り組みも検討しています。


クラウド型PLCが切り開く製造業の未来


このようにクラウド型PLCは、OTとITをつなぐ架け橋として、製造現場の革新を推進するサービスです。これまで手間のかかっていた、多数のPLCからなる複雑な製造ラインの切り替え、あるいは少数のPLCでも頻度の高い製造ラインの切り替えをリモートから行えるようになる効果は大きく、現場作業の削減や作業時間の短縮、さらには運用の柔軟性を高めます。製造現場のセンサーや機器から収集した膨大なリアルタイムデータをセキュアにクラウド上に吸い上げ、即座に解析し、現場にフィードバックするような、即応性の高いシステムを構築できるようになります。 クラウド型PLCと、ITシステムやAI技術、デジタルツインの技術が連携することで、現場作業の負担軽減や効率的な運用を実現します。生産性の向上、さらにはカーボンニュートラルの実現に貢献する仕組みとしても有効です。

「クラウド型PLC」は、東芝の長い歴史と技術の集大成です。産業界にインパクトを与えるこのサービスは、スマートマニュファクチャリングを実現する次世代の基盤として重要な役割を果たします。OTとITの融合により新しいソリューションを創出することで、東芝グループの経営理念である「人と、地球の、明日のために。」に沿ってお客さまの製造現場の革新を支援し、活力を与えていきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2025年4月現在のものです。
  • この記事に記載されている社名および商品名は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。

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