コロナ禍により私たちの日常生活や働き方が一変する中、現場の業務もその例外ではありません。工場で稼働しているさまざまな設備を安全に動かすために、点検や修理を行う設備保全の現場も大きく変化。国内外の移動制限や工場への入場制限、現場での3密回避など、人の動きが厳しく制限される中で、設備の安定した稼働が求められています。もちろん、現場で業務にあたる作業者の健康や安全の確保は必須です。この現場が抱える苦労や不安は、設備の稼働状況を遠隔から監視することで、軽減できます。さらにそこから得られるさまざまなデータは、設備の運用・メンテナンス業務の高度化や最適化に生かせます。ここでは、ニューノーマルな時代にふさわしい、遠隔から設備の監視と管理を行うアセットIoTクラウドサービス「Meister OperateX」をご紹介します。


コロナ禍で変わる設備保全の在り方


新型コロウイルス感染症の影響により、工場やプラントにおける設備の保全業務の最前線では、従来は当たり前だった考え方が大きく変化しました。設備が置かれた現場に入場制限が設けられたことに伴い、設備のメンテナンスが延期される。移動の制限によって他県や他国の現場に向かえない、テレワークの推奨により出社に制限がかけられるといったことも起こりました。また、3密を回避するために作業者一人ひとりの距離を確保しなければならず、複数人での作業が難しい。ほかにも、検温や手洗い、マスクの着用、工具の消毒、換気といった安全対策の励行や、サプライチェーンの寸断により保守部品や消耗品の在庫が不足するなど、これまでに経験したことのない課題への対応に苦慮されています。

設備の保全業務を行う現場が抱えるこれらの苦労や不安を軽減するためには、設備の稼働状況を遠隔から監視する仕組みの導入が効果的です。設備の稼働状況を遠隔から把握できれば、現地に移動する回数を減らせます。また、常に遠隔からの監視を行うことで、いざ現地に向かう際に、事前に把握している設備の状況を基に3密回避を意識した作業計画を立てられるため、現場対応における作業時間の極小化と、人との接触の低減が行えます。このように、遠隔から監視する仕組みの導入は、設備の保全業務を担当する現場の作業者の感染リスクの抑制につながるなど、人の安全と安心を確保しつつ、より効率的な業務の遂行を実現します。

では、それを可能にする手段は何か。東芝デジタルソリューションズは、工場やプラントでの設備の保全業務を遠隔化するアセットIoTクラウドサービス「Meister OperateX(以下、OperateX)」によって実現します。


ニューノーマルな時代の設備保全を支える「Meister OperateX」


東芝グループは約40年にわたり、社会インフラや電力、エレベーターなどさまざまな装置やシステムを、遠隔から監視して制御するソリューションを提供してきました。OperateXは、そこで培ってきた知見やノウハウを生かして実現したクラウドサービスです。

これからの時代における設備の保全業務を実現するOperateX。当社がこのサービスを新たに提供する背景には、昨今、増加傾向にある「大型設備への投資を避け、手軽にシステム導入をしたい」という工場やプラントのオーナー様の意向に応えたいという思いがあります。また、働き方改革の浸透により、テレワークを導入したいというニーズが高まってきたことも大きな理由です。さらに、IoTやセンシング技術の進化により機器からのデータ取得が容易になったことも、サービス提供を後押ししました。

OperateXは、それぞれのお客さまが業務内容に合わせて、必要なサービスを利用することができます。標準サービスとして用意しているのは、システム運用を含めてデータの収集・蓄積から帳票生成や見える化の機能のほか、お客さまにて個別にカスタマイズできるように、APIや開発環境も合わせて提供します。OperateXのサービスにより、どこからでも遠隔から、各地に展開された生産拠点の設備や動力(エネルギー)の管理ができます。例えば、地図やリストから選択して見たい拠点を表示し、その拠点のKPIや、拠点内で発生したアラートなどのイベント一覧を確認。また、設備の稼働状態、エネルギーの使用計画や使用実績などのトレンドグラフ、プロセスフローなどの詳細情報を見ることもできます。

  • API:Application Programming Interface
  • KPI:Key Performance Indicator(重要業績評価指標)

このように数あるサービスの中で、特に工場やプラントのオーナー様に貢献するのが、エネルギーの使用状況を管理するサービスです。OperateXは、エネルギーを供給する動力設備の能力に応じた供給量の計画値と、生産計画を基にしたエネルギーの使用量の計画値、そして実際にエネルギーを使用した実績値を管理。需給の傾向から、エネルギーの余力や使用量のバラツキなどを把握することで、過剰でも過少でもない最適なエネルギーの使用を目指せます。エネルギーの過剰な使用を抑えることは、コスト削減はもちろん、省エネルギーにもつながります。

また、実績データや集計データを基にした、帳票の作成も可能です。さらに、収集したデータを、東芝アナリティクスAI 「SATLYS(サトリス)」で分析し、予測や最適化などの新たな価値を生みだすこともできると考えています。

OperateXは、工場やプラントに置かれた設備を管理する現場での、作業の安全確保や作業効率の向上に加え、動力設備のトラブルや故障を未然に把握してエネルギーの供給を継続させるという課題の解決に貢献。業務の高度化に向けて、運用の最適化を実現するサービスです。


OperateXによる効果が期待される現場


ここで、具体的にどのような業務に貢献できるのか、OperateXの活用例をご紹介します。

まずは、「点検・検査」での活用です。これまで点検や検査は、設備が置かれた現場で行われていました。そこで、カメラやマイクを設置。それらから集まる画像や動画、音声のデータにより、遠隔から現場の状況が確認できます。また、画像処理技術やAI技術などを活用することで、アナログメーターのデータ化、さらには一部の官能検査の自動化なども可能となり、検査業務の高度化と遠隔化を実現。点検や検査などで人が現場に行く頻度を減らすことができます。

次に、「レポートの作成」での活用です。統合的に管理している設備の稼働実績や作業履歴などから各種データの集計やグラフ化を行い、報告書や定期レポートなどを自動的に生成。作業者の業務省力化に貢献します。

さらに、「運転計画の作成」での活用においては、気象予測や生産計画など動力設備の運転に関連するさまざまな情報も活用して高精度なエネルギーの需要予測を行い、コストが最小となる最適な運転計画を立案します。ここでは、当社のデータ分析技術が強力に発揮されます。

最後は「設備の保全」への活用です。一般的に行われている、設備の稼働情報に対してしきい値を設定し、設備の故障の予兆を検知する方法はもちろん、例えば動力設備の場合は、動力設備の稼働情報とその動力系統から収集したさまざまなIoTデータを合わせてAIが学習することで、いつもと異なる状況や故障の予兆を早期に検知します。動力設備の故障によるエネルギーの停止を防ぎ、生産活動を維持します。


O&Mプラットフォーム構築でエコシステムを実現


当社は、このOperateXを提供するにあたり、「アセット統合データ基盤(以下、統合データ基盤)」を構築しました。統合データ基盤は、これまで個別のシステムで管理されていた運用・メンテナンス(O&M)の業務に関わるさまざまな設備や機器、業務のデータを統合して管理します。この管理データを活用し、統合データ基盤上で、設備の異常や故障の予測、部品の手配、運転や保全の計画立案、復旧や保全の対応、現場の支援、日常あるいは定期的に行う点検、遠隔操作、資材管理、そしてデータの収集や設備の監視など、O&Mにおける一連の業務が行えます。

  • O&M:Operation & Maintenance(運用・メンテナンス)

また、すでに当社が設備メーカーに提供している、IoTでつながる製品のデジタルデータを活用し、新たなビジネスへの変革を支援するサービス「Meister RemoteX」も、統合データ基盤の上で展開していきます(図1)。

この統合データ基盤が、工場やプラントで設備を使用するユーザーと、設備を提供する設備メーカーが集ってデータの活用が促進される、データの価値が高まるプラットフォームになることを、そして将来的には、O&Mプラットフォームビジネスが実現することを目指しています。この先、このプラットフォームを活用する設備メーカーと、そこにつながる設備が増えていき、さまざまな活用事例が充実していくことで、ユーザーが抱えている課題解決への貢献度も上がるでしょう。このようなユーザーとメーカーのエコシステムの実現を目指しています(図2)。

またデータの活用により、ビジネスの新たな創出や発展も可能になると考えています。例えば、設備メーカーは、自社で開発した設備だけでなく、他社が開発した設備もメンテナンスするビジネスが始まっています。そのほか、これまでユーザーが使う設備はユーザー自身で運用するのが一般的でしたが、今後OperateX、あるいはRemoteXを活用するユーザーや設備メーカーが増えることで、遠隔から設備の監視や運用を代行するビジネスなどが創出されるでしょう。

OperateXとRemoteXに共通の統合データ基盤は、ユーザーと設備メーカーとが同じデータを参照する仕組みですが、セキュリティの観点からも安心して活用できます。その理由は、この仕組み(フレームワーク)が、経済産業省が策定した「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」に則った東芝グループの枠組み「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー(TIRA)」に準拠した、安全な施策が行われているためです。

ニューノーマルな時代の設備管理において、遠隔監視化・デジタル化は必須です。当社は、Meister OperateXによって、現場の作業者の健康と安全を守り、設備の安定した稼働とトラブルの未然防止、作業の効率化、運転の最適化、さらにはエネルギーの最適化など環境への貢献などを、みなさんと一緒に図っていきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年12月現在のものです。

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