誰にも予想できない災害や出来事による世界の不確実性の高まりは、私たちの日常生活や企業の活動に大きな変革をもたらしています。製造業への影響も大きく、今回の新型コロナウイルス感染拡大では、供給ショックと需要ショックが併発。人の移動が制約される中、デジタル化が進んでいない現状が浮き彫りになりました。グローバルサプライチェーンは寸断され、物資の供給が途絶するリスクも顕在化しました。今や、製造業では新たな危機にも対応できる強靱(きょうじん・レジリエント)なサプライチェーンの構築が急務となっています。ここでは、ニューノーマルな時代に求められるレジリエントなサプライチェーンについて、またそれをどのように構築するのかを、事例を交えてご説明します。


これからの時代に求められるサプライチェーンの姿


現代において、世界各地で起こっている予測困難な自然災害や、今もなお終わりの見えない新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの日常生活や企業のビジネスモデルに、急速に、そして大きな変革をもたらしています。

そのひとつが、製造業におけるサプライチェーン(供給連鎖)に関するものです。従来、企業の調達部門には、調達コストの査定やその削減が求められてきました。そんな中、近年、頻繁に発生する災害の影響を受け、サプライチェーンが寸断されて物資の供給が途絶する「供給ショック」が起こっています。そこで、調達部門は優先的に取り組む領域を、「コスト」から「安定供給」へシフトさせ、これまで以上にサプライチェーン全体の状態を把握することに重きを置くようになっています。実際に、日本では、2011年に発生した東日本大震災を教訓に、自然災害への対応を強化する動きが活発になりました。

また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、各家庭が不要不急の消費を自粛したことで需要が落ち込む「需要ショック」が起こっています。同時に供給ショックが発生し、そこでは現在のサプライチェーンが抱えるボトルネックが顕在化しました。

2000年以降、グローバル化の流れが加速する中で、経済性と効率性の追求を目的に生産活動を海外に移転する企業が増えた結果、生産拠点が一部の国と地域に集中。世界的に見て、特に中国への依存度が高くなっていたことが、コロナ禍における物資の安定供給に大きな影響を与えた要因だと言われています。このことから、日本企業がこれまでに構築してきたグローバルサプライチェーンは、これまでの「集中生産による経済性・効率性」と新たな「供給途絶リスクへの対応力」という2つの軸のバランスを見ながら、再検討する必要性が生じています。

世界の不確実性がより高まる今、サプライチェーンには強靭(きょうじん・レジリエント)さが、急ぎ求められているのです。

東芝グループでは、十数年前から災害対策を含めた調達改革に取り組み、自社で運用できる仕組みを整備してきました。そこでは、ここ数年の間に発生したさまざまな災害での経験を生かし、有事にも強いレジリエントなサプライチェーンの構築を進めています。

特に、サプライヤーとのコミュニケーションにより現場のデータを取得する仕組みは、重要なポイントです。例えば、サプライヤー戦略やカテゴリー(品目)戦略などを用いて、綿密に戦略を立てて調達活動を行うとき、仕様や品質、コスト、市況、購買額、災害といった現場のデータ、その中でもいかに「質の高いデータ」を活用できるのかが、カギになります。この質の高いデータを自社だけで取得して蓄積することは困難なため、サプライヤーと連携できる仕組みが重要となるのです。


サプライチェーン強靭化へのアプローチ


さて、このようなレジリエントなサプライチェーンを構築するにはどのようにアプローチするべきなのかを、詳しくご紹介します。

このアプローチは、東芝グループがサプライチェーンの強靱化を進めてきた中で得たノウハウと、私たちが調達ソリューションをさまざまなお客さまに提供してきた過程で得たノウハウの結晶とも言えるものです。

ここでポイントとなるのは、「サプライチェーン情報の整備」、「災害発生時の影響把握」、「供給途絶リスクの回避」という3つのステップによるアプローチです(図1)。

第一のステップは、サプライチェーン情報の整備です。ここでは、サプライヤーとサプライチェーンの情報を共有し、鮮度のよい情報をサプライヤー自身がメンテナンスしていける仕組みを整備します。運用で大切なのは、適切なサプライチェーンの範囲と粒度を決定すること。これはメンテナンスの工数と、有事における影響とのバランスをとるためです。膨大な数の部品がある中で、部品ごとに継続したサプライチェーンのメンテナンスがどこまで可能なのか、有事に対象の部品すべての影響を調査して回答できるのか、といったことと、生産が停止したときに経営に与えるインパクトを考えて、整備する情報の適切な範囲と粒度を決定します。

第二のステップは、災害発生時の影響の把握です。ここでは、初動の迅速化が重要です。これを実現する手法として有効なのが、フィルタリングの効果を生かした段階的な調査です。まずは1次調査で生産拠点ごとの被災状況を把握。2次調査では、1次調査で「影響あり」や「未回答」だった拠点のみ、調査を深めていきます。私たちの経験では、災害時の調査において、9割以上の生産拠点から「影響なし」と回答を受けることが多いと認識しています。そこでは、影響がなかった拠点を迅速に調査対象から外し、影響がある、あるいは影響が見えない(未回答)拠点の調査にいかに注力できるのかがカギになるのです。迅速な影響調査を行うためには、サプライヤーとの定期的な訓練も欠かせません。

また、世界で発生している災害情報を的確に捉えることも、重要な要素です。インターネットにあふれる膨大な災害情報から、必要かつクリティカルな情報を抽出することはとても困難な作業です。これを解決するには、災害の種類ごとに影響調査の基準をガイドライン化しておくことが必要になります。例えば地震の場合、国内は震度5強以上、海外はマグニチュード6以上というように基準を設定しておきます。台風やそのほかの災害も同様です。

最後のステップは、供給途絶リスクの回避です。ここでは、サプライチェーンの見える化とリスク管理を行います。サプライチェーンの情報には、有事に関わる情報だけでなく、平時のリスク管理にも役立つ情報を整備することがカギとなります。
例えば、生産拠点の情報には、サプライヤーの拠点名や住所に加えて、緯度と経度、代替できる生産拠点、そしてリスク評価項目などの情報も登録しておきます。また、サプライヤー側の管理者は、主担当と副担当を決めておくことで、初動の対応やメンテナンスの際に連携がしやすくなります。

サプライチェーンを見える化するメリットは、改善するべき点の気づきが得られ、次の施策につなげられることです。例えば、ピラミッド構造(ツリー構造)だと思っていたサプライチェーンが、実際には2次サプライヤー以降で、特定のサプライヤーがある部材の供給を一手に担うダイヤモンド構造になっていて、代替できる拠点がないことに気づけたりします。つまり、見える化によって、災害が発生して影響が出る前に、サプライヤーの最適な配置に向けたサプライチェーンの先手管理が実現できるのです(図2)。


「Meister SRM」でレジリエントなサプライチェーンをサポート


ここで、お客さまの事例をご紹介します。新型コロナウイルス感染症の発生初期、ある精密機器メーカー様では、感染症の拡大が同社製品の生産に及ぼす影響について、迅速な把握と対策を講じられたそうです。そこでは、平時における有事への準備が奏功しています。

具体的には、1次や2次のサプライヤーだけではなく、n次のサプライヤーまでの関係性がツリー構造で整備されていたこと。また、災害の種類別にその影響が想定されるサプライヤーの絞り込みと、拠点や品目のレベルでの影響を一斉に調査する仕組みの構築、さらには影響が生じた生産拠点の代わりに同じ品目を供給できる代替生産拠点に関する情報が整備されていました。実際に、代替生産拠点について、同じ品目を生産している拠点はあるか、あるいは同じ品目を生産する設備を持つ拠点はあるかなどを検索し、代替生産先の検討が進められたそうです(図3)。

過去の自然災害への対応で実績があったこれらの準備は、今回の新型コロナウイルス感染拡大への対応においても有効なことが確認されました。

ここで活用されている仕組みは、当社の戦略調達ソリューション「Meister SRM」が提供するBCP 管理の機能によるものです。Meister SRMは、自社のバイヤーとサプライヤーとの双方向のコミュニケーションを支援する基盤であり、調達活動における、見積りや発注、検収といった基幹業務を補完するさまざまな機能を持ちます。

  • BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)

先の事例でご紹介したBCP管理の機能をはじめ、電子見積や、取引先の調査などのサプライヤーとの接点プロセスにわたるコミュニケーション基盤と、この基盤に蓄積されたさまざまな情報を分析して見える化する機能などがあります。この基盤によりお客さまがサプライヤーと連携しやすい環境をつくれていたこと自体が、有事でのやり取りで効果を発揮したと、お客さまから評価されています。

これらの機能はコンポーネント化しているため、お客さまは、必要な機能のみを選択して活用できます。もちろん、オンプレミスとクラウド、いずれの形態での活用も可能です。

Meister SRMは、東芝グループが調達改革を進める中で生まれたソリューションです。また精密機器や自動車の部品メーカー、プロセス産業で事業を展開されているお客さまにご活用いただいた実績から、業種や業界それぞれで異なる業務や運用のポイントなどを取り込み、またさまざまな有事の経験からも改善を続けてきました。このように、当社には、Meister SRMの立ち上げや運用における経験や知識が豊富に蓄積されています。

Meister SRMと当社がこれまでに培ってきたノウハウをご活用いただき、サプライヤーを含めて体系化した運用と有事の迅速な対応が行えるレジリエントなサプライチェーンを構築して、共にこれからの災害や不確実性の高まりに備えてみませんか。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年11月現在のものです。

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