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Vol.32 「TOSHIBA SPINEX」による変革と価値創造 インダストリアルIoTサービスの展開を加速

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#02 CPSテクノロジー企業に向けた経営戦略を支える技術戦略 東芝IoTリファレンスアーキテクチャーによるデジタルイノベーションの加速 株式会社東芝 矢野 令, 安次富 大介

サイバーフィジカルシステム(CPS)テクノロジー企業を目指す東芝。その目的は、社会課題の解決を通じてお客さまの満足を最大化すること、そして東芝の事業を一層発展させていくことです。そこで重要なミッションを担うのが、デジタルイノベーションテクノロジーセンターです。デジタルソリューション事業を担う東芝デジタルソリューションズや各産業分野で事業を担うグループ各社と連携しながら、インダストリアルIoT(IIoT)サービス「TOSHIBA SPINEX」の早期開発と品質向上を推進。さらに「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」に基づいた、各事業ドメインをまたぐ共通基盤の構築など、東芝がこれまでに培ってきた経験とノウハウを、CPSの時代にふさわしい技術基盤に結晶化していくという、テクノロジーをビジネスにつなげる数々の取り組みを進めています。ここでは、デジタルイノベーションテクノロジーセンターのサイバー領域における技術戦略をご紹介します。

CPSテクノロジー企業への進化に向けたOpen/Close戦略

どんなに優れた技術も、経済的な価値を創出してはじめて存在する意味を持ちます。東芝のデジタルイノベーションテクノロジーセンターでは、豊富な技術力を経営資源としてとらえ、これまでに培ってきた高度な技術と研究開発の成果を、戦略的かつ効率的にビジネスに結びつける数々の取り組みを推進しています。

東芝は、世界有数のCPSテクノロジー企業を目指しています。そこでは、「データを活用したビジネス(データビジネス)」を経営戦略の柱の一つにしています。この経営戦略を実現するため、技術戦略に「Open/Close戦略」を掲げました。ここでいうOpenとCloseは、それぞれ「協調」と「競争」を意味します。協調とは、東芝のハードウェア製品やサービスだけでなく、他社や異業種のハードウェア製品やサービスとも連携することを意味します。また競争とは、ビジネスの根幹となるデータと、機械学習やAIといったデータ分析における他社との差別化を意味します。これら協調と競争を、共通フレームワーク「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー(Toshiba IoT Reference Architecture)(TIRA)」で実現しています(図1)。

※TIRAのコンセプトや構造については、#01で詳しくご紹介しています。

図1 東芝IoTリファレンスアーキテクチャーによる「Open/Close戦略」の実現

このTIRAの中で「IoT Bus」および「Service Bus」の部分が、協調するOpenな領域です。疎結合な境界面(インターフェース)としたことで、他社の製品と連携することができるようになります。開発言語やプラットフォームを問わず、他社の製品やサービスからも利用することができます。

また、「Data」と「Analytics」の部分は、競争するCloseな領域です。Analyticsでは、東芝の研究開発センターが持つAI技術や、東芝デジタルソリューションズのアナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」に代表される、東芝の先進的なデータ分析技術を活用することで、他社との差別化を図ります。東芝のAIに関する特許出願数は、世界で3位、日本で1位*です。

*世界知的所有権機関(WIPO)発行の「WIPOテクノロジートレンド2019年」より

東芝の「Service」においては、東芝のインダストリアルIoT(IIoT)サービスを、東芝グループ全体で「TOSHIBA SPINEX」というブランド名で提供していきます。東芝の製品やサービスに加えて、他社や異業種の製品が生み出すデータも活用し、オープンイノベーションによる新たな価値を創出し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していきます。フィジカルとサイバーの世界におけるデータを最大限に活用し、データプロバイダーやプラットフォーマーとしてお客さまに価値を提供していくことが、CPSテクノロジー企業の役割と考えています。そしてその推進役を担っているのも、デジタルイノベーションテクノロジーセンターです。

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信頼あるIIoTサービスのためのクライテリアと認定

矢野 令

TOSHIBA SPINEXとしてIIoTサービスをお客さまに提供するうえで、デジタルイノベーションテクノロジーセンターでは、2つのクライテリア(基準)を設け、それをもとに東芝グループが提供するIIoTサービスに対して、認定を行なっています。

1つ目のクライテリアは、「インターフェース」です。前述したように、インターフェースは協調する領域です。例えば、Web APIの場合、現在、実質的な世界標準といわれているOpen API Specificationなどの仕様を用いて定義していることが、クライテリアを満たす条件になります。このような条件を明示的に定義して開示することで、幅広くサービスの開発者がインターフェースを利用することができるため、オープンアーキテクチャーによる「協調」が実現します。

2つ目のクライテリアは「セキュリティ (株式会社東芝)」です。経済産業省が策定した「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF*)」に従った枠組みで、セキュリティへの対応を説明できることが条件になります。このセキュリティに関する説明責任を果たすことにより、他社が運用するクラウドを活用された場合でも、お客さまはセキュアなIIoTサービスを安心してご利用いただくことができます。CPSFは、ISO/IEC 27001やNIST SP800といった国際的なセキュリティの標準仕様との対応も示しています。海外でサービスを提供するという観点から見ても、十分なクライテリアであると考えています。

*CPSF:Cyber/Physical Security Framework

IIoTサービスがこれらのクライテリアを満たしているのか、つまりTOSHIBA SPINEXのラインアップとして認定するのかどうかは、東芝グループの技術責任者が参加する会議体において行ないます。このような全社的な会議体の中で認定を行なうことは、IIoTサービスそのものの再利用や技術的なノウハウの共有を、事業領域を超えて行なう取り組みでもあります。このクライテリアを満たすことを絶対条件としたことで、TOSHIBA SPINEXにラインアップされたIIoTサービスは、技術的な裏付けにより安全性と品質があらかじめ保証された、信頼ある優れたサービスであると言えます。

現実世界で実業を展開する東芝による、実効性あるIIoTサービスとして、TOSHIBA SPINEXは、さまざまな産業分野のお客さまから早くも大きな期待を集めています。

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共通化とコンテナ化による開発効率の向上で、CPSビジネスを加速

安次富 大介

TOSHIBA SPINEXは、2019年度に12種類のサービスの提供を開始します。これを皮切りに、今後は「TOSHIBA SPINEX」というブランドのもと、TIRAに準拠したIIoTサービスを、各事業ドメインに続々と展開していきます。

※TOSHIBA SPINEXの12種類のサービスは、#01の図3でご紹介しています。

さらにこれらのサービスを相互に連携させるとともに、他社の製品やサービスをオープンに束ねてDXを実現していく画期的なサービスを実現していこうと考えています。そのためには、構築の生産性とサービスやテクノロジーの再利用性を高め、開発効率を上げていく取り組みが欠かせません。

そこで、デジタルイノベーションテクノロジーセンターが現在進めているのが、IIoTサービスの開発・運用基盤の統合です。CPSの実現に必要な技術群には、「認証・認可」「データ収集・活用」「制御」など、社会インフラやエネルギー、製造、物流といった産業分野の違いにかかわらず、共通するものが数多く存在します。グループ各社が同じ基盤上でCPSを開発し、運用することで、効率的に、そして蓄積したノウハウが容易に横展開できる、東芝IoT基盤サービス「Habanero(ハバネロ)」をクラウド上に構築しました(図2)。

※Habaneroは、東芝IoTリファレンスアーキテクチャーの実装形態の一つとして位置づけられる、東芝グループ向けのIoT基盤サービスです。

図2 東芝IoT基盤サービス「Habanero(ハバネロ)」の構造

事業ドメインごとに分散していたCPSに関する共通技術を標準化して、この基盤に集約し、AI分析などに関する現代のベストプラクティスを次々と投入しながら、マネージドサービスとして活用していきます。これにより、グループ各社におけるIIoTサービスの開発期間の短縮と品質の向上を実現。高い競争力を発揮していきます。

また、TIRAに準拠して実装するソフトウェアを「コンテナ化」する取り組みも推進しています。一度作成したアプリケーションを再作成することなく、サービス間、あるいはプラットフォーム間で自由に移行できるコンテナ技術は、その再利用性とポータビリティーの高さが魅力です。TIRAがコンテナをいち早く取り入れることで、それに準拠するTOSHIBA SPINEXの開発効率が一層高まり、DXへの道筋はさらに加速します。

東芝では、TIRAを中心とした、このような取り組みの数々を、IIRA*のような国際標準に反映する活動も行っています。これにより、世界のCPS市場における東芝の存在感を高め、さらには新産業革命の時代における日本の産業の力をグローバルに再認識してもらう起爆剤になりたいと考えています。

*IIRA:Industrial Internet Reference Architecture

経営戦略と技術戦略をしっかりと連動させながら、世界有数のCPSテクノロジー企業へと一層加速していく東芝にご期待ください。

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※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年1月現在のものです。

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