ものづくり企業が「未来のエレベーター」を見据えて挑んだデジタルトランスフォーメーション(DX)(前編)
~東芝エレベータが自らを変革させる推進エンジンとは~
イノベーション、経営
2023年11月13日
左:東芝エレベータ株式会社 執行役員常務 チーフデジタルエグゼクティブ 古川 智昭
中:同社 CX推進部 CX推進企画第一部 シニアマネジャー 隈本 新
右:同社 執行役員常務 CX推進部 ゼネラルマネジャー 浅見 郁夫
DX推進に向け、いかにトップを説得し、社内風土や業務プロセスを変えたのか
福本:
ここからは東芝エレベータのDX推進に向けた体制やプロセスについて伺いたいと思います。まずDX推進にあたって工夫された点や苦労された点についてお聞かせ下さい。
古川:
DX推進はトップダウンで社長から落とさないと上手く進まないとよく言われるので、まず役員クラスから理解してもらおうということになりました。理解してもらいやすくするために、最初はSD制御盤によって、ソフトウェアでいろいろなサービスを提供できるという話から始めました。将来像を描きながら、これを使うことによって、具体的にサービスがどう変化していくかを繰り返し説明しました。また、競合や他社とも比較して自社の立ち位置を示し、「このままではIoTやデジタル化で他社に太刀打ちできなくなり、いずれ入札の声も掛からなくなります」と訴えました。
これらの説明を積み重ねることで、「新しいモノをつくるのではなく、現行のエレベーターに価値を加える」という点を理解してもらえるようになり、そこから本格的なDX推進体制をつくりました。まず2020年にIS部門の情報戦略システム部とDX推進部門を一体化して5名で活動をスタートしました。そこでEaaS事業の立ち上げを提案し、承認を得た後、新たなサービスを提供できるようにするためのベースとなるSD制御盤をつくることになりました。
2021年4月に立ち上げた開発体制では、ハードウェアのみならず、お客様側から見た価値を具現化するプラットフォームを構築しようと取り組みました。当時の社長から「2年間で作りきれ」と号令がかかり、各部門で業務に精通したメンバーを集めることができました。
このように1年半かけて組織も形になってきたので、2022年10月にサービス企画とものづくりが一体となってプラットフォームづくりを行うため、新たにCX推進部を設立しました。プラットフォーム構築開始時には15名程度だった体制が、現在のCX推進部は約40名までに増え、今後さらに増強しようと取り組んでいるところです。
福本:
組織が大きくなり事業を立ち上げていく段階になると、人材育成であったり、販売店や代理店、ゼネコンの方々など多くのチャネルの理解をいただいたりと、いろいろな対応が必要になるかと思います。人材育成やパートナリングについてお聞かせ下さい。
古川:
人材については、CX推進部を中心に育てていこうとしています。必要なスキルを洗い出し、それらをどのような教育で身に付けてもらえるようにするか検討してDX人財育成プログラムを構築しました。それをこれから展開していこうとしています。
福本:
パートナリングでは、お客様や社員やパートナーの声に対応するスピード感も重要です。2年のプロジェクトの中で、そのプロセス変革をどう進めてきたのですか。
古川:
CX推進部としての基本戦略を立案しました。ポイントは「アイデア」「VOC(Voice of Customer)/VOE(Voice of Employee)」「技術」の3つです。このうちアイデアを起点にした上で、VOC/VOEに取り組むアプローチにしました。CX推進部としては、立ち上げ直後の段階では、敢えてVOC/VOEを取りに行きませんでした。というのもサービスに固定観念が付くのが嫌だったからです。やはり新しいことを行うには、現状の課題解決の視点だけでなく、新しい視点を取り入れる必要があるので、半年間はエレベーターという枠を取り払い、世の中の動向をしっかりと見ながらアイデアを出し合いました。
福本:
ゼロベースでアイデアを出したということですね。
古川:
そうです。自分たちでアイデアを積み上げて舞台を整えてから支社店巡りを始め、そこでVOC/VOEとの突き合わせを行いました。自らしっかり考えた上で臨むため、支社店の人たちと話ができる状態になるわけです。彼らに対して「CXが我々のミッション&ビジョンそのもの」ということを強調して、「だから我々は新たに特殊なことを始めるのでなく、根幹のことをやろうとしているのです」と説明しました。また、世の中のビジネスの動きとエレベーター事業の立ち位置を示しながら、DXに取り組む必要性についても説明しています。
BtoBからBtoCへ、顧客の経験価値を高める新たなサービスへの理解を得るための取り組み
隈本:
従来のエレベーター事業は、ほとんどがBtoBビジネスでした。利用者はエンドユーザーでも、C(Consumer:消費者)へのタッチポイントは限定的でした。個人の利用者に寄り添いつつも、公共性の高い乗り物として、全体最適の設計がされていました。エレベーターが世の中にある乗り物と異なる点は、免許不要で誰でも乗れることですが、そうなると製品自体はどんどんコモディティ化します。以前から、これから先のエレベーターは、利用者に寄り添いながら差異化する必要があると思っていましたが、そのきっかけを上手くつかめませんでした。
隈本:
新組織ができてから、新しいサービスを世の中にどう伝えていくかが重要になると感じていましたが、一番の大きな課題は、社内に対するプロモーションでした。社員がお客様に届けたいと思ってくれなければ、よい商品ができてもお客様に売りに行ってくれません。
これまで東芝エレベータが製品を市場に投入する際は、内容がしっかり固まるまで情報の公開を控え、明日から発売するというようなプレスリリースばかりで「Coming Soon」的な発信はしてきませんでした。しかしEaaSについては、サービス販売開始前の早い段階からプロモーションを展開し、前線で直接お客様と対面している営業を中心に、直接訪問し対話会を行いました。
ただ、発足したばかりの新組織なので、まずCX推進部が何をする組織なのかという説明から始めました。CXについて知ってもらった上で、CX推進部が作ったEaaSがどのようなものかを理解してもらい、それから全社的なCXの取り組みやDXに向けた計画を説明しました。前線の社員の共感を得てアクションに繋げてもらうために、まずはCX推進部や取り組みについて認知・理解してもらう必要があると考え、一歩一歩、地道に全国行脚を始めたわけです。
福本:
いきなりHowやWhatを説明するのではなくて、Whyが大事だということですね。
隈本:
社内サイトにも新組織のCX専用サイトを立ち上げ、「何でも意見箱」というコーナーなども設置し、各所の声を集めています。いわゆるVOCやVOEを拾う目安箱的なもので「気づいたことを何でも書き込んで下さい」とお願いしています。それをもとにして、CX推進部のメンバーがサービス企画や業務効率改善などの施策を検討しています。
福本:
変革を伴うDXを推進していくとなれば、いろいろなご苦労もあったかと思います。
隈本:
エレベーター保守という現在のベース事業でお金を稼ぐサービス事業は、社内で理解されやすいのですが、我々がやろうとしている市場の将来像から作る新サービスについては、なぜ必要なのかがなかなか伝わらないのです。
業務効率改善に加えて、新事業を立ち上げてワクワクする前向きな議論をし、将来に向けたエレベーター事業を拡大していき、前線の共感を得ることができたことで新たな取り組みを進めることができるようになったと考えています。
古川 智昭
東芝エレベータ株式会社 執行役員常務 チーフデジタルエグゼクティブ
1992年、株式会社東芝に入社。現在の東芝エネルギーシステムズ株式会社で約30年にわたり原子力事業に携わった後、エレベーター・エスカレーター事業におけるDX、事業開発のために、2020年に東芝エレベータに移籍。同社のDXを強力に推進中。
浅見 郁夫
東芝エレベータ株式会社 執行役員常務 CX推進部 ゼネラルマネジャー
1993年、株式会社東芝に入社。以来、長年にわたりエレベーターの開発部門に在籍。
日本初となる機械室のないマシンルームレスの標準形エレベーターや、東京スカイツリーのエレベーターなどを手掛けた。2022年10月に新たにCX推進部を立ち上げ、現在に至る。
隈本 新
東芝エレベータ株式会社 CX推進部 CX推進企画第一部 シニアマネジャー
1994年、株式会社東芝に入社。当時の交通昇降機事業部に所属し、九州支社に営業技術として配属され、後に営業に転身。2010年に本社営業推進部に移り、新設事業の商品企画・販売戦略づくりなどを推進。2022年10月のCX推進部発足時に着任し、現在に至る。
執筆:井上 猛雄
- この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2023年11月現在のものです。
- Elevator as a Serviceは東芝エレベータ株式会社の登録商標です。
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