ブロックチェーンがもたらす新たなビジネスの可能性(後編)
~ブロックチェーンを活用した協業の取り組みと未来社会への貢献~

イノベーション、テクノロジー

2022年10月25日

ブロックチェーン技術による新ビジネスを展開しているスタートアップ、ZEROBILLBANKの代表取締役CEO堀口純一氏に「ブロックチェーン技術がもたらす新たなビジネスの可能性」についてインタビューした内容の後編。
前編では、主にブロックチェーンがもたらす価値と利用動向などの話を中心に紹介した。後編では、同社が取り組むブロックチェーン事業や協業の取り組みについて伺った内容を紹介する。

ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役CEO 堀口 純一氏

ZEROBILLBANKが展開する3つの事業

福本:
ZEROBILLBANKのブロックチェーン事業について教えて下さい。

堀口:
当社には大きく3つの事業があります。
1つはモノのトレーシングをサプライチェーン上で実現する事業で、メインターゲットは、サプライチェーンを構成するメーカー、物流、倉庫、流通業です。今後は二次流通、例えば中古品の保証や価値の担保など、サーキュラーエコノミーにおけるモノのIDを管理する領域にも参入する予定です。これが今後メタバースや、コンテンツ流通のNFTのようなデジタルの世界に広がっていくと考えています。そこで、こういう分野にIDを付与できるように準備しているところです。

提供:ZEROBILLBANK

2つ目は、パーソナルデータ事業です。名前や生年月日など各種パーソナルデータは、データ自体をブロックチェーンで管理すると、改ざんはできなくなる一方で、変更も消去もできず、扱いが難しくなります。そこで当社ではトッパン・フォームズさんと提携し、「パーソナルデータストア」というデータ流通基盤を活用することによって、パーソナルデータを分離して管理できるように工夫しています。誰が情報にアクセスしてよいか、という情報へのアクセス権管理をブロックチェーンベースで実施し、パーソナルデータのアクセス権管理を行っています。また、本人確認や、GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)などのグローバルでの厳しい基準への準拠が求められるプライバシー管理領域でも取り組んでいます。
3つ目は、CO2管理事業です。三菱重工業さんのオープンイノベーション・プログラムに選定され、「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CO2の回収・有効利用・貯留)」の取り組みも展開中です。ブロックチェーン技術でCO2排出量を管理しながら、メタバースなどの新しい世界に応用する試みが始まっています。もともとはモノとヒトの管理の領域で事業を行っていましたが、CO2管理の領域にも取り組み始めたところです。


サプライチェーン上のトレーシングを東芝グループとの連携で実現する

福本:
御社と東芝グループとの連携の取り組みについても教えて下さい。

堀口:
まず当社の物流DX支援パッケージ「Trace Ledger」との連携があります。2021年に東芝さんのアクセラレータ・プログラム「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM」に参画させていただき、サプライチェーン上で流れる情報を横断的にトレーシングする物流領域で協業する運びとなりました。

提供:ZEROBILLBANK

当社は、Microsoft AzureやAWSのブロックチェーンを活用して事業を展開していましたが、国内の製造や流通のビジビリティ(認知度)を持つ東芝さんと連携して取り組めることは、スタートアップとして魅力的でした。現在、東芝デジタルソリューションズさんのエンタープライズ向けのプライベートブロックチェーン「DNCWARE Blockchain+」上にトレーシングのためのスマートコントラクトを移植し、新しい仕組みを一緒につくろうとしています。
具体的には、QRコードを用いメーカーから流通、小売り、量販などのサプライチェーン間を流れる情報を各ノードで共有し、検証可能なブロックチェーン・インスペクション(ブロックチェーンを用いた診断・監査の仕組み)の構築を進めております。「誰が」「どの条件で」「どう出荷した」という作業エビデンスを、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)とも連携させて、各サプライチェーンで実施した処理結果を、ブロックチェーンベースで貯めながら、関係者と情報を共有していきます。

提供:ZEROBILLBANK

従来は、これらのプロセスが何万枚もの紙を介して行われ、人がそれを全部チェックし、処理も待ち行列になっていました。データとして準備ができていても、プリントが間に合わない、紙を探すのに手間がかかる、紛失してしまうなどの課題がありました。そこでスマートフォンにQRコードをかざすだけで、今日の作業や出荷、検品の確認が簡単にできるようにすることで、オペレーション効率を高めることができます。
さらにこのような取り組みによって紙も無くなり、カーボンニュートラルにおけるGHGプロトコルのスコープ3(自社の事業活動に関連する事業者や、製品の使用者が間接的に排出する温室効果ガス)の領域でもCO2排出量が下がっていきます。
東芝グループとはサプライチェーンでの情報共有の仕組みづくりを進めていますが、将来的にモノがユーザーに渡る時のPOSデータまでカバーできるようになれば、一緒にいろいろな新しいビジネスに広げられるのではないかと考えています。


ブロックチェーン普及の課題は、社会実装における座組みづくり

福本:
東芝グループと多くの分野でビジネスの可能性が広がりそうですね。では、こういったブロックチェーンの利用拡大に向けて、技術面やビジネス面、社会実装面での課題はありますか。どのような解決策があるのかも、併せて教えていただけますか。

堀口:
まずは技術面や運用面では、合意形成の難しさやスケーラビリティでの課題がありますが、これは時間の問題で解決すると思いますので、そこまで躍起になる必要はないと考えています。それ以上に、社会実装面の課題の方が難しいと思います。例えば先ほどのサプライチェーンを例に挙げると、座組みづくりに多くの時間がかかるのです。

福本:
確かに日本には、他社とのエコシステムづくりが難しいと感じている企業が圧倒的に多いようですね。

堀口:
その点では、欧州は上手ですね。まず標準をつくり、これに準拠しないとビジネスができないようにする。環境基準も同様です。ぜひ、そこを東芝さんに主導してほしいです。実際そのポジションにおられると思いますし、そういう場を日本全体で作っていただければと期待しています。当社はスタートアップなりの速さで、大企業などが気付かなかった領域も手掛けていきたいですね。

福本:
多くの企業は既存事業の延長でものごとを考えてしまいがちです。だからこそ、ゼロベースで考えられることは、スタートアップの強みになると感じています。


企業の非財務領域のデータをいかに公正明大に、外部に向けて発信できるかが重要に

福本:
カーボンニュートラルの話でも出ましたが、他社に見せられないクローズなデータは、意外に多くないのではないかと思っています。日本企業は他社にはどうしても必要なデータだけ提供するクローズな文化ですが、欧米は困ることが無ければ他社とデータをオープンに共有する傾向があると思っています。社外へのデータ提供・他社との共有という観点では、どのような課題があるとお考えですか。

堀口:
まず監査法人に頑張ってほしいです。彼らのメイン業務は財務監査なのですが、実は帳票やERPシステムをかなり時間をかけて見ています。また、人が行うとどうしても意思も入ってしまう。そこで、何をどういう手順で監査するのかがスマートコントラクトで自動化され、改ざんできないような仕組みがあれば、監査法人の業務が大きく変わるのではないでしょうか。
もう1つは非財務領域をいかに公正明大に外部に向けて発信できるかということ。例えば、CO2排出であれば、「このセンサーで、こういうルールに則って、CO2をトレースし、その結果こういうCO2のアウトプットがある」と積極的に開示できれば、それが多いか少ないかという議論も可能になるでしょうし、結果的にIRコストも下がっていくと思います。

福本:
ESGスコアの話も、実施しているか、してないかという話ではなく、実施していることが透明で見える化できていることが重視されます。

堀口:
実際にはなかなか難しい話です。金額や原価や利益率などのデータは出しづらいとは思いますが、戦略上隠すことによってプラスにならないデータなら、逆に開示して競争優位にした方が良いでしょう。ブロックチェーンはこういうものと相性が良いので、積極的に活用してほしいです。


未来に生み出される価値にブロックチェーンでインセンティブをつける世界

福本:
いま企業はカーボンニュートラルに向けてCO2排出量を報告すれば評価されますが、今後は内容の正当性や改ざんがないかも含めて評価されるようになるでしょう。また、地球規模で解決が求められる中では、各社のCO2削減量の報告にとどまらず、アクチュアルなデータを皆で交換し合い、どう対応すべきかについても考えなければならないと思います。このような社会やビジネスの構造変化に向けた、ブロックチェーンの未来と貢献についての見解をお聞かせ下さい。

堀口:
難しい質問ですが、もし本当に皆が地球規模で良い世の中をつくろうとするなら、我々が1つチャレンジしたいことがあります。これは「ZEROBILLBANK」という社名の由来に繋がります。ZERO-BILL-BANKとは「0円札を発行する銀行」という意味で名付けました。
仮に「健康のために毎日1万歩以上歩いて下さい」と皆さんにお願いしたとします。その時点で価値のない「0円のトークン」が付与され、毎日頑張って歩いて体重を維持していくと、自分のウォレットにトークンが貯まっていきます。結果的に町の住人全体が健康になり、医療費が10億円減ったとします。これは町の皆さんの頑張りによる成果です。そこで、この10億円分を各人の貢献度に応じて分配しましょう、という話になれば、活動によって未来に生み出されるであろう価値を原資としたインセンティブが組めるようになります。
当社ではこの仕組みを「トークン・オプション」と呼んでいます。これは、改ざんできない透明なプラットフォーム上にある新しい価値体系だからこそ可能な取り組みです。ヘルスケア関連の事例だけでなく、グリーンエネルギーやCO2排出権のようなものにも適用できますので、将来的には「緑の銀行」などもつくりたいと考えています。自分たちのウォレットとアカウントがあり、環境貢献活動が価値を生む世界を構築できるわけです。
まだ実現が難しいと思う世界でも、言葉を発して形にして相手に伝えると「こう思っているんだ、ならば一緒にやりましょう!」ということにもなるので、私はよく「未来新聞」のような形で企画を書いてプレゼンをしています。ZEROBILLBANKという会社が、色々なバリューチェーンの切れ目やこれまで閉ざされていた壁を破り、ブロックチェーンにより人と人、人とモノ、人と情報を組み合わせた新しいステージをうまく作ることで、地球にも貢献できればと思っています。

福本:
最後に東芝グループへの期待について、コメントをいただけると嬉しいです。

堀口:
やはり人への期待ですね。我々はスタートアップですから、まだ人的リソースも限られています。東芝グループの皆さんとのお付き合いは約1年になりますが、多くの技術や営業の方に出会えました。これまでお会いしたことのない方々との組み合わせから、新しい価値がたくさん創出できると思っています。結局のところ「人と人の組み合わせ」が技術をつくり、新たな事業を生み出します。そういう点で、まさに我々と同じステージで、一緒に演じていただけるとありがたいですし、そこに大きく期待しているところです。

堀口 純一
ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役CEO

IBM Japan、Singaporeで法人営業、事業開発を経験した後、2015年イスラエルでZEROBILLBANKを創業。
『Make a big stage』というミッションの下、既存Value chainの枠組みを超えて、これまでにはない新しい組み合せ(ヒトとヒト、モノとヒト、情報と情報など)を作り出す新規事業支援サービス「ON-TOP STAGE」を提供し、コロナニューノーマルにも対応できる大きな産業づくりを目指している。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年10月現在のものです。

執筆:井上 猛雄


関連リンク

おすすめ記事はこちら

「DiGiTAL CONVENTiON(デジタル コンベンション)」は、共にデジタル時代に向かっていくためのヒト、モノ、情報、知識が集まる「場」を提供していきます。