ブロックチェーンがもたらす新たなビジネスの可能性(前編)
~ブロックチェーンの価値とその利用動向~

イノベーション、テクノロジー

2022年10月18日

ネットワーク上の端末同士を直接接続し、暗号技術を用いて取引記録を分散的に処理・記録するブロックチェーン技術の普及は、ビットコインなどの仮想通貨から始まったが、金融以外でもその活用の可能性が広がりつつある。例えば、シェアリングサービスにおける本人確認手続き、不動産取引、電力取引の自動化、農産物の生産情報、災害時の物資マッチングなど多岐にわたる。
今回は、ブロックチェーンによる新ビジネスを展開しているスタートアップ、ZEROBILLBANKの代表取締役CEO 堀口純一氏に「ブロックチェーン技術がもたらす新たなビジネスの可能性」というテーマで、本ウェブメディア「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲が話を聞いた。前編では、ブロックチェーンがもたらす価値と利用動向、主な利用分野などの話を中心に紹介する。

ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役CEO 堀口 純一氏

ZEROBILLBANKのミッションは「Make a big stage」

福本:
堀口さんが代表取締役CEOをされている、ZEROBILLBANK起業の経緯や会社概要について教えて下さい。

堀口:

私はIBM Japanに営業で入社し、その後IBMシンガポールに転籍して、アジアに進出している日本企業のサポートを行っていました。2012年頃にビットコイン(仮想通貨)が登場し、それを支えるブロックチェーンに興味を持ちまして、週末起業のような形で、ブロックチェーン上でアプリケーションが動く仕組みをつくったのが最初のきっかけです。2015年にサムライインキュベートさんが募集していたイスラエルでチャレンジするというプログラムに合格したのを機に、イスラエルでZEROBILLBANK LTDを創業しました。その100%子会社がZEROBILLBANK JAPAN株式会社で、両方の代表を務めています。2016年に三菱東京UFJ銀行の「MUFG FinTech アクセラレータ(現在はMUFG Digitalアクセラレータ)」プログラムの第一期スタートアップに選定されまして、そのタイミングで帰国し、日本法人を立ち上げたことをきっかけに、軸足を日本に移してきました。
現在の主な事業は、ブロックチェーン技術による、大企業のバックエンドのデータやパーソナルデータの管理です。欧州では個人情報が重視されており、当社もトッパン・フォームズさんと業務提携し、パーソナルデータやモノのデータを管理すべく、大企業のアセットマネジメントに資する基盤を提供しています。プライバシー関連では、GDPR(General Data Protection Regulation: EU一般データ保護規則)に準ずるISO27701(プライバシー情報マネジメントシステム:PIMS)の規格があり、当社も日本で認証を受け、プロダクト基盤に反映しています。
当社のミッションは「Make a big stage」です。次の“ステージ”に行く、新しい“舞台”を作ることに挑戦したいという思いがここには含まれます。役者と役者の組み合わせで面白いドラマや映画ができるように、テクノロジーで従来と違うバリューチェーンや出会いの場を作ることで、人と人、人とモノ、人と情報といった組み合わせによる新しい未来が創造できると思っています。脚本も含めて我々がそのような舞台を作りたいという思いで、このミッションを掲げました。


ブロックチェーンのメリットは、データの真贋性、正当性、その検証可能性を担保できること

福本:
では本題に入りますが、まずブロックチェーンの特徴についてご説明下さい。

堀口:
ブロックチェーンの特徴は「名刺」の話に例えると分かりやすいでしょう。初対面で名刺を交換する時、その情報が本当に正しいかどうかは、もらった人には判断できません。本人であるだろうとの信頼のもとに、名刺の情報が正しいという判断をするわけです。これが企業と企業ならば、第三者の監査法人がチェックしその正当性を判定することで、正しいと判断することになるでしょう。
ブロックチェーンのメリットは、名刺の名前は住民票から、会社の住所は登記簿から、メールアドレスはドメインサービスから取得するように、改ざんできないスマートコントラクト(あらかじめ設定されたルールに従って、ブロックチェーン上の取引や外部から取り込まれた情報をトリガーに実行されるプログラム)を用いて、全員が事前に合意した仕組みから本人確認に必要な項目を自動取得し、確認できることにあります。よって、仮に初対面でも、そのデータの真贋性、正当性を、検証可能な状態で担保できていることがブロックチェーンの最大の特徴です。さらに、そのプログラムやデータの両方に変更履歴が残るので、これも大きな強みになります。
もう1つ分かりやすいのが、「本人確認」のケースです。例えばeKYC(スマートフォンやPCを使用して、オンライン上で本人確認を完結できる仕組み)で、免許証、パスポートなどの写真付き証明があることを、ネットワークに参加する全員が同じプログラムでチェックできれば、本人だと分かります。つまりネットワーク上のある一箇所で、決められた手順で本人確認した情報を、ブロックチェーン上で共有することができれば、その内容が正しいことを証明でき、業界ごとに各種業法などはありますが、理論的には、一箇所のみで「本人確認業務」を統合できるのではないかとも思います。

提供:ZEROBILLBANK

情報を社外とで積極的にやりとりしてこそ真価を発揮するブロックチェーン

福本:
ブロックチェーンはどのような新しい価値をもたらすのでしょうか。例えば今年のハノーバーメッセでは、シーメンスが「Estainium協会」というオープンエコシステムを提唱しました。アクチュアルな製品カーボンフットプリント(PCF:Product Carbon Footprint)のデータをグローバルで共有できる世界初のエコシステムと謳っています。サプライチェーンに関わるプレイヤーが、アクチュアルなデータを改ざんなく共有できる点が重要と説いていました。
これまで各企業で閉じて管理していたデータを、どこまでオープンにすべきかという議論もあります。しかし欧米ではデータを繋ぐか、繋がないかという議論から、データプラットフォーム上でデータをどのように安全に取引するか、という論点に変わってきている気がします。そのような状況で、ブロックチェーンならば、企業や業界を横断した新たな取り組みを実現できるのではないでしょうか。

堀口:
ブロックチェーンを一社で使っても効力は大きくないと思います。ブロックチェーンは情報を社外に向かって積極的に伝達していくケースに向いています。5年ぶりに日本に帰国して驚いたのは、サプライチェーンをまたいだ情報伝達の仕組みがアナログ過ぎるということでした。
メーカー内や倉庫内であれば、ERP等で統合されたデータ管理は可能です。しかしメーカーから倉庫、倉庫から物流というバリューチェーンの切れ目の情報伝達は紙で行われ、繋がっていないのです。このバリューチェーンの切れ目にこそITが効きます。特にサプライチェーンでは、「この条件で、このタイミングで出荷しています」ということを、チェーン全体に対して包み隠さず積極的に情報を出すことによって価値が生まれると思います。

提供:ZEROBILLBANK

福本:
インダストリー4.0のコンセプトは様々な社会課題の解決であり、工場のスマート化にとどまるものではありませんが、日本ではデータを用いた工場内の諸問題の解決に視野が行きがちでした。また、物流領域など投資が限られていた分野もありました。しかし、サプライチェーンの各局面を、同じ視座から見ないと情報共有は難しいと思います。

堀口:
日本のSIerでは、営業の担当顧客は業種ごとに線引きされてしまって他のテリトリーに手を出しづらい状況でしたが、徐々に変わってきており、発注から出荷までのバリューチェーンをまたいだ情報やプロセスの効率化を図るケースが増えています。ぜひ企業間をまたぐコンソーシアムや業界全体で、この課題を解決したいと考えています。


コンピューティングの歴史からみたブロックチェーンの位置づけと今後のトレンド

堀口:
私は、いつも皆さんに講演でこう問いかけています。「この図の波は何のトレンドでしょうか?」と(笑)。私は2000年にIBM Japanに入社したのですが、今後どのような世界が来るのかということを、その時々のタイミングで、先端技術を追いながらも、大きなトレンドの中で考えていました。

提供:ZEROBILLBANK

コンピューティングの歴史は、いま分散型に振れていると思います。IBMが強みを発揮した集中型のメインフレーム時代から、長い年月をかけて、クライアントサーバーの分散環境の時代になり、ネットワーク技術の急速な進展に伴いインターネット時代に突入しました。その後、再びOracle EBS(E-Business Suite)やSAP R/3などのERPで、経営資源すべてのデータを管理していく一極集中の時代になり、それが2010年頃まで続きました。
その後の10年間はクラウドやSaaSが台頭、IoTが登場して、経営一極でデータを管理する時代から、外部の力を使いながらエンドポイントやエッジも含めて管理する方向になってきています。おそらく、今はUn-bundling(一体化されたものをバラす)の局面で、それを分散プラットフォームで管理しているのがブロックチェーンでしょう。その行きつく先に、Web3やNFT(非代替性トークン)といった技術があり、それらが次のトレンドになりそうです。
またネットワーク環境の変化も重要です。2030年以降に6Gが登場したとき、コンピューティングやネットワーキングが変わり、データ管理の仕方も変化するでしょう。さらに、今後、量子コンピュータや量子暗号などの世界が見え始めた時、どのようなデータ管理の仕組みを作っていくべきかについても、大きなポイントになると思います。

福本:
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のようなキーワードも出てきていますが、金融機関や投資家が評価する上で、企業のマネジメントやガバナンスが透明であることが求められるほか、トレーサビリティがきちんとできているかという点も重要になります。このような観点からみると、テクノロジーだけでなく、エンタープライズ的なものも必要になるということだと思います。

堀口:
自分たちだけでない誰かが証明してくれるブロックチェーン技術を用いて、積極的に業界をまたいだ形でビジネスを進めていく必要があると思っています。


ブロックチェーンの新たな利用動向

福本:
最近は「プライベート・ブロックチェーン」という言葉も聞かれますが、どのような用途で使われるのでしょう。

堀口:
パブリック・ブロックチェーンに対しては現在、大きなメリットがある反面、コスト面や税法適用など企業として扱いづらいケースもあるかと思います。また、企業間の取引で活用したいケースでは、特定の管理者のもと、限定されたユーザーのみが利用できるプライベート・ブロックチェーンという手段が力を発揮すると思います。

福本:
コンテンツと非コンンテンツの領域での、ブロックチェーンの使い方についても少し整理して教えて下さい。

堀口:
まずコンテンツ領域ですが、デジタルで表現できるアートや、IP(知的財産)管理で誰がアセットオーナーになり、それにどれぐらいアクセスがあるのか、「From-To」が正しい状態で追えるものに対してブロックチェーンが効力を発揮します。今のNFTは投機的に見えますが、二次流通を考えるとブロックチェーンとは相性がよいのです。デジタルアートや、小学生のドット絵なども話題になりましたが、それはセカンダリーマーケットがあることを前提に設計されているものだと思います。
それから仮想通貨の先駆けのETH(Ethereum)の共同創設者、ヴィタリック・ブテリン氏が、次のテーマに「SBT(Soul Bound Token)」を提唱していました。これは転送できないNFTで、ある人にはどこまでの資格を付与し、それ以降どこにも渡らないように、Soul Boundつまり魂を送る、というものです。まだ標準化された技術は無いのですが、スマートコントラクトで制御できるアセットとしてうまく使えるようになると、NFTの可能性が大きく広がると思っています。

福本:
SBTは、いわば人間の魂が紐づけられるという感じで使われるものですね。

堀口:
一方で、企業活動でのブロックチェーンの活用を考えると、やはりトレーシングが必要なモノを管理するという用途が多いと見ています。
例えばサプライチェーン上で流れていくモノの情報を、トレーシングして管理する領域にマッチすると思います。また、カーボンクレジットがNGOや民間主導のボランタリーマーケットとして立ち上がりつつありますが、従来は価値がないと思われていたモノが、誰かが認証して情報として価値を持ち始めた時、モノがどこにどう動いたのかといった情報をトレーシングする領域で効力を発揮すると思っています。

福本:
サーキュラーエコノミーでも、どこで作られて、誰がどれだけ使って、不正なものが使われてないかを確認したり、リユース時にそのまま再利用するか、アップデートするか、一部をばらして使うか、その時の状態がどうなっているか、改ざんがないか、といったことにもブロックチェーンが役立つと思います。

堀口:
単品管理ができると、さらに良いと思います。例えば1本のゴルフのドライバーでも、ヘッド、シャフトなど、それぞれについて、誰が、どれぐらいの期間、所有していたのか、どこで売ったかというように、管理できる範囲を細分化できるほど、より真贋性の証明が可能で、セカンダリーに回ったときも価値を持ってくると思いますね。

堀口 純一
ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役CEO

IBM Japan、Singaporeで法人営業、事業開発を経験した後、2015年イスラエルでZEROBILLBANKを創業。
『Make a big stage』というミッションの下、既存Value chainの枠組みを超えて、これまでにはない新しい組み合せ(ヒトとヒト、モノとヒト、情報と情報など)を作り出す新規事業支援サービス「ON-TOP STAGE」を提供し、コロナニューノーマルにも対応できる大きな産業づくりを目指している。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年10月現在のものです。

執筆:井上 猛雄


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