CN・CE・DXの変革の波の中、日本の製造業が世界と伍していくためには(前編)

経営、イノベーション

2022年8月1日

いま先進国を中心に、同時並行でカーボンニュートラル(CN)、サーキュラーエコノミー(CE)、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが進行し、社会・産業構造に大きな変化をもたらそうとしている。
今回は、東芝デジタルソリューションズのIoT技師長 中村 公弘と、顧客向けのDXコンサルティングサービスや東芝グループ横断でのインフラサービス推進に従事する、デジタルコンサルティング部長 中間 雅彦に、「CN・CEに向けた産業構造変化を牽引するDX」というテーマで本ウェブメディア「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲が話を聞いた。
前編では、社会・産業に求められる構造変化の世界的潮流と背景、CN・CE・DXに向けた企業の経営課題を中心に議論した内容を紹介する。

東芝デジタルソリューションズ IoT技師長 中村 公弘

CN・CEに向けて製造業に求められる変化

福本:
いま社会や産業に大きな構造変化が求められています。化石燃料からカーボンニュートラル(CN)へ、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミー(CE)へ、集中型から分散×ネットワーク型へと不可逆に移行しようとする中で、製造業は新しい時代をどう理解し、そこに向けて何をしていかなければいけないでしょうか。

中村:
東芝の経営理念は「人と、地球の、明日のために。」です。世界が一斉にCNやCEに向けて社会や産業の構造転換をスタートさせたいま、この理念を目指し、どのような切り口でどのようなことをやっていかなければならないのかを改めて考える必要があります。
例えば、CNやCEに資するハードウェアを提供することに加え、デジタルをうまく活用して、お客さまと共に新しいパラダイムに移行していく、その移行を支えることが重要だと思っています。

福本:
CN、CEに向けて社会や産業の構造はどのように変わり、メーカーにはどのような変化が求められるのでしょうか。

中村:
産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料、鉄などの地球資源に依存した大量生産、大量消費型の経済社会システム、リニアエコノミーの枠組みの中で経済活動を営んできました。地球から資源を採掘し、工場やプラント、発電所などで大規模に生成・加工、燃焼などを行い、エネルギーや製品などを作り、それを大量に流通させ消費していくという経済モデルが100年以上続いてきたわけです。これがこのまま続くと地球温暖化の問題や、大量の廃棄に伴う汚染の問題などが起きていくので、リニア型から循環型に切り替えていかないと地球が持たないことになります。
再生可能エネルギーは広く遍在する資源で、モノを再生利用する場合も都市鉱山といわれるように広く使われている製品の中の電子部品、銅、半導体などを集め、もう一度利用するような取り組みも必要になります。このように資源はあらゆる場所にあるという立場に立つと、様々な場所に存在するモノをうまく繋ぎ合わせる必要が出てきます。リユースやマッチング、静脈経済と言われる領域が増え、産業の枠組みも従来の垂直統合型のモデルから、分散×ネットワーク型に変わっていくことになります。これを実現する手段がデジタル、ネットワークなのです。

従来の、新しいモノをたくさん作り、消費することが美徳だった経済・価値観から、長く使う、上手に使う、次の人も使う、あるいは使える部分だけ残して整備・修理して再生する(リファービッシュ)、改修を施して新たな機能や付加価値を加える(リノベーション)、あるいはアップグレードやアップデートができるようにするなど、ライフステージや使用環境に合わせてモノを進化させたり、モノの使い方を変えられるようにしておくことによって、できるだけ長持ちさせる方向に変わっていきます。そうすると設計の在り方なども当然変わっていくわけです。


戦略的にCN・CEを推進する欧州と、日本

福本:
このような時代変化に向けた世界の動きについて、どう捉えていますか。

中村:
特に欧州は、戦略的に政策を進めていると思います。新しい時代のパラダイムがどうなるかというビジョンを描き、それに向けて着実に取り組みを進めています。どのような社会基盤や産業基盤が必要なのかをしっかりとイメージし、エネルギーの基盤、陸海空のモビリティ基盤、そしてデータエコノミーやデジタルエコノミーを創り出すデジタル基盤をそれぞれ構築しようとしています。次の時代の全体像から必要なストラクチャーを描き、そこに官民合わせた巨額の投資を始めています。
欧州は「全地球や全人類のため」にCNやCEを進めるということだけでなく、それらを新たな産業競争力、経済を伸ばしていく手段と考えています。規制の問題や、業界団体で進める仲間づくり、技術開発などを、同じ方向に向け、皆でベクトルを合わせて取り組んでいるように見えます。
また中国も、欧州の動きから学んで、自国でどうすべきかを組み立てて経済を回し、国力を高める戦略に使っていこうとしています。その流れの中で多くの規制や新ルールを策定しています。我々も彼らの動きに学び、日本、あるいは日本企業としてどうすべきかを考える時期に来ているのではないかと思います。

中間:
中村さんがおっしゃる通り、欧州や中国は国全体として産業構造を変えようという動きをしていますが、個別企業もCEやCNへの動きをどのように自社の競争力に取り込むかという点に注力しています。単にCO₂を義務的に減らすというのではなく、事業の武器に変えていけるのかということに注力しているように見えます。例えばある化学メーカーは、もともと他社も含めた材料情報を活用してサービス競争力を高めていましたが、CO₂排出量のデータも取り込んで提供することで、安心して自社製品を買ってもらおうとしています。こうしたCNを武器に変えていく動きが、個別企業でも非常に目立っていると感じています。

福本:
日本の動きについてはどう見ていますか。ドイツが2011年に発表したインダストリー4.0について考えてみると、社会問題を解決していく目的で提唱されていたのが、日本に入ってくると、スマートファクトリーの実現や工場内の諸問題の解決のためのものと捉えられ、個別企業の取り組みに留まっていたように思います。

中間:
日本企業には、義務としての「やらされ感」がある気がします。取り組むにはコストがかかってしまうので、その義務をできるだけ遅らせよう、遅らせようという動きが見られます。そうなると、グローバルでの個別企業の競争力に開きがでてしまうのではないかと懸念しているところです。

福本:
欧米はデファクト・スタンダード(市場での使用実績による事実上の標準)やデジュール・スタンダード(公的な標準化組織が策定する標準)主導、日本は要素技術開発主導で産業・事業を考えると言われています。日本では標準化は利益にならないという意見も聞きますが、ドイツはルールメイクによって巧妙に仕掛け、利益がもたらされる構造にしようとしています。このような違いは、なぜ起きるのでしょうか。

中間:
日本の場合は、島国でありながらそれなりの経済規模があり、自国だけで経済が成立してきたからだと思います。国内にいろいろなプレイヤーが存在している点も、欧州とはかなり違うと思います。そもそも欧州では、ひとつの国だけで経済やサプライチェーンが成立する国はほとんどなく、他国とすり合わせて決めていくのが前提という文化が根付いているように感じます。
また、日本での議論を見ていると、例えばデータ共有についても、どうやって共有しようというところは熱心に議論するのですが、誰がどう使い、どう効果を出すのかという議論が薄いと感じています。

中村:
やはりルールメイキングでは、欧州のほうが断然したたかで上手いと思います。ただ日本が苦手かというと、実はそうでもないと思います。どちらかというと日本は完成品で性能の良いものを作れば売れるという、先入観や固定観念があると思います。

福本:
日本企業は、品質が良いものを作っても売れなくなる時代がくるかもしれない、という危機感が足りないのかもしれません。欧州は、相互干渉しながら足を引っ張り合う仕組みを作りガバナンスをきかせて、そこで上手くやった企業が生き残っていくというイメージもあるように思います。

東芝デジタルソリューションズ ICTソリューション事業部 デジタルコンサルティング部 部長 中間 雅彦

絶対解と成功体験にこだわる日本は、重層的な課題を解決できるのか

中村:
日本企業は従来からの垂直統合型・集中型(階層型)というピラミッド型の産業構造に適合したマインドセットや業務プロセス、サプライチェーンになっており、そこから抜け出せなくなっているようにも感じます。CNやCEのアプローチは、ドラスティックに三角のピラミッドを丸の循環型に変えるようなものです。その丸の中には網目状に繋がる分散ネットワークがあるというイメージを描けていない可能性もあります。
マインドセットやカルチャー、業務プロセス、そしてCN、CE時代に向けたビジョンがぼんやりしたままでは、我々は一体どこに行くんだろうということになってしまう。だから日本企業は受け身にならざるを得ないのかもしれません。
過剰適合というと言い過ぎでしょうが、これまでの成功体験が、新時代をイメージさせるものや、カルチャーを担っていくことに対して、足かせになっているのではないかとも思います。

福本:
CN、CEに向けた企業の経営課題は、これまで培ってきた方法では解決できないため、経営方針や戦略を見直していかなければなりませんが、現業の継続と並行して新しいルールに対応していくという、二重の負担を強いられることにもなるため、トップが次の一歩、新しい一歩をなかなか踏み出せないところもあるのでしょうね。
また、ビジネストランスフォーメーションに向けて、企業はさまざまな課題を抱えていると思います。目指す姿を描き、そのための手段としてデジタル技術やデータを使いこなすことや、データ共有やエコシステムへの取り組み、あるいはそれらを担う人材の登用や育成にも課題があると感じています。現実的にはどのあたりに課題があり、なぜ上手くいかないとお考えですか。

中間:
お客様とたびたび議論になるのですが、日本企業の場合は従来からのシナリオ、固定化したモデルに基づき、絶対解があるという考え方で行動する習慣が染みついていると思います。ひとつの絶対解を求め、考えて考えて考え抜くアプローチがCN領域でも出てきているようです。
一方で、欧州、その中でも特にエネルギー系の企業は、もともと戦争や災害などで大きな影響を受けてきたので、複数のシナリオを持ち、まずは各シナリオを検討したうえで、どちらに転んでも何とかなるように手を打っています。日本には複線的に将来を予測し、それが過程であることを前提に、動きながら検証していく力、アジャストしていく力が欠けている気がします。

中村:
新時代に向けてトランジションする必要があると思います。古い時代のある部分を組み替え、ディスラプトしながら、着地していく。そこに向けて、まず何を目指すのかというビジョンと、どの方向に向かって歩くのかというダイレクション、実現できるアプローチ、それらを支えるベースとなる人、マインドセット、カルチャーが先ほどの共通理解に繋がらなければなりませんが、そういう土壌づくりが少し足りないのかもしれません。
繰り返しになりますが、日本企業は垂直統合型・集中型のビジネスモデルで成功してきたので、いま起きているパラダイムシフト、ネットワーク型の業務プロセスや、価値創出のネットワークに移るのに心理的なハードルがあるとも言えます。しかも投資も短期的な視点で論じられがちです。CNやCEにシフトしていくには、本来すごく時間がかかるものです。そこに向けた投資を正当化するための基準もあまりないので、この問題はかなり重層的なものになると考えています。やはりマインドセットやカルチャーの問題が根底にあり、従来型のプロセスや仕掛けで解こうとすると上手くいきません。逆にマインドが変わっていないのに、新しいこと、例えばITの仕掛けだけ入れたとしても、たぶん機能しないでしょう。この重層的な構造を理解した上で、レイヤーごとに手を打っていく必要があるのです。


CN・CEへの対応をコストとして捉えない仕掛けや社会基盤が必要に

福本:
従来の考え方で捉えると、CNやCEへの対応は、どうしてもコストとして捉えられてしまうのでしょうか。

中村:
まだそう考えてられていることが多いかもしれません。規制やルールが作られて困った例として、90年代のLCA(Life-Cycle Assessment)や、有害な物質の使用を制限したRoHS対応、最近だと個人情報保護のGDPRなど、いろいろな規制に対応するために、コスト増になってしまった記憶が残っているからです。単なる負担増と捉えられないようにする考え方や仕掛け、あるいは社会基盤が必要になってくるのではないでしょうか。
欧州の場合、CN、CEへの対応だけでなく、インダストリー4.0やGAIA-Xなどでも、大きな構想を実現していくために、先行する巨大企業が何社かで役割分担し、パイロット的に進めて細かいところは進める過程で詰めていく。戦略的に必要なところは標準規格化、知財権、ルール作り、そして基盤化で先行することで、ある種の競争優位性を築いていく。 それを中堅・中小まで津々浦々に広げて基盤化していく、といった戦略的な動きに見えるんですね。ところが日本では最初から枝葉末節や個社にこだわり、そこまで思い切れないという実態があります。

福本:
欧州でも、CNやCEに対する手段はいろいろあり完全にでき上がっているわけではないと思いますが、多くのプレイヤーがノウハウを持ち寄りオープンに議論しています。日本でこのような動きにならない理由は何でしょうか。

中村:
過当競争的な状況もあるかもしれませんが、慣れていないのでしょうね。欧州は国同士が上手く協調できるような関係になっており、地域として対アメリカ、対中国、最近だと対ロシアといった共通の利害関係があるから、協調ルールをつくれるという感じがします。

中間:
日本の場合、やはり「自前主義×過当競争」なのだと思います。私は以前、インドビジネスに10年ほど携わり、赴任した経験もあるのですが、インドは混乱を恐れずに新しい制度を一気に導入してしまいます。元々カオスなので、混乱を恐れる必要がないということが大きいとは思いますが(笑)。日本では、絶対に混乱を起こしてはいけないという暗黙の前提があり、それを回避するために枝葉末節の配慮にすごく時間を使います。CNも大手企業に対しては、とにかくやりなさいという話でしょうが、反作用をどうやって吸収するかという議論に時間を大きく割いてしまう気がしますね。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年8月現在のものです。

執筆:井上 猛雄


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