CN・CE・DXの変革の波の中、日本の製造業が世界と伍していくためには(後編)

経営、イノベーション

2022年8月4日

東芝デジタルソリューションズの中村公弘と中間雅彦にインタビューした内容の後編。前編では、社会・産業に求められる構造変化の世界的潮流と背景、カーボンニュートラル(CN)、サーキュラーエコノミー(CE)、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた企業の経営課題を中心に語った内容を掲載した。
後編では、この変革の波に乗り遅れずに世界と伍していくために日本企業が取り組むべきCN、CEへの対応や、そのための重要な手段となるDXの推進について議論した内容を紹介する。

東芝デジタルソリューションズ ICTソリューション事業部 デジタルコンサルティング部 部長 中間 雅彦

シナリオプランニングとロードマップを描き、できることからいち早く着手を

福本:
将来を見据えて、日本企業はどのようにCNやCEに取り組めばよいのでしょうか。経営面でいま足下で対応すべきこと、先回りして行うべきことや、事業活動での施策などについて教えていただけますか。

中間:
本来やるべきことは、例えばエネルギー価格や新技術開発などのさまざまな要素、シナリオをしっかり念頭に置き、それに基づいて自社の計画を練っていくことでしょう。シナリオプランニングとロードマップの作成は、まず一番先にやるべきことかと思います。
ただ日本企業には、既にお話ししたように数多くの問題があります。そのため短期的なROIなど確実に期待できるところから始める会社が実際には多いようです。デジタルを活用した新しい省エネ分野や、コストも下がってきた太陽光発電、再エネ電力の拡大あたりが取り組みやすいでしょう。ですが、本質的には、未来を予測したシナリオプランニングやロードマップ、CNやCEをどう自社の強みに変えられるのかといった点をしっかり考えることが大切です。

福本:
そうなるとマネジメントの仕組みをどう作っていくのかという点が一番大事になりそうですが、それが進んでいる企業は多くないという印象です。トップダウンでの意思決定がしやすいオーナー企業は別ですが、その他の企業はなかなか難しい気がします。何か特効薬はありますか。

中間:
それは難しいですね。50社ぐらいにアンケートを取ったのですが、CNのプランがある企業は4割ほどで、残り約6割はプランがないとの回答でした。お客様と個別にお話した限りでは、やはりCNを進めると事業が立ち行かない、製鉄、石油化学、製紙、紙パルプなどの企業は、事業継続に強い危機感を持っていますね。
これら以外の業種では、CSRレポートには何かしらプランが書かれていて目標設定までされている大企業も多いのですが、具体的な計画までは書かれていません。特効薬とは少し違いますが、欧州で進められている欧州気候法、EU排出量取引指令、グリーンタクソノミーなどが制度化された場合に、どこまで自社の事業にインパクトを与えるのか、しっかりと把握するところから始めるべきだと思います。

福本:
とはいえ、ESG(E:環境、S:社会、G:ガバナンス)投資というのは、CSR(Corporate Social Responsibility :企業の社会的責任)やSRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)とは異なり、長期的な利益と価値創造のために行うもので、単にコスト削減の取組みだけでは評価されないと思います。求められるものが透明性だとすると、結局マネジメントの問題に帰結すると思うのですが、そこに日本企業が気づいていないような気もします。

中村:
まず企業が取り組むべきことは、世界がCNやCEにシフトしていくのはもう不可避ですから、まずCN、CEの時代がどうなって、何が変わってしまうのかをしっかり認識し、新たな時代にどう向かっていくのかというビジョンとアプローチをしっかりつくることだと思います。できるだけ多くの人を巻き込んでいき、多くの人のマインドセットを変え、沁み込んだカルチャーを変えていくことも徹底してやるべきでしょう。ルールや基盤などが決まってから着手するとコストになってしまうので、先に取り組んだほうが有利になります。
DXも同様で、最初はコストとなっていても外販に転じれば収益に繋がります。自社製品をIoT化してDXを推進できた企業は、そのシステムやIoTの仕掛けを外販でき、顧客と太いパイプを作れます。サプライヤの生産性を高め、サプライチェーン全体のコスト管理までもっていければ、大きなコストダウンになるのです。
ただし、そこに至るまでには、かなり長い期間が必要です。だから早く始めないと回収まで行きつかない。国の制度や基盤、他社の成功例を待っているだけだと、着手する時期がどんどん遅くなり、先行する他社が基盤をつくってしまい、サプライヤや顧客がどんどん使い始めてしまうと、もうそれに乗るしかなくなり、永遠にコストが掛かる構造になりかねません。すでに欧中がかなり先行していますが、それでも早く取り組んで、外部にも使ってもらえる基盤や仕掛けを作るアプローチが必要ではと考えます。


新しい世界に本気で向き合い、日本の総合力を生かした実現力を発揮する

福本:
インダストリー4.0の話に戻りますが、GEが「Predix」、シーメンスが「MindSphere」といったIoT基盤を出してきましたが、最近はあまり話を聞かなくなりました。今年あたりから、より大きな社会課題を解決するために、業界をまたいだエコシステムが必要だという議論へと変わってきています。それにどう対応していくのかがポイントになるだろうと考えています。

中村:
インダストリー4.0やインダストリアルインターネットは、産業構造を大きく変えようという試みで、10年ぐらいその流れで進んできたのですが、ここにきてさらにCNやCEという、製造業だけではなく、さまざまな産業のあり方が問われる領域に対象が拡がってきたと捉えることができます。社会や産業の在り方そのものを変えようというアプロ―チは同様ですが、本当にそこに向き合えるかどうかがポイントになるでしょう。しかし、従来の成功体験が生きない新しい世界に向き合うというのはハードルが高いと感じる方もいるでしょうし、変われない企業も多いでしょう。

福本:
人の問題も大きいかもしれないですね。ルールメイクの場で発言しないと、欧州に有利な条件でデジュール化が進んでしまいそうです。積極的な対話が大事ですが、日本人が発言しないのは文化的なものでしょうか。

中村:
単にヘジテートして、という話ではないのではないかと思います。遠くまで見通しているかどうか、という点でも課題を感じます。極端な例かもしれませんが、イーロン・マスク氏は、まだ内燃機関やHV化でしばらく行こうとしていた時代に、いきなりEV車の開発に乗り出し、巨額の投資をしてソフトウエア制御で自動運転させ、蓄電池づくり、充電網づくりまで一足飛びにやるわけです。従来の延長線上のものを出すのか、全く新しい社会に切り替えるためのものを出すのか、その距離感の違いが大きいのではと思います。
遠くまで見通せる力に対して、資金が集まり、投資してくれるカルチャー、それを一私企業や一個人でできるというのが米国の凄さです。また、皆でデジュール標準をつくって、一緒に進められるのが欧州の強みです。一方、日本の場合は、そんなに遠くの話にまで投資もされにくいし、ほとんどの企業では許容されないのではないでしょうか。ある意味では、中国は非常にうまいと思います。ビジョンや産業アーキテクチャーのフレームワークの描き方も、欧州のものをしっかり勉強して中国風にアレンジしていますし、中国のスピード感と突破力で実現していきますからね。
ですが、実現力という点で見れば、産業がフルセットで揃っている日本のほうが高いのではないかと考えています。素材・材料、半導体製造装置、プロセス産業からディスクリートのアセンブリ産業、サービスまで、全部揃っているのが日本の強みです。それだけで勝てるわけではありませんが、その強みをうまく生かさないともったいないと感じます。

東芝デジタルソリューションズ IoT技師長 中村 公弘

出遅れている点を認め他国から真摯に学び直して、全体像を把握する

福本:
今後、日本の産業界に求められるCEとCNの取り組み方について、まとめていただければと思います。

中間:
先ほど中国の話にもありましたが、ビジョンやアーキテクチャーを頭で考えられないのなら、既にあるものをアレンジすればいいと頭を切り替ることだと思います。出遅れているという点をしっかり認めて、進んでいる国から学ぶこと。欧州の動向を知らない人も多いのですが、考える前にまず調べることが必要です。
そして「考える」と「調べる」を混同しないことが大切です。考えなければいけないことをいくら調べても、将来は見えてきません。調べずに考えても意味のある結論は出てきません。きちんと外部動向を把握したうえで将来を考えて、スピード重視で真似られるものは真似て、学んで、その上に未来像を描き、チャレンジしてみる。やってダメなら、すぐに見直すという当たり前のことをしっかりやることが大切です。

中村:
今回のCN、CE、DXの動きは同時に来ています。国なり地域なりの競争力を高めるために、新しいパラダイムを描き、一斉に走り出しているようにも見えます。それらの先行する動きから真摯に学び、全体像を理解することが重要です。「いま一体何が起きているのか」をパズルのピースのように当てはめていくと、全体像が見えてきます。
欧州や中国が描く産業基盤や社会基盤が他国より早く出来上がっていくと、日本を含めた他国の国際競争力は低下してしまう可能性があります。少なくとも企業のトップの方々はその危機感を共有し、そこに向けてどうするのか国を挙げて考えて欲しいです。まだ今はキャッチアップの段階として、ベクトルを合わせて徹底的にやっていけば、日本は産業をフルセットで持っているので、もしかすると欧州よりも早く実現できるかもしれません。

福本:
事実を捉えるのもすごく大事ですが、思っている以上に問題は複雑だということを、まず理解しないといけないですね。

中村:
しかもCNとCEも重層的な構図になっていますから、一つ一つ解いていく必要がある難しい課題です。でも困ったと言っているだけではダメで、歩き出さないことには解けません。着実に実現していくところにこそ、日本の、我々の真価があるのではないかと思います。


CN・CEの推進には、デジタルテクノロジーの活用やDXの取り組みが必須に

福本:
CNとCEの重要な施策となるDXの取り組みとしては、具体的にどのようなものがありますか。

中間:
いま我々は、さまざまなレイヤーでデジタル活用を進めています。CNでは、GHGプロトコル(温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的な基準)のスコープ1(直接排出量)とスコープ2(間接排出量)の部分もデジタル活用が必要となりますが、実は工場のエネルギー運用と設備稼働、生産計画が意外に連動していないのです。とにかくエネルギーを切らさずに、どのような状況でも一定の運転ができるようにしているという話はまだ多くあります。工場のエネルギーを必要な時に必要な分だけ使って設備を運転できるように、デジタルで支援していくことが基本的な方法です。ただし、それだけでは効果が限定的なので、企業間の取り組みを繋いでいくことも必要になります。
また、シナリオプランニングの作成やモニタリングなどの部分でのデジタル活用を進めていけるようにしたいと考えています。

中村:
CNの観点では、スコープ3(そのほかの排出量)においてサプライチェーンスルーでモノの製造から廃棄までの温室ガス排出量をデータで捉えたり、CEに移行するためには、原材料や部品構成などを把握し、どのような環境で運用され、メンテナンス時にどこを直したり取り替えたのか、というモノのヒストリーをデータですべて持っておく必要が出てきます。モノの調達、製造、使用、メンテナンス、廃棄という段階で、温室効果ガスを誰がどれだけ排出したのかというデータをすべて記録しておくとともに、どう作られて、どう使われ、どこがまだ使えそうかというデータもできるだけ記録しておく必要があります。
欧州ではDPP(Digital Product Passport)の取り組みが始まりました。DPPは、例えればモノの履歴書の全てをデジタルで管理する仕組みのようなもので、製品、コンポーネントおよび原材料の移動を追跡し、それらに関するデータにアクセスすることが可能となります。デジタル前提で、CNに資する温室効果ガス排出量を捉えたり、CEに資する再利用性を管理することができるようになります。
CNの話で言うと、再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するので、発電量が多いところと消費量が多いところで電気をやり取りしなければなりませんが、それをデジタルで繋ぎ合うネットワークが必須になります。CEも同じで、ある人が使わなくなったモノを、次の人に引き継いで使ってもらうとか、部分的に再利用するために、ネットワークで繋がっているほうがやりやすいわけです。つまり、エネルギーの循環にも、モノの循環にも、デジタルで繋がる仕掛けが求められます。この大きなCNとCEの課題に対して、デジタルの活用が不可欠であると考えています。

福本:
デジタルはあくまでも手段なので、まずCNやCEを実現したあとの未来像を考えた後、デジタルをどう使っていくか、という順で考えないと意味がないということを改めて感じました。最後になりますが、東芝は、どのようにCNやCEに貢献していくのかについて教えてください。

中間:
エネルギー分野で川上から川下まで、ハードからデジタルまで事業ができる会社は限られています。デジタルを前提とした、デジタルが当たり前のCNの仕組みは、全体を見られる東芝のような会社だからこそ実現できます。全体を俯瞰してエネルギーをどう使うのかをしっかりと考え、お客様にソリューションを提供していきたいと思っています。

中村:
CN、CEについては、お客様も同じ課題に直面していると思います。東芝は半導体、電子部品から、コンポーネント、プラント、デジタルまで、言ってみれば産業構造の上から下まで携わっています。お客様が直面されている課題と同じ課題にぶつかっていくわけです。私たちは、お客様の課題を少し先回りして解決し、その結果として、「人と、地球の、明日のために。」という企業理念を実現し、世の中に貢献していく使命があり、また、短期的ではなく、長期的に取り組むだけのポテンシャルがある会社だと信じています。これは東芝の人間なら誰もが思っていることでしょう。その気持ちが、本当に大事な土台になると思っています。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年8月現在のものです。

執筆:井上 猛雄


関連リンク

おすすめ記事はこちら

「DiGiTAL CONVENTiON(デジタル コンベンション)」は、共にデジタル時代に向かっていくためのヒト、モノ、情報、知識が集まる「場」を提供していきます。