製造業DXに向けた東芝の「スマートマニュファクチャリング」の取り組み(後編)
テクノロジー、イノベーション
2022年1月28日
スマートファクトリーに留まらないスマートマニュファクチャリングに向けた東芝の生産技術革新の取り組みについて、東芝 生産技術センター 技監 高納政敏と上席研究員 西村圭介にインタビューした内容の後編。
前編では日本のDXがなぜ遅れているのか、阻む要因は何かなどについて語り合った内容を掲載した。後編では生産技術センターにおける東芝グループのモノづくりのデジタル化、スマートファクトリー化、さらにはスマートマニュファクチャリングに向けた取り組みについて紹介する。
右:東芝 生産技術センター 技監 高納政敏
左:東芝 生産技術センター 上席研究員 西村圭介
生産技術センターが推進するモノづくりのデジタル化、スマートファクトリー化とは
福本:
生産技術センターが行っている、東芝グループのスマートファクトリー化に向けた具体的な取り組みについてご紹介ください。
西村:
まず、東芝グループの各工場のビジョンを描くサポートをしています。従来、東芝のモノづくりは、製造現場だけで変革を考えるという発想が主流でした。ですが、スマートファクトリー化の取り組みは、工場の中だけでは達成できません。ですので、設計や生産はもちろん、営業担当者、工場によっては総務担当者なども含めて議論をして「ありたい姿」のビジョンを描いた上で、生産の役員、生産統括責任者、工場長まで皆が腹落ちできるところまで議論をして、幅広く合意形成を行いながら進めるようにしています。そうすることによって個別最適から全体最適に向かうことができると考えています。ビジョンを描いた後の取り組みとしては、工場のDX化のレベルを診断し、DX実現のシナリオを一緒につくり、さまざまなテクノロジーを活用したDXを実際に進め、さらに業務として定着化させるサポートもしています。
福本:
スマートファクトリー化に向けて「パーパス」の視点で考えるための手伝いをしつつ、デジタルテクノロジーを活用して実際の現場の改善のサポートもする。そういう多面での取り組みをされているということですね。
高納:
生産技術センターは、東芝グループの各製造拠点がスマートファクトリー化やDXの取り組みを自走していけるようにするためのサポート役を担っています。自律的に動くのは各拠点の人たちです。我々はビジョンを描き、進め方を体系化する手法や、IoT、AIなどの技術を各工場に導入し、工場の人たちがそれを活用して「自分ごと」として、工場全体で成果を出していくまでを支援します。
生産技術センターは、これまでデジタル生産技術と業務プロセス変革の2本柱で東芝グループのデジタル化を進めてきました。業務プロセスで起こっている事象をデジタルデータ化していくために、ITやネットワーク、センシング、分析、シミュレーションなどの技術を適用したデジタル生産技術を開発しました。これらを用いてCPS(Cyber Physical Systems)を構築し、製造に関わる業務プロセスのデータを収集・分析し、アクションに繋げる、すなわちデジタルデータを活かしたPDCAで業務プロセスを変革することで、スマートファクトリー化につながると考えています。
東芝グループ横断で進めるスマートファクトリー化、スマートマニュファクチャリングへの取り組み
福本:
東芝グループ横断で進めている、スマートファクトリー化の取り組みについて教えてください。
高納:
システムを入れれば工場が良くなるわけではありません。我々は長らく各工場と共に生産性向上、品質改善、モノづくり強化という活動に取り組んできました。そのためにIEを推進できる人材を育成し、現在、各拠点には何名ものIE人材がいます。その人たちが中心になって、品質管理、作業管理、業務管理など7つの管理カテゴリーごとに「ものさし」を定め、目標を決めて現場のカイゼンに取り組んでいます。ここ数年はスマートファクトリー化を進めていくため、IEの領域にデジタル技術を持ち込み、データの収集や見える化、データ活用などのデジタル化レベルを指標化し、それを毎年レベルアップし、工場全体を良くするための取り組みを進めています。
その取り組みの一つとして、本社の生産推進部や生産技術センター、各工場の生産技術のメンバー、製造現場の人たちが一緒になって、スマートファクトリー化を推進する活動を「CFT活動」として組織化・プロジェクト化して進めています。まずは目指す活動レベルや活動内容を明確化し、製造拠点ごとにビジョンを描きつつ、スモールスタートで効果を感じながら、ステップアップさせていくサイクルで進めてきており、既に複数の工場でDX化、業務プロセス変革が実現しつつあります。
西村:
この活動は、工場のスマート化に留まらず、先ほどから話がありますようにバリューチェーン全体でスマートな状態に繋がっていくことを意識して取り組んでおり、3つのステップで進めようとしています。STEP1ではKPIを明確化し、STEP2でデジタル化レベルの向上など基礎オペレーション力を向上させる。その上でSTEP3では、スマートマニュファクチャリングの姿を定義し、それを実現すべく取り組みます。その段階で、バリューチェーン全体での改革に繋げていこうとしています。
福本:
東芝グループ横断での取り組みとなると、工場ごとに作る製品も異なると思いますが、共通のものさしやKPIは設定できるのでしょうか。また、その活用方法を具体的に教えて下さい。
高納:
基本的にはものさしやKPIはある程度共通化できるように作っていますが、工場で作る製品によってデータの管理レベルが変わってきます。そのため、工場によってどのような粒度でどのようなデータを収集、管理しなければならないかを我々が精査し、管理コストなども考慮しながら必要なデータや管理方法を検討しています。
KPIについては150種類以上に分解されており、現場のPDCAを回す時に、昨年と比べてどれぐらい良くなってきたのか、来年はどこを目標にすべきかを検討できるようになっています。また、現場だけでなく、工場間のマネジメントや経営レベルのマネジメントなどにも繋げられるように体系化しています。このKPIを日々デジタルで測定し、今どのレベルまで来ているかを捉え、カイゼンを繰り返すことが重要だと考えています。
西村:
ものさしとしては、基礎オペレーションを図る指標、デジタルレベルを図る指標など、いくつかの指標やその判定基準を、東芝グループ全体に適用できるように設定しています。生産技術センターでは、発電所設備から家電、半導体まで幅広いモノづくりに対応してきたので、このような指標の管理ノウハウを持っているのではないかと思います。
また、私の持論なのですが、デジタル化というのは管理レベルの微分だと思っています。つまり、デジタル化が進み微分していくと判断基準が収斂されていき、発電所設備であろうと半導体であろうと各工場が同じ基準で判定し、何に手を打っていくか、もしくはどのようなビジョンを描いていくかを共通して検討できるようになっていく、なりつつあるのではないかと考えています。
福本:
東芝デジタルソリューションズの「ものづくりIoTソリューション Meisterシリーズ」の商品設計の監修もしていますね。その中核を為す「ものづくり情報プラットフォーム Meister DigitalTwin」は、現場から得られるデータと既存のビジネスデータとを関連付けて時系列に蓄積することができるソリューションですが、生産技術センターが東芝グループ内の幅広い製品でのモノづくりの知見を活かした汎用性の高いデータモデルを用いることで、様々なお客様にカスタマイズせずに短期間で導入して活用いただけています。
東芝グループ内でMeisterシリーズを活用した具体的な取り組みがあれば、教えてください。
高納:
工場の生産性向上や品質改善を目的に、Meisterシリーズを導入しています。外観検査を人手で行っていた工場には、「Meister Apps AI画像自動検査パッケージ」を適用し、検査工程の自動化、省人化を実現しました。また労働集約型の工場に対しては、「Meister Apps 現場作業見える化パッケージ」を導入し、製造現場の作業員の動きを見える化することで、作業の適正化、動線の最適化を実現しました。設備産業の工場には、設備の稼働率向上が課題となるので、「工場・プラント向けアセットIoTクラウドサービス Meister OperateX」で設備の遠隔監視や稼働情報の見える化、異常の予兆検知や、生産のための動力管理によりエネルギー効率を向上させるエネルギーマネジメントの取り組みも行っています。さらには、お客さまに納入した製品のオペレーション&メンテナンス(O&M)のDXに拡げたい場合は、「設備・機器メーカー向けアセットIoTクラウドサービス Meister RemoteX」で設備・機器の稼働状況の把握やリモートメンテナンスを行うことにより、保守業務の対応力向上、製品や消耗品の買換えとメンテナンスの提案型サービスの提供などが可能になります。
スマートファクトリー化やスマートマニュファクチャリングを実現するシステムをつくるためには、Meisterシリーズが欠かせません。生産技術センターとしては、同ソリューションのさらなる発展に共に取り組んで行きます。
東芝 生産技術センター 上席研究員 西村圭介
東芝が今後の日本のモノづくりに貢献できること・提供できる価値とは
福本:
生産技術センターでは、未来を見据えたモノづくり変革の検討も進めているそうですね。中長期的なモノづくり変革のビジョンやロードマップなどについて教えてください。
高納:
スマートマニュファクチャリングのレベルアップに注力していく予定です。東芝においても、工場全体の見える化と一部のデータ活用は実現していますが、それをサプライチェーン全体にまで拡げていくことが必要です。さらに、O&M領域まで含めたDXの取り組みを進め、新たな価値を生み出すサービスに繋げていかなければならないと考えています。今は生産性向上や品質改善に向けてさまざまな取り組みをしていますが、これからは東芝グループだけでなく、お客様や社会全体にどう貢献していくかといったことまで考えて変革に取り組んで行かなければならないと感じています。気候変動対策はその一つです。CO2排出量を極力減らし、電力使用量を極力減らしていくには、生産性や品質を向上させるだけなく、工場全体の運用をどう最適化するかが重要になります。そのために、CPSを活用したエネルギーマネジメントの取り組みを行っています。このような取り組みが実現すれば、自分たちの工場、東芝グループ全体の企業価値が向上するだけではなく、社会にも貢献できます。そのような未来に向けた活動を推進しています。
福本:
サプライチェーン全体のDXや、社会全体にどう貢献していくかを考えることは大事なことですが、現場でモノづくりをしている人たちに、そういう考えを理解してもらうのは難しい面もあると思います。それに対して、具体的に取り組んでいることはありますか。
西村:
いくつかの取り組みを行っていますが、例えば、製造現場の人たちに、デジタル素養を身につけてもらう取り組みを始めています。その第一段階として現在、東芝が求めるデジタル人材を定義し、教育プログラムを作って進めています。デジタル人材には、カーボンニュートラルなど社会で求められていることを理解することが求められると思います。そういうことも考えて、教育体制を構築していきたいと思います。
福本:
最後に、東芝が今後日本のモノづくりにどのような貢献ができるか、どのような価値を提供できるのかについて、ご意見をお聞かせください。
高納:
東芝の強みは、製造業として約150年の歴史があること。そして生産技術センターも50年にわたり、東芝グループの幅広い製品の生産技術を国内外で支えてきました。その中で培ったノウハウ、知見を活かし、近年は、東芝デジタルソリューションズの製造業向けソリューションを通じて、お客さまのスマートファクトリー化の取り組みを支援しています。我々が今東芝で進めているスマートマニュファクチャリング、今後のカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなどの社会的要請への対応は、東芝だけでなく多くの製造業が取り組もうとしている課題でもあると思いますので、その課題解決に役立てていければと考えています。
製造業と一口に言っても企業や工場によって作っているモノも違えば、モノづくりの方法、ビジネスモデルも違います。ですが、我々が幅広いモノづくりで培ったノウハウや、自らが取り組んできた経験を生かし、東芝デジタルソリューションズのデジタル技術と組み合わせてソリューションを提供することで、お客さまにとって納得感のあるリアルな価値を届けられると思っています。それにより、お客さまにも社会にも貢献しながら、我々の企業価値を高めていければと思っています。
西村:
私たちの強みは長い経験の中で、失敗をしてきていることでもあります。自分たちの失敗を分析してその原因を把握し、次に取り組む時には失敗しない方法を見出してきています。スマートマニュファクチャリングを推進する際にも、失敗しないために何をどう見て、どう議論すべきかが分かるのも、製造業として脈々と培ってきたものがあるからこそであり、それが日本のモノづくりに提供できる価値にもなるのではないでしょうか。
福本:
有難うございました。東芝だけでなく日本のモノづくりの変革のために貢献・活躍いただけることを期待しています。
高納 政敏
株式会社東芝 生産技術センター 技監
1987年 株式会社東芝入社、生産技術センターにて製造ライン・設備開発、IEを起点とする生産性向上に有効なツールや手法の開発と拠点への展開を推進。2004年から本社 生産企画部で全社のモノづくり力強化を企画・推進、2011年よりグローバルモノづくり変革推進部 部長を経て、現在は技監として製造業DX に向けた東芝の「スマートマニュファクチャリング」を推進している。
西村 圭介
株式会社東芝 生産技術センター 上席研究員
2001年 株式会社東芝入社、生産技術センターにて国内外の東芝グループ工場に対する工場立ち上げ、生産管理システム導入の支援や、IEを活用した生産性向上を推進。またこれらの知見を活かし、東芝デジタルソリューションズ株式会社と連携した顧客向けのデジタル化推進を担当。現在は東芝グループ全社活動である製造デジタル化、スマートファクトリー化を推進している。
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- この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年1月現在のものです。
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