デジタルの進化とともに、AIを社会につなぐ
エンジニアとして、AIに関連する技術の進化を肌で感じながら、社会を支えるシステム開発に携わっている山田規登。急速に発展するデジタル技術をもって、ビジネスや社会の課題をどのように解決できるかを常に模索し、AI関連の新サービスを立ち上げてきた山田にとっての、“デジタル”について語ってもらった。
AIの価値共有がサービス化への道筋
私は、先進のAIモデルを活用したシステムの開発や、生成AIのトライアル環境の構築などを担当しています。東芝独自のAIモデルを実用化するにあたっては、そのAIモデルでどのようなことができるのか、つまりどのような価値を提供できるのかをお客さまに理解してもらうことが重要です。そこで、お客さま自身が利用シーンを具体的にイメージできるようなデモシステムの開発なども行っています。
また、データ分析や機械学習の自動化などで有効なツールを当社のソリューションに組み込むための調査や検討、さらには東芝グループが提供する多くのITシステムの開発において、全社横断で使える共通モジュール(部品)の開発プロジェクトへの参画なども経験してきました。
AIを活用することで得られる価値をお客さまに納得いただき、それを快適に使える仕組みを考え、実現することに時間を費やしてきた私にとって、試行錯誤の末に構築したシステムがしっかりと動いたとき、さらにはそれを利用したお客さまに喜んでいただけたときは、とても嬉しく、格別の達成感が得られる瞬間です。例えば、AIを使った不審者の検出・追跡システムを開発したときが、まさにそうでした。AIモデルの処理は、扱うデータや計算資源の観点から基本的に「重たい」処理となります。映像から不審者を検出するシステムの開発では、その重たいAIの処理に加えてリアルタイム処理を実現するという、複雑で難しい技術課題に直面しました。このときは、先輩方からのアドバイスと自身のアイデアを総合的に組み合わせ、さまざまな工夫を凝らすことで解決することができました。周囲の人の温かさに感謝し、またいろいろな人の声を聞くことの大切さを、実体験を通じて学んだ一例です。
開発したこのシステムはお客さまにデモンストレーションし、好評をいただきました。具体的には、ビルの1階に設置されたカメラで見つけた不審者を上層階のカメラで発見して追跡することや、VQA※と連携して、例えば、作業者がマスクやヘルメットなどを身に着けているかどうかを確認することなど、将来の拡張性や新しいソリューションの可能性をお客さまと共に見いだすことができました。このような次につながる反応を得られたときは、根気強く取り組んだことが報われ、さらに期待に応えたくなります。
※VQA(Visual Question Answering):画像認識技術と自然言語処理技術の融合により生まれたAI技術。ある画像に対する自由形式の質問に、正しい答えを導き出すタスク。
あらゆることを吸収して社会課題を解決する
私が仕事をする上でモットーにしていることは、「推測は悪である、必ず確認せよ」です。ユーザーがシステムに求めている機能や性能はもちろん、使い勝手などについても、可能な限り明確にすることを常に意識しています。例えば、システムの操作に対する画面の遷移などもその一つです。実際に、どの操作のときにどう遷移させるのかを簡略化したイメージ図を作成して、ユーザーに確認およびフィードバックをしてもらい、修正や改良をして再び確認してもらう、といったサイクルを回しています。想像だけで判断せず、このひと手間をかけることで、ユーザー側と開発者側との間に齟齬(そご)が生じないように努めています。
また、さまざまな視点を持てるように、スキルを磨くことや新しい経験を積むことにも積極的に取り組んでいます。例えば、社内においては、AI技術者教育やグローバルIT研修に志願しました。グローバルIT研修は、インドにある東芝の支社で1か月間にわたり集中的にプロジェクトマネジメント(PM)を学ぶものです。異なる文化や価値観を持つ人たちとの議論やそこで過ごした経験は、新たな発見につながり、技術者としても一人の人間としても成長できたのではないかと思います。
そして社外では、AWS(Amazon Web Services)の若手技術者を選出する「Japan AWS Jr. Champions」という認定プログラムに挑戦し、Jr. Championsの一員として認められました。最近は、選出されたメンバーに限定されたコミュニティーで、特別セミナーや勉強会に参加したり、イベントの企画や運営をしたりして、スキルを磨きながら他社の仲間たちと積極的に交流を深めています。こうした会社の枠を超えた、専門性の高い、同年代の人たちとのコミュニケーションは、新鮮で刺激的です。個人として新たな知見を得るだけでなく、世の中にいまある技術をさらに発展させていくうえでも大いに役立つ活動だと感じています。
私が注力しているAI技術も、それ以外のさまざまなデジタル技術も発展が続き、私たちの暮らしや社会活動に影響を与えていくと思います。サイバー空間のデータだけでなく、フィジカル空間(現実世界)のデータも用いた分析が至るところで行われ、現実世界に生かされるシーンが増えていく。例えば、街中や工場で稼働する機器や設備を、当たり前のように最適化したり効率化したりしている時代です。それはまさに、東芝が推進する「CPS(サイバーフィジカルシステム)」の重要性が、いっそう増している時代だと思います。
このようにデジタル技術がますます発展していく一方で、日本は人口の減少による人手不足がさらに加速するといわれています。しかし、たとえ働く人が少なくなったとしても、快適な社会は維持し、発展させていかなければなりません。このことは、急務の課題になると思います。この課題解決に貢献する技術の一つがAI技術です。例えば、老朽化した路面や路下などの社会インフラが、いま大きな社会問題になっています。当社では、AIの画像認識技術を用いて、路面の点検や維持管理を高度化しつつ、限られた人数で行えるようにする取り組みを進めています。点検に関わる作業者の負担を軽減しながら、路面の変状に伴う事故を未然に防げるように、継続して取り組んでいます。
私自身、人々の役に立つシステムの開発に数多く携わり、世の中に普及させていきたいです。そしてその先にある、CPSの実現に寄与し、社会が抱える課題の解決につなげていきたいと考えています。
大切なことば
「人類を一視して其(そ)の幸栄を増進し、有用の学術を修め質実の気風を養い、適(ゆ)く所として其の天職を完(まっと)うせんとす」
これは、私の出身校における「建学の趣旨」の一節です。「世の中に役立つ学問や技能を修めて、質実剛健に自分の職分をまっとうしなさい」と、自分なりの解釈をしています。常に意識しているわけではありませんが、改めてこれまでを振り返ってみると、この精神に則って行動してきたような気がしています。人類の全体に幸福を与えるような大それたことはできなくても、この言葉を自身の行動指針として、社会に役立っていきたいと考えています。
山田 規登(YAMADA Noritaka)
東芝デジタルソリューションズ株式会社
デジタルエンジニアリングセンター
AI・自動化技術サービス部
サトリスAI技術開発担当
入社以来、AIエンジニアとして先進の技術を応用したシステムの開発や、LLM(大規模言語モデル)による社内向けトライアル環境の構築などを担当してきた。また、日々の業務の傍ら、社内で行われているAI技術者教育で優秀な成績を修めたり、インドにてプロジェクトマネジメント育成のグローバルIT研修に参加したり、Japan AWS Jr. Championsに選出されたりするなど、社内外の活動においても八面六臂の活躍を見せている。
執筆:井上 猛雄
- この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2025年6月現在のものです。
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