2024年5月15日
Toshiba Europe Limited

量産可能な高速光チップ量子乱数発生器を開発し、実環境で動作検証

-小型・軽量なチップと汎用性の高いインターフェースにより、
暗号やシミュレータなど幅広い応用先へ真にランダムな乱数の提供を目指す-

概要

当社は、量産可能で乱数を活用するシステムに容易に組み込むことができる高速光チップ量子乱数発生器を開発し、試作した8台のデバイスを1週間以上連続動作させ、2 Gbpsで高速かつ安定した乱数発生が可能であることを確認しました。
当社は、2021年に量子乱数発生器の光学部品の一部を半導体チップに光集積回路化し、標準的な半導体製造技術を用いて量産が可能な量子乱数発生チップを開発しました(*1)。今回、さらに光検出器(*2)も集積してチップ化することで、光子を入出力する外部配線が不要になり、より小型化・軽量化でき、様々なシステムに容易に組み込むことができます。
本チップは、乱数を使用する暗号・コンピュータシミュレータ・抽選システム・ゲームなど様々な用途への適用が期待できます。
本成果の詳細は、5月15日に発行された、国際学術誌Nature Electronicsに掲載されました(*3)。なお、本成果の一部は英国政府のIndustrial Strategy Challenge Fundを通じてInnovateUK共同研究開発プロジェクトAQuRANDの支援を受けています。

開発の背景

過去の情報から予測できない不規則な数字である乱数は、暗号やコンピュータシミュレータ・抽選システム・ゲームなど様々な分野で活用されています。量子コンピュータによって暗号が解読される脅威が高まる中、より強固な暗号を実現するためには、乱数を安全かつ高速に生成する技術が重要です。量子力学に基づいた確率的性質を利用して真にランダムであることが保障された乱数を生成する量子乱数発生器は、この問題を解決する有力な手段として期待されており、量子乱数発生器の市場は2028年には全世界で12億米ドル、2038年には44億米ドルになると見込まれています(*4)。
これまでの量子乱数発生器の研究は、高度な実験機材を備えた実験室環境における短期間の実証で進められていましたが、既存の乱数発生器に対する幅広い代替手段となるためには、実環境でも長期間にわたり連続して動作する必要があります。また、要求される乱数発生速度を満たしたうえで、量産に適した一般的なプロセスで作製可能であることや、サイズ、重量、消費電力、そしてハードウェアへの組み込みの容易さが重要です。

本技術の特徴

そこで当社は、東芝欧州社のケンブリッジ研究所において、量子乱数発生器に必要な光学部品すべてを小型半導体チップに光集積回路化した「光エントロピーコア」と、「光エントロピーコア」を半導体の標準的パッケージであるQFN(*5)に封入して実装し、量子乱数を出力するプリント回路基板を開発しました。
「光エントロピーコア」は、光を出力するレーザーから、これまでチップ化できていなかった光検出器まで、光集積回路化した半導体チップです。試作した「光エントロピーコア」は2mm×3.175mmと小型で、これまで必要だった光子を入出力するための光ファイバーが不要になり、電気信号のみで通信可能となりました。また、光ファイバーをチップの位置に合わせる必要がないため、システムへの組み込みが容易で、光ファイバーを用いるよりも小型・軽量で、消費電力も低減できます。さらに、半導体の一般的な実装方法である表面実装に対応したQFNに「光エントロピーコア」を封入する技術も開発しました。これは、量子乱数発生器を量産する際の鍵となります。
プリント回路基板には、「光エントロピーコア」に駆動信号を供給し、出力を測定するために必要な全ての機能だけでなく、出力信号のリアルタイムな後処理に必要な電子部品も実装しました。これにより、予測不可能かつ均一に分布した乱数の安定した生成が可能になりました。最終出力の乱数の品質を確保するために、本量子乱数発生器は「光エントロピーコア」の出力をテストし、期待通りに予測不可能な数値が生成されている割合をリアルタイムに計算します。この割合が低下した場合、最終出力が予測不可能な乱数となるように自動的に後処理を行います。これらの機能を13cm×19cmのプリント回路基板に全て実装しました。

本量子乱数発生器の再現性と安定性を示すため、8台のデバイスを量子鍵配信システムに接続し、1台を38日間、7台を1週間以上連続稼働させ、動作を検証しました。気温などを制御していない環境にも関わらず、「光エントロピーコア」は2 Gbpsで安定的に動作し、強固な乱数発生を確認しました。このような高速で安定した乱数発生は、量子鍵配送などの暗号アプリケーションにとって重要です。

図1: 「光エントロピーコア」を封入した6mm×6mmのQFNパッケージ(英国1ポンド硬貨とのサイズ比較)

今後の展望

当社グループは、本成果の実用化に向けて、研究開発を進めてまいります。また、本成果を含む技術をベースに、量子コンピュータ時代にも安全な通信プラットフォームの実現に貢献し、量子セキュリティの普及と、当社グループの量子ビジネスの早期拡大を図ります。