コラム

地域包括ケアひとつばなし(6)

2020.8.31

「介護事業者の収益」を意識して進める「国の理想像」


 高齢者の「自立支援・重度化防止」を目指す取り組みが全国的に進む中、保険者ではPDCAサイクルを確立し地域マネジメント力が強化されていくが、一方介護サービス事業所側では、それに応えるべく「心身状態の改善・維持」につながるケアを実行するも、それに伴い事業収益が減少するという、介護事業の経営的なダメージのある悲しい実態が解決されない現実として残っている。

年度予算400億円の国からの支援

 高齢者の「介護予防」や「自立支援・重度化防止」に向けた地域マネジメントに対して、国はかなり積極的な姿勢を見せている。2017年に制定された「地域包括ケア強化法」の一環で、次年度より創設された介護保険者機能強化推進交付金と2020年度から新たに追加された介護保険者努力支援交付金(介護予防)という、自治体への財政的インセンティブが継続的に予算化されている。

 これは、「地域マネジメントをどのくらい達成できていますか?」と保険者である各自治体の達成状況を客観的に評価し、その結果によってインセンティブが付与されるというもの(都道府県5%、自治体95%)。

 「PDCAサイクルの活用による保険者機能の強化」「ケアマネジメントの質の向上」といった項目に対し、それぞれKPI指標が用意され定量評価の結果で、交付額が決まるという仕組みになっている。

 介護予防事業と自立支援・重度化防止事業に対する、国からのカンフル剤的な支援といったところだ。

介護現場を支える工夫

 高齢者の自立支援・重度化防止(心身状態の改善・維持等)の推進は、介護サービス事業所にとっても重要な理念であり、介護保険制度創設当初からのサービスの基本となっているが、理想と現実の間にはギャップがある。

 例えば通所介護サービスや施設サービスでは、要介護度が高いほど単価の高い報酬体系となっており、要介護度が軽度化するほどに事業所の報酬は減ることになるわけだ。

 こうした介護事業における経営的な“ジレンマ”という現実が解消されない限り、介護サービス事業所側のモチベーションは高まらない。そこで保険者が独自でその減収分を補填する事業を試行し、事業所とサービス利用者本人の行動変容に効果がでるかなどの実証が行われている。

 短期的には介護サービス事業所の経営難を避け、長期的には社会保障制度の継続可能性を確かなものにするため、国では成果型報酬の導入など即効性ある改定が議論されている。

 地域の在り方により多種多様な形で内在する、介護現場のこのような課題を、介護保険者である自治体は身近に捉え、質の高いケアを実施している事業所については地域内に積極的に発信し、事業所の好取組を普及させるなど、国にはできない事業所支援策を、その地域の形にあわせて取り組む事ができるだろう。

 自治体には、介護・医療レセプトデータや要介護認定データなど活用できるビッグデータが何年分もたまっている。それらを駆使して現場支援に資する様々な取り組みを推進し、“ジレンマ”のような見えない課題も 解決することが、保険者の役割になってきている。次回はそうした事例にも触れながら、保険者ゆえにできる具体的な解決案を示していきたい。