コラム
地域包括ケアひとつばなし(5)
2020.6.25
在宅医療等の「医療・介護連携」に求められる質とは?
―2025年までに約30万床を在宅医療へ移行― こうした見出しを目にしたことがあるだろう。少子高齢化を背景に医療ニーズに応じた病床の機能分化(高度急性期、急性期、回復期、慢性期への細分化)が進められる中、慢性期の病院を中心に病床数を減らし、「在宅医療」へシフトするという計画だ。このように注目が集まる中、「在宅医療」については「医療と介護の連携」についても必要性が高まってきており、連携の担い手となる自治体は仲介役として基盤づくりなどの役割も都道府県からシフトされたことになる。
地域包括ケアには、2つの「医療・介護連携」がある
地域包括ケアにおける「医療・介護連携」には、主に2つの場面が存在している。1つは「在宅における多職種連携」、もう1つが「入退院時の医療・介護連携」である。
前者は、在宅患者に対する在宅医療と各介護サービスとの連携であり、在宅医療には日常の療養支援、容体急変時の対応や看取りまで多職種の連携が必要な場面がいくつかある。
後者は、高齢者の基礎疾患が急性増悪など起こして入院し、入院直前の情報をケアマネジャーと病院の間で連携、また、回復後(退院時)には病院から受け入先の介護施設やケアマネジャーへ行う情報連携を指している。このような各連携シーンでは、それぞれの状況に適応したシームレスで質の高い連携が必要となってくる。
在宅における多職種の質の高い連携が、入院リスクを下げる?
「在宅における多職種連携」には、訪問診療、訪問薬剤指導、訪問介護、訪問看護、通所介護(デイサービス)及び通所リハビリテーションといった、医療及び介護のさまざまなサービスが関係している。これら多職種のスタッフから、高齢者を訪問した際のバイタル情報(体温や血圧等)やその他の気づきなどを緊密に情報共有しながらサービスを提供することによって、急性増悪兆候の早期発見や事前対処も可能になり、その連携の出来不出来によって、入院の回数や期間及び在宅期間などに大きな差が生じることが考えられる。
バイタル情報(体温や血圧等)やケアの記録などを多職種間で適宜共有しながらケアすることにより、高齢者の状態変化をタイムリーに捉えることができ、急性増悪などの兆候を早期発見・事前対処が行える。このように連携の質(場面に応じた必要内容、共有の頻度とタイミング)を上げることで、入院回数と入院期間などの医療関与を最小化できることにもなる。
これにより、多職種連携の必要十分な情報を適切な頻度で共有できれば、入院等を未然に防げることになり、ひいては行政コストも高額な入院医療費よりも低額な介護給付費や在宅医療費に抑える事につながる。
入退院時の連携が、退院後の高齢者の心身状態やQOLを左右する?
「入退院時の医療・介護連携」の活用シーンについては、介護サービスを利用している高齢者が入院するケース1と、元気な高齢者が脳卒中や骨折などにより入院するケース2がある。
ケース1では、とりわけ入院直後の連携が重要であると言われており、高齢者のケアプランや生活の様子などの情報をケアマネジャーから病院側へ的確に情報提供し、入院期間中の看護に反映されることで、看護の質があがり高齢者の心身(特に認知機能)の状態維持が期待できる。例えば、病院スタッフが心のケア(コミニュニケーション)などに配慮するだけで、入院生活が大きく変わり認知機能の悪化も防げる。
ケース2では、退院時の連携が重要であると言われており、入院中に要介護認定を受け退院後に介護サービスが開始された場合には、高齢者の受入れ先の介護施設や居宅ケアマネジャーは、病院側から予後に必要な情報(疾病に関する注意事項等)の提供を受けそれに応じたケアプランを立てることになる。このように上流の情報伝達は、後続の各サービスに大きく影響する可能性があるのだ。
SPO指標で医療・介護連携の質を見るには?
「医療・介護連携」においてもサービスの質を見ていくことは可能であり、「連携の質」の把握の方法について考えてみる。
「多職種連携」の場合は、小地域ごとの多職種チームを対象に、共有の頻度などの活動情報や、入院回数、在宅期間などを指標に「連携の質」と心身状態の変化の相関を見ると小地域ごとに有意な差が現れるはずだ。
また、「医療・介護連携」であれば、ケアマネジャーと病院を対象に、情報提供加算の有無と、入院前後の心身状態の変化の相関を見て連携具合を把握することが考えられる。
上記のような試みはまだこれからであるが、小地域ごとの上記の指標に着目することで、急性増悪を防いで入院回数が少ない地域、入院前後の状態変化が少ない地域など、地域の特性を反映したベストプラクティスが見えるようになってくる。
このように、医療・介護関連のビッグデータ等を活用した地域マネジメントの実現像が身近になってくるのではないだろうか。
次回は、「介護」に話を戻し、介護現場を支える工夫について考えていきたい。