コラム

地域包括ケアひとつばなし(4)

2020.6.19

介護サービスの質を可視化できるのか?


高齢者のライフステージ「介護」におけるサービス実態とその質の把握の方法について考えてみる。
「介護」におけるサービス利用者(本人および家族)の一般的なニーズとしては、心身状態の改善(自立支援)や維持(重度化防止)の声が多く、その先には、生活の質QOLを向上させたいという要望が多いと考えていいだろう。
では、現在利用しているサービスによって、このニーズにどの程度応えられているのだろうか。その達成状況を計測できれば、「サービスの質」を定量化できるのではないか、また、常に達成状況を把握できるようにすることで、各施策や事業のリアルな実態を評価でき、次期計画における目標値も適正に設定できる材料が揃うのではないだろうか。

質の高い介護サービスとは?

介護サービスの「質」、この捉え方を整理(定義)したうえで、利用者ニーズの達成度合いについて計測する方法を考えてみる。

サービス利用側が「質の高いサービス」と感じるにはどんな要素があるのか、「心身状態の改善・維持の進み方」、「QOLの達成度」及び「介護者の負担感」この3つの要素がバランスよく満足できる状態になることで「質の高さ」を感じるのではないだろうか。

心身状態が改善し、本人の期待している生活が送れる状態となれば、介護者の負担も減り、一方、介護負担を感じる状態が続けば介護サービスそのものへの不満と不信につながっていくことになるだろう。しかも、介護の負担感が増すことで「介護離職」も増加し、別の社会問題を誘発してしまうことにもなる。

このようなことからサービスの「質」を測るため、「自立支援策と重度化防止策の進度」は重要な指標のひとつと考えられ、自立支援については「改善率」を、重度化防止については「維持率/維持期間」を計測することで「質」を数値化したことになるだろう。

また、これらの指標を利用者ごとに比較すれば「サービスの質のばらつき」が可視化され、ケアプランの相性や在宅サービスの組み合わせの効果が、施設利用者の場合は施設単位に全利用者の指標平均値を比較して見ることで、施設サービスの質と効果が評価できそうだ。

ただし、その指標だけでは網羅的な評価とは言えず、前段にある2つめの要素であるQOL(本人や介護者が望む生活機能)の満足度を数値化したものと、3つめの要素である介護者の負担感を数値化したもの、それぞれを判断指標に加えることで、サービス内容全体の質をバランスよく評価できるだろう。

例えば、「トイレに独りで行けるように歩行機能を改善したい」というQOLに対して、本人の感じる達成具合を「QOL指標」として数値化しておくと、もし、歩行以外の身体機能が改善していなかったとしても、その改善率に左右されない指標として評価できるので、このような利用者側の指標と合わせて網羅的に評価を行うことで、利用者ファーストであるべき介護サービスの本質を見抜くことができるようになる。

以上より「介護サービスの質」の実態把握については、指標の定義が重要であることがお分かりいただけると思う。

介護サービス提供内容を評価するSPO指標とは?

次に、「自立支援策と重度化防止策の進度」を数値化した指標の捉え方について掘り下げてみる。

サービス内容自体を評価するのに「SPO指標」という考え方がある。これは、アメリカのドナベディアンという学者が提唱した、「医療サービスの内容を評価する指標」にS(ストラクチャ)、P(プロセス)及びO(アウトカム)の指標の組み合わせがある。

この指標セットを、介護サービスに当てはめてみると、以下のようになる。

S(ストラクチャ)指標…サービス提供側の体制やスタッフのスキル等(体制加算等)

P(プロセス)指標…提供された介護サービスの種類と量(介護給付)

O(アウトカム)指標…心身状態改善率・維持率/期間(ケアしたことによる成果)

これを使うと、介護サービスについても定量的に評価できそうだ。

ケアの成果を表すO指標(改善率・維持率)と組み合わせて使えそうなS指標については、介護レセプトにある体制関連の各種加算を数値化できる。また、P指についても同じく介護レセプトを利用者単位に集計するとサービス種別ごとの提供量も数値化できる。

特に、O指標についてはバイアスを除いて実態を正確に把握するため、以下の観点で指標を算出しておきたい。

① 心身状態(身体機能、生活機能、認知機能等) の経年変化を長期的に集計

② 改善率/悪化率と、維持率/期間を集計

③ 入退院などの医療サービスの関与がある場合は、評価対象から除外

④ 脳卒中、大腿部骨折、認知症及びロコモティブシンドローム等の疾病がある場合は分別

このようにして導かれたO指標と、S、P指標との相関を見てみると一定の法則が見つかる可能性がある。

S、Pが高い地域ほどOも高くなるなど、SPOの相関具合については、地域ごとに見ると地域特性が現れるはずだ。当社では、数年にわたりモデル自治体様と各種データの見え方を検証し、データの読み取り方が分かってきた。

介護サービス事業所の質には大きなばらつきがある

介護サービス事業所ごとにSPO指標を見てみると大きな差が生じており、利用者の評判や関係者間の肌感覚とも合致した結果となってきている。もちろん利用者の個々の状態に左右されるところも大きいが、事業所単位に全利用者から算出した指標を見ることにすればそれも誤差となり、O指標の散布度によって介護サービスの「質のバラつき」を可視化でき、S、P指標との相関関係からは「バラつきの原因」を抽出・特定しやすくなる。

課題が正確に抽出できれば、精度の高い仮説が設定しやすくなる。

介護サービスの質の向上の費用観点からの重要性

介護給付額は11兆円を超えるほどに膨れ上がっており、重度要介護者が増えれば増えるほど給付額は膨らみ続け、我々の支払う保険料負担も増えることになる。2025年や2040年に社会保障の山場を迎えることになるが、皆さんは、この11兆円の約95%※が「介護」サービスに使われていることをご存だろうか、残り5%は「介護予防」や「医療・介護連携」等の地域支援事業に使われている。「介護」のコストインパクトについて、しっかり再認識する必要がある。

この「介護」サービスを取り巻く各種施策においても、自治体の取り組み(例えば、多職種連携の仕組みづくり、事業所指導などの現場アプローチ、住民参加型のインセンティブ事業など)には効果的なものがあり、O指標を高める可能性は十分に残っている。

需要なのは、その地域の特性にあった有効打を選び抜く目を持つことで、全国各地で取り組まれている多種多様な好事例の中から相性のいい施策を選定するために、自分の地域の社会資源などサービス提供側の実態と利用者ニーズなどの利用者側の実態について、最新状況を正確に把握し、数ある好事例の中からマッチするものを見つけ出す必要がある。

このようにして策定した施策がその地域にマッチしていき、利用者のQOLが向上基調に乗り出すと、利用者側とあわせサービス提供側にも行動変容が期待できる好循環が起こり始め、ひいてはサービス全体の最適化につながり“95%”という大きな山が動くことも不可能ではない。

※厚労省 社会保障審議会 介護保険部会(第58回)平成28年5月25日 参考資料1「地域支援事業の推進」より

次回のコラムでは、最終ステージである「在宅医療(医療・介護連携)」の取り組み方について考えていく。