コラム

地域包括ケアひとつばなし(3)

2020.1.10

「疾病予防」と「介護予防」の一体的な展開が重要な、ワケ


高齢者や介護者の要望や満足度を踏まえつつ心身状態をいかに目標に近づけるか、その手前の取り組みとして、「疾病予防」と「介護予防」についても、それぞれ単独ではなく一体的に進めることになってきた。その理由について詳しく解説をしていこう。
「疾病予防」は医療保険、「介護予防」は介護保険の領域の取り組みであり、制度も行政の担当部門も異なるが、厚生労働省の最重要方針として、「疾病予防」と「介護予防」は一体的に取り組むことが示された。

疾病の種類による介護状態の違い

疾病と介護状態の関係を整理してみると、「介護状態」に至るケースには様々なケースがあるが、次のように2つ大別してみると、関係が整理しやすくなる。

  1. 脳卒中、大腿部骨折(主として骨粗鬆症由来)など、急性疾患ののち介護状態に移行するケース
  2. 認知症、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)といった、段階的に介護状態に移行するケース

上記1の場合は、それまで介護に無縁だった人が、突発的な変化よってADL(身体機能)やIADL(生活機能)が低下し、比較的高い要介護度から「介護状態」になるという特徴がある。

また2の場合は、疾病の発現には連続性があり、症状の進行にあわせADLやIADLもじわじわと低下していくため、比較的軽度の要支援からはじまるという特徴がある。

なお認知症でも、脳卒中由来の脳血管性認知症の場合は、1に分類される。

このように、疾病の種類によって、介護状態のはじまり方は上記1と2のような違いがあり、予防のアプローチもそれに合わせた取り組みが必要になる。

なお、がんや急性心筋梗塞については、発症後必ず医療で治療を行い回復に時間かかると1に近い状態となり、また糖尿病も、介護状態になる前から基礎疾患として治療を継続していることが多く、認知症を併発するなどして2に近い状態となるケースが多い。

疾病予防と介護予防は表裏一体

「疾病予防」として、脳卒中であれば食生活に気をつけたり、大腿部骨折なら骨粗しょう症にならないよう骨密度の低下を抑える薬を飲んだりするわけだが、これは同時に突発的な介護状態への移行を防ぐ「介護予防」にもなる。

「介護予防」として、運動習慣を身につけたり、地域の通いの場等の集まりの中でコミュニケーションをとることによって認知症やロコモティブシンドロームの発現時期を遅らせる「疾病予防」にもなる。

こうして整理してみると、疾病と介護は“表裏一体”であり、どちらかの予防に取り組み予防の効果を期待するものではなく、「疾病予防」「介護予防」の双方の関連性に目を向けながら、最適な対策を打ち一体的な展開を図っていくことが重要なのである。

なお「介護予防」のステージにおいては、見守りや介護を要するまでに健康状態を維持できた期間(自立維持期間)が重要な効果指標の一つとなる。

当然のことながら介護予防に効果的に取り組んでいる人は自立維持期間が長くなる。この維持期間違いは、中長期的にみてそれぞれの人の生涯給付費額に大きな差として表れてくる。

次回は、高齢者のライフステージで「介護」におけるサービスの質の向上について触れていきたい。