デジタルで豊かな社会の実現を目指す東芝デジタルソリューションズグループの
最新のデジタル技術とソリューションをお届けします。

近年、極端な気象現象が地球規模で増加しています。日本各地においても、局地的大雨、いわゆるゲリラ豪雨による内水氾濫や道路冠水、土砂災害、降雹(ひょう)による建物や車両の損壊、さらには竜巻などの突風による建屋の破損や倒木など、深刻な被害が発生しています。こうした状況を踏まえ、「空」で今まさに起きていること、そしてこれから起こり得ることを正確に把握し、関係機関における迅速かつ的確な運用判断につなげるための情報基盤の整備が急務となっています。東芝は、降雨の範囲や雨の強さをリアルタイムに把握する「現況降雨量サービス」、30分先の局地的大雨の兆候や雨量を予測する「降雨予測サービス」、そして降雹の発生を数十分前に予測して通知する国内初となる「降雹予測サービス」を提供し、社会インフラや自治体、民間企業の防災・減災対策および的確な運用を強力に支援しています。ここでは、これらのサービスを支える気象レーダデータの解析要素技術とともに、各サービスの仕組みについて解説します。

※気象レーダデータのリアルタイム解析に基づく数十分先の降雹予測として。(2024年2月の当社調べ)


なぜ東芝が気象データサービスを提供できるのか


気象レーダは、現在の気象状況を観測する装置です。空中に電波を発射し、雨粒に当たって反射した電波(エコー)を分析することで、雨の強さや位置などを観測します。東芝は数十年にわたり、河川やダム、鉄道、電力系統のような社会インフラの運用管理を行う事業者に、雨量や突風、発雷などを正確に観測する気象レーダシステムを提供してきました。このシステムは、パラボラアンテナなどのハードウェアと、アンテナから取得した生のレーダデータを解析するソフトウェアから成ります。ハードウェアは各事業者共通で、ソフトウェアは事業者それぞれの用途に応じて個別に構成されます。ソフトウェアには、東芝が経験を積み重ねながら高度化してきた気象レーダデータの解析に用いるさまざまな技術と、長年培ってきたノウハウが詰まっています。

これらの解析技術を応用したのが、高精度な気象情報を直接お客さまに提供する「気象データサービス」です。このサービスにおいて、現在は「現況降雨量サービス」「降雨予測サービス」「降雹(ひょう)予測サービス」の3つのサービスを提供しています。東芝が磨き上げた気象レーダデータの解析技術が生み出す価値を、より幅広い多くの企業や団体に活用いただけるようにし、防災や減災、公共交通機関、農業、イベントなど、さまざまなシーンで天気の急変による人々の危険を軽減したいと考えています(図1)。

※気象データサービスの概要や利用シーン、事例などは、こちらの記事で紹介しています。


気象データサービスを支える東芝の独自技術


日本には、国土交通省が設置している65台の気象レーダ(パラボラアンテナ)があります(2024年6月時点)。 これら気象レーダで観測された生データは、2022年4月から商業利用できる形で民間事業者に公開され始めました。東芝が展開する気象データサービスは、この生データを活用したサービスであり、独自の技術により支えられています(図2)。

※国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/tec/tec_fr_000040.html

まず、気象レーダで観測された極座標系※1の生データをクラウド上の解析ソフトウェアに取り込み、データに含まれるノイズや干渉を除去する一次処理を行います。次に、一次処理した複数のデータを直交座標系※2に変換・統合し、その後の処理で扱いやすい立体的な降水分布を生成します。最後に、現況降雨量の把握や、降雨や降雹の予測といったそれぞれの目的に応じて、高度な計算を行います。この一連の処理により、リアルタイム性と高精度を両立した各種気象情報を提供するサービスを実現しました。
 

※1 ここでの極座標系とは、レーダ装置を原点として、観測対象の位置を距離・方位角・仰角で表す座標系のこと。
※2 ここでの直交座標系とは、観測データを東西・南北・高度の3軸で表す座標系のこと。


気象レーダの生データに含まれる不要情報を除去する極座標系一次処理


気象レーダで観測された生データは、極座標系のデータです。このデータには、隣接するレーダや各種無線からの電波干渉、地形や建造物による反射、装置固有のばらつきなどの成分が必ず混入しています。これらの成分は、降水の反射信号(降水エコー)を歪め、その後の解析に影響を及ぼしてしまいます。そこで東芝では、生データの段階で、混入した干渉波などの不要なデータを特定して除去する一次処理を施したうえで、直交座標系のデータへと変換しています。

例えば、隣接するレーダや各種無線からの電波干渉が混入すると、降水エコーと電波干渉とを区別できず、実際には晴れている領域で降雨があるように誤判定されることがあります。これに対し東芝では、レーダサイトを中心に放射状に分布する電波干渉特有の画像的特徴を利用し、電波干渉を検出・除去することに成功しています(図3-左)。

このように、降水以外の成分に起因する解析に不要なエコーを低減し、直交座標系での処理や降雨の予測といったその後の処理に活用するデータの品質を安定化させています。これらは、東芝がこれまで蓄積してきた気象レーダデータの解析技術により実現したものです。

さらには、気象レーダごとに異なるデータの特性を把握してそのばらつきを補正し、広域で一貫した均質なデータになるようにもしました(図3-右)。これにより、その後の三次元合成や粒子判別の精度の底上げができたことで、局地的大雨の初期兆候などを早期に捉えられる解析基盤の実現につながっています。


空間全体の降水分布を可視化するレーダデータ三次元合成処理


三次元合成とは、複数の気象レーダによる観測データを統合し、広域な空間全体の降水分布を直交座標系で表現する中核的な処理です。単一の気象レーダによる観測では、気象レーダのアンテナビームの構造上、気象レーダが置かれた地点から観測点が遠くなれば遠くなるほどデータの分解能が低下し、観測が疎になってしまいます。

※分解能とは、どれだけ細かく空間を表現できるかを示す指標です。距離分解能とは、水平方向の解像度を意味し、それが高いとより細かい地形や局地的な現象が再現できます。

この疎な領域を補間するために、気象レーダの合成処理として一般的なクレスマン内挿という手法を用いています。クレスマン内挿とは、複数の気象レーダから得られた不均一な観測点の観測データを基に、直交座標系の格子(メッシュ)を再構成する代表的な重み付け平均法です(図4)。各格子点に対して、近傍のエコーとの距離に応じた重みを設定して平均化するため、気象レーダのビーム幅や距離分解能に応じた「影響半径」の設定が重要となります。

実運用では、気象レーダからの距離に応じて影響半径を可変にします。レーダ観測が密で直交座標格子点の近くにレーダ観測点がある領域では、格子点の周囲にある観測データをまとめる合成範囲を狭くし、過度な平滑化を避けて高品質データを優先利用します。一方で、レーダ観測が疎で直交座標格子点の近くにレーダ観測点がない領域では、合成範囲を広くし、全ての格子点で欠損のない合成データを生成します。このようにして、降雨や降雪、移流ベクトルの推定に適した格子場を得ます。

※移流ベクトルとは、気象現象(例えば雨雲や風など)が空間的にどの方向へ、どのくらいの速さで移動しているかを示すベクトル(向きと大きさを持つ量)のこと。

ここまでに説明した極座標系一次処理から三次元合成までの一連の処理により、降雨や突風の予測、さらには粒子判別といったその後の処理で共通して利用できる高品質なデータを作成します。


30分先の局地的大雨の兆候や雨量を予測する「降雨予測サービス」


三次元合成処理によって得られた鉛直方向の降水分布データを解析することで、上空に存在する水分量の総量(VIL:Vertically Integrated Liquid,鉛直積算雨水量)を把握できます。VILの時間変化や空間分布をもとに、数十分先に雨が降る位置やその強さを予測する技術をVILナウキャストといいます。

※VILナウキャストは、国立研究開発法人 防災科学技術研究所(NIED)によって開発された降雨予測アルゴリズムです。

東芝は、VILナウキャスト技術を基に、日本全国を250メートル四方のメッシュに分割した解析領域において、積乱雲が発達する状況や大雨の兆候を立体的に把握する独自の技術を開発しました。積乱雲は、大気の不安定性により発生した上昇気流によって成長し、雲の内部に「降水コア」と呼ばれる高密度な雨滴領域を形成します。その後、この降水コアが地上に降下することで、局地的な大雨(ゲリラ豪雨)を引き起こすのです。降水コアの形成時にはVILが急激に増加することから、VILの変化をリアルタイムに解析することによって、30分先の局地的な大雨を高精度に予測できるようになりました(図5)。


現在の降雨量を地上の雨量計と同等の精度で把握できる「現況降雨量サービス」


ここまで、気象レーダで観測された生データに対して、東芝ではノイズや干渉の除去などの一次処理を施し、三次元合成処理によって降雨量を解析していることを説明しました。降雨量の解析では、弱雨(しとしと雨)と強雨(大雨)の解析とで異なる手法を使い分けています。これらの解析手法には一長一短があり、いずれも広域かつ高精度な降雨量の解析を実現するためには課題がありました。弱雨の場合には、距離分解能は高くなるが降雨量の精度が低くなってしまい、強雨の場合には、降雨量の精度は高くなるものの距離分解能が低くなってしまうというものです。

東芝は、それぞれの課題解決に取り組みました。弱雨の降雨量の解析に対しては、新たにレーダ観測量や地形、アメダス雨量の情報をもとに学習した機械学習モデルを開発しました。この学習モデルによって、弱雨に対する解析結果の精度が高まっています。また強雨に対しては、降雨量の精度と距離分解能の両方が高くなる解析手法を新たに確立しました。これらの技術によって降雨の特性に応じた雨量の推定が可能となり、地上に設置された雨量計で測定した結果と同等の精度で現況の降雨量を把握できるようになっています(図6)。


SNSの活用で精度を高めた「降雹予測サービス」


日本で採用されている気象レーダは、水平偏波と垂直偏波の両方を用いた観測が可能な二重偏波気象レーダです。このレーダで観測された雨雲からのエコーを解析することで、粒子の形状や種類を推定できます。

東芝は、2つの偏波の強度比や相関係数などの情報を活用し、上空にある雨や雪、あられ、雹といった降水粒子をリアルタイムに高精度で判別する技術を持っています。例えば、降雹を予測する際には、まず気象レーダの生データから降水粒子が雹なのかどうかを判別します。雹と判断した場合は、雨雲の移流ベクトルを考慮して、雹がどの場所に降るのかを予測します。さらに、SNS投稿などの外部情報を活用することで、降雹予測の適中率の向上と過剰予測率(誤報率)の低減を実現しています(図7)。(特許第7532699号の技術)


高度な解析・予測技術で社会と未来に貢献


東芝は、気象レーダで観測された生データのノイズや干渉の除去、三次元合成、内挿処理といった高度な解析技術と、気象の予測技術を駆使することで、空で「今起きていること」と「これから起こること」を広範囲かつ細かなエリア単位で正確に把握することを可能にしました。気象データサービスとして現在提供している現況降雨量、降雨予測、そして降雹予測のサービスでは、いずれもリアルタイムかつ高精度な気象情報の提供を実現しています。また、これらの予測期間の長期化、さらには突風や強風の予測など、より高度なサービスの提供に向けた技術開発にも取り組んでいます。

東芝は、気象データの高度な解析技術と予測技術による「空の見える化」で社会の安全・安心を支えるとともに、気象情報の新たな価値創出によって人々の暮らしと未来に貢献していきます。

神字 芳彦(KANJI Yoshihiko)

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部  DX事業推進部  シニアマネジャー


株式会社 東芝および東芝テック株式会社にて新規事業の開発に従事し、現在は、東芝デジタルソリューションズで気象やエネルギーなど、社会インフラ分野における新規事業の立ち上げに取り組んでいる。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2026年1月現在のものです。
  • この記事に記載されている社名および商品名、機能などの名称は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。

>> 関連情報

関連記事