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高度な気象レーダ解析技術が生み出す「空の見える化」で防災・減災に貢献

東芝はおよそ70年もの長きにわたり、気象レーダシステム事業を展開してきました。これまで国土交通省や気象庁、地方自治体、さらには鉄道や電力などの社会インフラ事業者などに向けて、それぞれの用途に適したシステムを提供してきた実績とノウハウがあります。いま空で「起きていること」の把握、そしてこれから空で「起きること」の予測を正確に行い、その情報を世の中でもっと有効に活用できれば、世界で増加する気象災害に対する防災や減災につなげることができるのではないでしょうか。天気の変化に伴う人々の不安の軽減や行動の選択にも役立てられるでしょう。ここでは、これまでの経験とノウハウ、技術を生かすことで実現した、気象レーダで観測した生のデータの解析に基づきまもなく起きる雨や雪、雹(ひょう)、そして突風の予測を行う「気象データサービス」について、事例を交えながらご紹介します。


気象レーダ解析技術が生み出す価値をデータサービスで届ける


近年、地球規模で異常気象が続いています。日本でも線状降水帯や局地的大雨(ゲリラ豪雨)などの豪雨に伴う被害が問題になっていますが、雨に限らず、雪や雹(ひょう)、風などで人々が身近に危険を感じ、実際に多くのモノが失われる被害が起きています。世界が直面した気象災害の発生回数と経済損失額を見ると、この40年間でいずれも5倍に増え※1、また国内で発生した強い雨の頻度は、約40年前と比較して2倍程度増加しています※2

※1:出典「WMO ATLAS OF MORTALITY AND ECONOMIC LOSSES FROM WEATHER, CLIMATE AND WATER EXTREMES (1970-2019) (WMO-No. 1267)」
※2:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html)を基に記載

東芝はこれまで、気象レーダシステムにより雨量や突風、発雷などを正確に観測することで、気象の変化に注意が必要な河川やダム、鉄道、電力系統のような社会インフラの管理を行う事業者を支援してきました。このシステムは、パラボラアンテナなどの共通のハードウェアと、アンテナから取得した生のレーダデータを事業者それぞれの用途に応じて解析するソフトウェアから成るものです。

今回、気象レーダシステムのソフトウェア機能をサービス化することで、東芝が経験を積み重ねながら高度化してきた気象レーダ解析技術が生み出す価値を、より幅広い多くの企業や団体に活用いただけるようにしました。これは、従来の事業に加えて、データサービスの形でも展開することにより、防災や減災はもちろん、公共交通機関や農業、イベントなど、さまざまなシーンで天気の急変による人々の危険を軽減したいと考える、東芝の新しい試みです。その背景には、2022年に国土交通省が、気象レーダで観測した生のデータを商業利用できるように、民間事業者に解放したことがあります

※国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_001111.html

気象レーダにより観測された生のデータを東芝の技術で解析することで、例えば、雨雲の発生から発達までの過程を捉えた正確なゲリラ豪雨の予測ができるようになります。緊急地震速報のように、空で起きている気象状況をリアルタイムに捉え、危険が地上に到達する前に状況を知らせることで、危険に対する人々の回避行動を促し、被害の軽減に役立てることができます。

現在、全国には、国土交通省が設置している65台の気象レーダ(パラボラアンテナ)があります(2023年7月時点)。東芝は、それらの気象レーダで観測した生のデータをクラウド上に取り込み成形・加工した後、雨が降る時間を予測したり、粒子を解析して地上に雨や雪、あられ、雹のどれが降るのかを判別したり、風の渦を検出して突風を探知したりします。クラウド上でデータを成形・加工する技術には、東芝独自のノウハウが生かされています。例えば、気象レーダから取得した極座標の生データを直交座標のメッシュ状に変換したり、生データに含まれている多くのノイズなどの不要データをクレンジングしてキレイに整えたりする技術が、その後の解析や予測の精度を高める要になります(図1)。

※国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/tec/tec_fr_000040.html


気象データサービスが貢献するシーンとは


気象データサービスを利用することで、具体的にどのような効果と可能性が期待できるのでしょうか。最もイメージしやすいのは、雨による被害の軽減です。

前述したように、近年、日本では豪雨が増えています。突然発生する豪雨により、道路のアンダーパスが冠水したり河川が氾濫したりして、人命に関わる災害が起きることもあります。東芝の技術は、この先の30分間に雨雲がどのように変化していくのかを正確に予測できるものです。例えば、雨が降るのか、それも大雨なのか、あるいは晴れるのかなどを雨雲の変化とともに予測します。30分先までの豪雨がわかることで、通行止めや運行停止といった運用の判断や、屋内に退避を促すなどの避難指示が行え、人々の危険回避に役立てられるようになります(図2)。

また、雨雲の中にある成長過程の粒子を解析し、雹やあられなどのうち何が地上に降るのかを、実際に降る数十分前に判別する技術もあります。突発的な発生が多い降雹の兆候を事前に検知できることで、住宅や自動車の被害の軽減につながることが期待されます。雹は、大きいもので直径5cm以上に達する危険なものです。空から降ってくる大粒の雹によって、家の窓が割れたり、自動車の車体が傷ついたりと、大きな被害がもたらされます。事前にこれらの危険を知ることができれば、家の雨戸を閉めたり、自動車に雹災防止用のシートカバーを被せたり、さらには自動車を移動させたりするなどの、被害を軽減するための対策を打つことができます。

雪による災害への対策にも有効です。大雪が降ったときは、鉄道や道路などの交通機関が麻痺して、人々の通勤や外出に大きな影響を与えます。雪は、状態がさらさらしていたり水分量が多かったりと、雪質によって「積もりやすさ」が変わってきます。東芝の技術は、気象レーダのデータから雪質を正確に把握できるものです。この技術を活用することで、公共交通機関の運行や、融雪装置などを運用する判断、電線などの着雪量の把握による危険の検知などができるようになります。

これらのほかにも、風速計による計測からでは想定することが困難な突風の検知も可能です。例えば、突風に襲われそうな高所で働く作業員に避難を促したり、公共交通機関などに注意を喚起したりすることで、大きな事故を未然に防げるようになります。


なぜ東芝は数十分先までの天気を的確に予測できるのか


このように、さまざまなシーンで人々の危険を回避する可能性を秘めている東芝の技術について、いくつか簡単に説明します。

まずは、30分先までの降雨を高い精度で予測する技術です。ここには、気象レーダで観測した生のデータの一次処理を行う技術はもちろん、3次元のデータに合成する技術と、合成した3次元のデータを解析して上空に発生している雨水の「総量」を把握する技術があります。日本全国を250m四方で分割した各エリア(メッシュ)に対し、鉛直方向の積算雨水量(VIL:Vertically Integrated Liquid water content)、つまり上空の雨の総量の傾向を見ていきます。例えば、VILに増加の傾向が見えたら、上空に豪雨をもたらす大きな水のかたまりが成長しつつあることが分かります。ひとたび上空に大きな水のかたまりができると、それは確実に地上に落ちてくるものです。このように、地面ではなく空を見るVILを用いることで、30分先までに降る雨を的確に予測しています。

次に、雨雲の中に存在する粒子を判別する技術です。気象レーダにより発射された水平偏波と垂直偏波の電波は、雨雲によってはね返されて気象レーダに戻ってきます。東芝には、この電波の強度比や相関などの情報によって、地上に降る粒子が「雨」なのか「雪」なのか、あるいは「雹」なのかをリアルタイムに判別する技術があります。判別した粒子を高度と経度で分布すると、例えば梅雨の時期に降るシトシト雨のような一般的な層状性の雨の場合、気温の低い上空では雪や氷晶が見られ、高度が下がるにつれて気温の上昇に伴い、雪が解けてみぞれとなり、地上付近では雨になる構造がわかります。一方で、雹災が発生するような積乱雲の場合には、上空にできた雹やあられが地上付近まで落下している状況が一目でわかります(図3)。

最後に、突風を探知する技術について説明します。突風は、気象レーダにより発射された電波に生じるドップラー効果の観測によって雨雲の風の動きを把握することで、探知します。ドップラー効果には、観測点(気象レーダ)に対して、風が近づく場合には受信する周波数が高くなり、風が遠ざかる場合には受信する周波数が低くなる特徴があります。例えば、救急車が近づいてくると急にサイレンが高くなり(周波数が高くなる、波長が短くなる)、通り過ぎると音が低くなる(周波数が低くなる、波長が長くなる)現象と同様です。具体的には、竜巻のように風が渦を巻いている突風では、渦の中心を挟んで風の向きが反対方向を向くため、こうした渦のパターンを検出することで、竜巻を追尾していくことが可能となります。


地方自治体や保険会社との実証実験を通したサービスの有効性検証


気象データサービスを活用した実証実験も進めています。最初に紹介するのは、ゲリラ豪雨における水害対策として、降雨と浸水の予測の有効性を確認する実験です。これは、通信事業者および建設コンサルタントとの共同により、各社の仕組みを連動させた一体型のサービスを作りあげる取り組みです。地方自治体向けの浸水予測サービスとして、検証を行いました。

ここでは、東芝が、気象レーダで観測された生のデータを解析し、いつ・どこで・どのくらいの雨が降るのかという降雨、あるいは豪雨の兆候やその雨量を発生の30分前に予測します。この予測した情報を基に、建設コンサルタントの保有する浸水予測シミュレーション技術で、河川や内水の氾濫、道路の冠水、建物の浸水を予測します。もし大きな被害が起きると予想されるときには、通信事業者の情報配信基盤の仕組みによって、危険が迫る地域の方々に対して、浸水が予想される区域や浸水の情報を動的なハザードマップの情報にして届けます。これらの仕組みの連動により、高精度な降雨の予測に基づいた的確かつ迅速な災害対応の判断や実行、そして被害の軽減の観点などから、サービスの有効性を検証しました。

※ニュース「ゲリラ豪雨発生時の高精度かつリアルタイムな降雨・浸水予測による水害対策の有効性に関する実証実験を開始」はこちら

次の事例は、三井住友海上火災保険株式会社(以下、三井住友海上)、そしてベンチャー企業の株式会社Spectee(以下、スペクティ)と共同で実施した実証実験です。東芝の粒子を判別する技術を活用し、雹による災害(雹災)を減らすことを目指しました。その背景には、2022年に発生した大粒の降雹による局所的で大きな被害があります。三井住友海上の保険契約者などに対して、降雹やゲリラ豪雨の兆候をアラートで通知することで、自動車の移動や保護といった人々の回避行動と、それによる減災につなげられないかどうかを検証しました。

実験の流れは、まずは東芝が、気象レーダのデータから解析した粒子や雨量の情報を基に予測した降雹およびゲリラ豪雨の兆候を、実験の参加者の中から一定以上の被害のリスクが予想されるエリアにいる人に対し、アラートとしてメールで通知します。アラートが届いた人のスマートフォンの地図上には、数十分先に雹が降る可能性や、30分先まで予測した雨量が表示されます。さらにその実態として、アラートが届いた人々に対し、実際に雹などが降ったエリアで投稿されたSNSに関する情報を届けます。これは、SNSに投稿された災害情報の解析を得意とするスペクティの情報です。これらの予測と実態の情報を基に、三井住友海上が雹災アラートの有効性とシステム運用の必要性を検証しました(図4)。この検証は一定の評価を受け、本格運用が始まっています。

※ニュース「三井住友海上の保険契約者向け『雹(ひょう)災緊急アラート』に、東芝デジタルソリューションズの『降雹予測サービス』が採用」はこちら

日本では、気象業務法の規定により、いわゆる「天気予報」のような気象に関する予報の業務を行う場合には、気象庁長官の許可を必要とします。東芝デジタルソリューションズはこの許可(許可第238号)を2023年10月に取得し、私たち自身が全国を対象に気象に関する短時間の予報を発表できるようになりました

※気象庁予報業務の許可事業者一覧 (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/minkan.html

東芝には、いま空で「起きていること」とこれから空で「起きること」を広い範囲でかつ、細かいエリア単位で正確に把握できる、高度な解析と予測の技術があります。これらの技術により実現した気象データサービスで、世の中の防災や減災に貢献するとともに、社会インフラや民間企業など、さまざまな領域での活用を通じて、そこで生きる人々の平穏で豊かな生活や行動を支えていきます。気象はあらゆる事業や人々の行動に関わる要素です。気象データサービスによる「空の見える化」を、多くの企業や団体、人々に有効に活用いただき、新しい価値の創出に貢献していきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2024年6月現在のものです。
  • この記事に記載されている社名および商品名は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。

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