デジタルで豊かな社会の実現を目指す東芝デジタルソリューションズグループの
最新のデジタル技術とソリューションをお届けします。

多様な製造現場の標準化と効率化を実現する汎用パッケージ型MESソリューション

いま日本は、生産年齢人口の減少による労働力不足が大きな課題になっています。熟練した技術者の高齢化が進む製造現場においては、従来のような個人のノウハウに依存した業務の進め方からの脱却も欠かせません。こうした課題を解決するため、近年、スマートファクトリー化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の動きが世界的に加速するなど、製造業界にはさらなる進化が求められています。このような環境の中で市場競争力を高めていくためには、製造現場をデジタル化し、生産性の向上やコストの削減、品質管理の強化につながる製造実行システム(Manufacturing Execution System:MES)の導入が不可欠です。ここでは、多種多様な製品を長年にわたり生産する中で培ってきた東芝グループの製造業としての知見を生かすことで、大量生産と個別受注生産の両方への対応を可能とした「Meister MES NEO」を紹介します。


多種多様な製品を生産する現場の製造実行管理を共通化するMES


製造実行システム(Manufacturing Execution System:MES)は、簡単にいうと工場などの製造現場において、製造工程をリアルタイムで管理するシステムです。生産計画に基づく作業スケジュールの設計や現場の作業者などへの作業指示、進捗や品質の管理、設備の稼働状況の把握などを行い、製造工程全体を一元的に管理します。収集したデータを活用し、現場作業の見える化や効率化を図ることができます。

東芝デジタルソリューションズは、2003年から半導体製造業向けにMESの提供を始め、2015年にはそれを「Meister MES」として、製造業向けのソリューションのラインアップに加えました。すでに半導体や電気製品関連の製造工場に数多く採用されている実績があります。

Meister MESは、半導体や電子部品などを大量に生産する半導体製造業に特化して、機能を充実させたMESでした。そこでこの MESと、エネルギーや社会インフラなどの領域も含め、これまで東芝グループが多種多様な製品を生産する中で培ってきたものづくりの知見を基に開発したのが、「Meister MES NEO」です。データモデルを刷新して、従来の大量生産を前提とした生産方式に加えて個別受注生産にも対応できるようにしたことで、さまざまな業種における製品の生産に汎用的に利用できるMESへと進化しました。

Meister MES NEOを開発した背景には、近年のグローバル化の進展や多様化する顧客ニーズとその変化の速さ、進化する技術、さらには地球環境への対応などにより、製造現場や経営環境がより複雑化してきたことがあります。企業には、これらに即応できる製造現場や、迅速な経営判断、誤りのない意思決定などが求められています。

また、これまで現場に合わせたMESを自社で一から作る、いわゆるスクラッチ開発をしていた企業からは、個別最適化されていてシステムに柔軟性がない、中身を把握している人が限られているうえ高齢化してシステムのメンテナンスや老朽化への対応が困難、といった声を聞くことも増えてきました。さらには、製品や工程などの違いで異なる複数のMESを利用している企業からは、各MESで管理する粒度やデータの種類が異なる、 各々のMESに対してメンテナンスが必要となるなどの悩みを聞くこともあります。

※粒度:例えば、ある拠点では大まかな工程ごとの単位で管理しているのに対し、別の拠点では細かい作業者の作業単位まで管理しているといった場合に、横並びで評価することができず、課題になっています。

一般にMESは、生産する品種に特化していることが多いシステムです。これらのことからも、生産する品種、そしてその生産形態に関係なく使えることで、工場全体としてさらには会社全体として製造実行管理を共通化できるMESの実現に取り組みました。このMESにより、現場の業務プロセスの標準化とそれによる変化に強い製造現場の実現、さらにはデジタルデータを活用した迅速な経営判断を支援します。


東芝グループの知見が生きた汎用的なデータ構造が鍵!


Meister MES NEOが、大量生産と個別受注生産という異なる生産方式に対応できる大きな特長を持てた理由は、データモデルの刷新による汎用的なデータ構造の実現にあります。大量生産の場合は、部品の構成情報(Bill of Materials:BOM)や、製品を製造するために必要な工程の順序(工順)とその工程の情報(Bill of Process:BOP)といった製造に関わる情報(以下、製造情報)をあらかじめマスター化します。このマスターにある製造情報と量産計画に基づく作業指示の情報を、現場で日々、大量に発生する実績入力の業務に活用することで、現場の業務の省力化が図れると同時に、人為的なミスの削減に貢献します。

一方の個別受注生産では、カスタマイズや構成の変更に対応するために、案件ごとに異なる製造情報を扱えることが重要です。そのため、標準的な製造情報に加えて、案件ごとにも同様の情報を持てるデータ構造にしました。あらかじめ標準的な製造情報をマスターに登録しておくことで、それを基に容易に案件ごとの製造情報を定義できる工夫をしています。このように、大量生産と個別受注生産のそれぞれで利用できるデータ構造は、東芝グループが多種多様な製品を長年にわたり生産してきた中で培った知見を基に、多くの議論を重ねて共通化し、標準化して作りあげたものです。

大量生産と個別受注生産の両方に対応できることで、いわゆる「ATO(Assemble to Order)」とも呼ばれる受注組み立て生産方式に対応できます。近年の製造現場では、量産品で使う部品を事前に生産して準備し、完成品は顧客の注文を受けてから組み立てることが増えました。また、たとえ製品がリニューアルされる場合でも、リニューアル前後の製品のどちらにも使用されている部品については、事前に生産していた部品が無駄になりません。このような現場において、従来は部品の量産と完成品の組み立てでそれぞれ用意していたMESの両方に、Meister MES NEOを使うことができます。これにより、部品に関する情報と完成品に関する情報が統一されたマスターで一元的に管理できるため、製品のトレーサビリティーの実現も容易です。


豊富な機能からの柔軟な選択で、段階的な機能強化に対応


汎用的なデータ構造により大量生産と個別受注生産への対応を実現したMeister MES NEOは、国際標準モデル(ISA95、ISO22400)に準拠し、MESとして求められる機能の多くを標準で備えています(図1)。

これら豊富な機能によって、製造現場のさまざまな課題を解決します。例えば、作業スケジューリングの機能を活用し、これまで時間がかかっていた現場の段取り時間を短縮できます。これは品目やオーダー(各案件)に関する製造計画を、現場でリアルタイムかつ視覚的にガントチャートで確認できるからです。また実績データを収集する機能によって、各作業の着工や作業の開始、中断、再開、終了、完工といった実績を細かく収集します。これにより、生産ラインの進捗をリアルタイムに把握できるため、工程間での製品の滞留を防いで生産性を高められます。

ただし一般に、活用したい機能はお客さまによって異なるものです。そこで、機能の選択には柔軟性を持たせました。例えば、製造の実績や工程の進捗状況などを確認するところから始めたい場合には、「製造計画確認」「製造オーダ生成/編集」「工程進捗(予実)管理」の3つの機能を選択するなど、要件に合わせた活用ができます。また一度運用を始めた後でも、設備の稼働管理の高度化に向けて設備の稼働率の収集に関係する機能を追加したり、生産計画や在庫量の最適化を図るためにERP(Enterprise Resource Planning)など計画系のシステムと連携する機能を追加したりするなど、段階的にMESの機能を拡張していくことも可能です。スモールスタートしてお客さまのペースで機能を強化していくこと、さらには利用する機能を工場などの拠点ごとに決めることもできます(図2)。


柔軟性の高い画面アレンジと、要件定義の重要性


標準で用意した画面にも、これまでに培った知見を生かしました。豊富で多彩な標準画面は、東芝グループのベストプラクティスともいえるものです。ただし、それぞれの現場で、より使いやすい画面のレイアウトや見たいデータの追求もできるようにしました。例えば、表やグラフなどさまざまな情報の表示位置を変更できることはもちろん、項目の表示名を変更したり、不要な項目を非表示にしたり、表示する項目の順番を変えたりするなど、利用者による画面のカスタマイズが可能です。自社のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)に基づくグラフなども、お客さま自身で作成できます。

この柔軟性の高いユーザーインターフェース(UI)を実現しているのが、400社を超える導入実績のある株式会社HOIPOIのローコード開発ツール「TALON」です。TALONには、ブラウザー上で操作して画面を作成できる容易さと、変更した画面をリアルタイムに確認できるわかりやすさ、そして一覧表やフォーム、グラフ、ガントチャート、ワークフローなどの要素があらかじめ準備されているといった特長があります。フルスクラッチによる画面の開発と比べて手戻りも少なく、実際に当社において開発工数を25%ほど削減できた例もあります。

ここまで、Meister MES NEOの特徴的な部分を紹介しました。選択できる機能の多さやカスタマイズ可能な画面など、お客さまにとって自由度の高い設計となっています。この自由度の高さを生かしつつ求める効果を最大限に引き出すために重要となるのが、MESの導入にあたり行う要件定義です。要件定義の進め方も、東芝グループの知見を生かして標準化し、それを実際に東芝グループ内で活用しながら継続的に進化させています。

具体的には、まずお客さまにおける現行の業務フローを整理して共通のルールや作業手順を明確化し、それを基に標準プロセスを定義するところから始めます。ここでは、効率的な作業に向けて「業務分析テンプレート」を準備しています。例えば、工程の概況を調査するためのヒアリングシートや、工程や業務のフロー図などです。

標準プロセスを定義した後は、CRPの実施とGAPの分析です。MESの導入においては、お客さまごとに固有のカスタマイズが必要となるケースが多くあります。そのため、CRPを実施してギャップを明確化したうえで、利用する機能やカスタマイズ要件を確定します。ここでは、前述したTALONが役に立ちます。TALONの特長により、GAP分析で洗い出したギャップを基に素早く画面イメージやプロセスを改善して確認できるため、要件定義を迅速かつ効率的に進めることが可能です。

※CRP(Conference Room Pilot):システムの機能やパフォーマンスのテスト、ユーザビリティーなどを確認するための手法。Conference Room Pilotは、会議室で試みるという意味で、あらかじめ導入設計時に事前検証を行うことを指す。


ものづくりデータ統合基盤と連携し、スマートファクトリー化も可能に


要件定義の支援をはじめ、MESとして求められる機能の充実、柔軟な機能の選択とそれによる段階的な機能拡張の容易さ、多彩な画面とそのカスタマイズ性の高さ、さらには大量生産にも個別受注生産にも対応する品種や生産形態を選ばないデータ構造などの特長を持つMeister MES NEOは、さまざまな製造現場で活用しやすいMESです。ERPやスケジューラーとの連携によって、それらで作成された生産計画を基に、生産の指示やその実績の収集と管理を行います。収集したデータを用いて製造現場のリアルタイムな状況をデジタル化することで、生産量の維持や増産への対応が可能となり、効率的な業務運営と生産性の向上に貢献します。

さらに当社では、「Meister Factoryシリーズ」において、ものづくりに関わるデータを統合管理する「ものづくりデータ統合基盤」を提供しています。この統合基盤に、MESで収集したデータも集約することで、過去の実績データや、異なる工程や工場で収集したデータなども活用した現場改善、さらにはDXの要となるスマートファクトリー化に向けて支援します(図3)。

AIの活用を視野に入れ、システムの効率的な運用やデータ分析を行う仕組みなども検討中です。私たちはものづくり企業として、自分たちの製造現場に導入し、リアルに感じ、気づき、集めた知見や声をソリューションの開発に生かしています。東芝デジタルソリューションズは、これからも進化を続ける「Meister MES NEO」で、さまざまな製造現場のDXに貢献していきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2025年8月現在のものです。
  • この記事に記載されている社名および商品名は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。

>> 関連情報

関連記事