デジタルで豊かな社会の実現を目指す東芝デジタルソリューションズグループの
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物流業界はいま、荷物の小口化や多頻度化、労働力人口の減少、働き方改革、さらにはサプライチェーンの多様化の影響など、主に倉庫や輸配送の現場においてさまざまな課題に直面しています。これらの課題解決に向けて、東芝は「人と機械のベストマッチ」による物流現場の最適化を目指しています。そこでは、東芝が長年にわたり開発を続けてきたロボット技術やAI技術、そして実際に製造業としての東芝の物流の現場を支えるなかで培ってきたノウハウから生み出した倉庫管理システム(WMS)などを駆使して、人とロボットそれぞれの作業を倉庫全体で最適化する取り組みを進めています。ここでは、「倉庫自動化」について、その概要と関連するソリューションについてご紹介します。


コロナ禍でより深刻化した物流業界が抱える社会課題


近年、物流業界を取り巻く環境が大きく変化しています。新型コロナウイルス感染症の対策として外出の自粛やリモートワークの導入が推奨され、自宅で過ごす時間が増えた人々による「巣ごもり需要」が高まり、物販系の分野におけるEC(Electronic Commerce:電子商取引)市場の規模が大幅に拡大しています。この家庭や個人による需要の高まりに伴い、取り扱う荷物の小口化や、配送件数の増加(多頻度化)が著しく、物流関連企業への負荷は増大し続けています。

このような中、少子高齢化による労働力人口の減少に加え、トラックドライバーの労働時間や役割の適正化を目指す「働き方改革関連法(物流業界の2024年問題)」や「ホワイト物流」への取り組みが物流業界の全体で進められ、ドライバーの確保が困難になっています。限られた人員と急増する荷物により、日本の物流は、モノが運べなくなる「物流危機」に陥る恐れがあるともいわれています。こうした背景から、物流関連企業では、限られた人員で、いかに効率的に倉庫内での出荷作業や荷物の輸配送を行うかが、目下の課題となっています。

また、化石燃料からの脱却などによる「カーボンニュートラル」への取り組みや、輸出入を含むサプライチェーンの乱れを製造業の生産計画に影響させないようにする取り組みなどでも、物流の視点での対応は欠かせません。さらには、物流にかかるコストの問題もあります。物流関連企業では、輸送費や保管費、包装費など、さまざまなコストがかかります。その中で、6~7割を占めるのが輸送費であり、この輸送費のほとんどは人件費です。

コストの面からも輸配送の効率化は大きな課題であり、この課題を解決するために、共配(共同配送)への取り組みや車両への積載率の向上などが求められています。ただし、このような輸配送だけの取り組みではすでに限界がきていることから、輸配送と倉庫内の仕組みがシームレスに連動し、ともに効率化に向けた取り組みをすることが必要になります。倉庫側から見れば、輸配送の効率化に貢献するという視点で「倉庫業務の効率化」が求められてきているということです。

言い換えると、モノの動きを倉庫や輸配送という「点」ではなく、それらをつなぎ、さらにサービスなども含めた「線」や「面」で捉え、物流全体を最適化していく必要に迫られているのです。


段階的な開発により進化する東芝の倉庫運用管理システム


これら物流業界が抱えるさまざまな課題解決に向けて、現在、東芝では倉庫運用管理システム(WES:Warehouse Execution System)を開発しています。東芝のWESは、「在庫型倉庫の最適化」「配送・運行の最適化」「通過型倉庫の最適化」「物流データプラットフォームの連携」という4つのステップにより、進化していきます(図1)。

WESとは、倉庫で働く作業員や各種ロボットの作業計画を立て、その進捗をリアルタイムに把握しながら倉庫全体の業務を効率化するシステムおよびサービスです。また、在庫型倉庫とは、荷物を保管・管理し、要請を受けたら出荷するタイプの倉庫で、一般にDC(Distribution Center)と呼ばれます。一方、通過型倉庫とは、届いた荷物をすぐに仕分けたり積み替えたりして次の配送先に向けて出荷するような、一般にTC(Transfer Center)と呼ばれる倉庫を指します。

最初のステップの対象である在庫型倉庫には、倉庫内に保管されている荷物の中から要請のあった荷物だけを取り出すピッキングロボットや取り出した荷物を移動させる搬送ロボットなどがあります。これら各種ロボットを連携して動作させ、作業者も含めて倉庫全体で最適な運用ができるようにすることを目指しています。

2つ目のステップでは、トラックの配車や輸配送中の状態(動態)を管理するプラットフォームなどとの連携により、車両の積載率の向上やバース(倉庫や物流センターで荷物の積み降ろしをするためにトラックを駐車するスペース)でのドライバーの待機時間の短縮を視野に入れた機能が求められます。倉庫と車両の連携をスムーズにし、ドライバーの業務効率を高める取り組みです。

また3つ目のステップである通過型倉庫では、コンベアーのようなマテリアルハンドリング(マテハン)機器と仕分けする機器を連動させるような、仕分け業務の効率化が必要になります。入荷から出荷まで、倉庫から車両へと、倉庫全体でのスループットを向上する取り組みです。

そして最後のステップにおいては、ここまで対応してきた倉庫や輸配送のデータを活用し、各種倉庫内での作業と輸配送を連続した作業として最適に運用することを目指します。さらには、新しく生まれた物流に関わるデータプラットフォームなどとも連携し、倉庫内だけでなく、輸配送中のモノ(在庫)の動きも捉えた過不足のない在庫の運用、すなわち在庫最適化の実現に向けて開発を継続していきます。

これら4つのステップに欠かせない機能として、東芝のWESでは、長い間培ってきたノウハウや知見、技術をベースにした、東芝ならではの倉庫自動化に取り組んでいます。


「人と機械のベストマッチ」による倉庫自動化


倉庫の自動化を進める場合、多くの荷物を扱う巨大な倉庫に対して、自動化機械(ロボット群)を一気に導入することはまれです。一般的に、ロボットは段階的に導入されるため、その過程において、人とロボットの共同作業は避けられません。

そこで私たちは、「物流現場ノウハウ」「知能化ロボット」そして「最適化技術」の3つを掛け合わせた「人と機械のベストマッチ」による倉庫の自動化に取り組んでいます。(図2)。

まず、物流現場ノウハウです。東芝には、物流業務を支えてきた倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System)があります。WMSとは、倉庫内の在庫や業務を管理するシステムです。東芝のWMSは、製造業である東芝が培ってきた倉庫内における物流現場のノウハウをベースに開発したもので、荷物の入庫や出庫、在庫の管理に加え、各トラックが輸配送する荷物の割り付けや、トラックの入出門と荷物の積み降ろし状況の管理などが行えるソリューションです。倉庫内における在庫やトラックの状況を可視化したり分析したりして、倉庫全体の作業の進捗状況を把握できることから、作業者に対する作業指示を的確に行えるようになります。最大の特長は、トラックの出発予定時刻から逆算して、荷物の出庫とトラックへの積み込み作業を最適に計画し、作業指示を出せることです。また、分析やシミュレーション結果をもとに作業者や在庫の配置を最適化するなど、倉庫全体における作業効率の向上に貢献します。これは、倉庫管理ソリューション「LADOCsuite/WMS」として提供しています。

次の知能化ロボットは、倉庫内にあるさまざまな種類や大きさ、重さの荷物に対する、荷降ろしや搬送、ピッキングといった作業を、現場の状況に応じて「ちみつ」に行う、東芝のロボット群です。東芝には、140年にわたる「ものづくりDNA」があります。それは今も変わることなく受け継がれ、これら知能化ロボット群の開発にも生かされています。ロボット群は、倉庫制御システム(WCS:Warehouse Control System)により制御されています。WCSとは、倉庫内にある設備の制御に特化したシステムで、各ロボットに対して、リアルタイムな監視や作業の指示を行うものです。

最後に、最適化技術です。東芝には、世界で3位の特許出願件数を誇るAI技術による最適化技術と数理最適化技術があり、これらを組み合わせることで高度な最適化技術を実現します。最適化技術で、作業内容や時々刻々と変わる環境条件をもとにした作業結果を予測し、その予測結果をもとに、理想的な作業計画を導き出します。この計画をもとに作業することにより、倉庫内における作業の効率化を実現するのです。

※世界知的所有権機関 WIPO Technology Trends 2019 Artificial Intelligence

最適化技術を活用し、倉庫の現場やロボットに関する知見を取り込んだ東芝のWESが、人とロボットの作業を適切に振り分けます。人とロボットの特徴や能力を踏まえ、WESが立案した最適な作業計画をもとに、WMSが作業者へ、WCSがロボットへと作業指示を行います。これが、「人と機械のベストマッチ」による倉庫の自動化です。さらにWESは、人とロボットそれぞれの作業の進捗状況をリアルタイムに把握しながら、急に発生した作業も柔軟に作業計画に反映するなど、倉庫全体の作業の効率化に貢献します。

東芝のWESは、他社製のWMSやWCSともつなげられるものです。例えば、東芝のWESにより最適化した人の作業計画をもとに、お客さまのWMSで作業者に作業指示を行ったり、さまざまなロボットやマテハンなどをオープンなAPI(Application Programming Interface)によりWESに接続して運用したりするなど、現在、さまざまなシステムや機器との連携を検証する取り組みも進めています。


物流業界の未来を見据えた東芝の取り組み


在庫型倉庫の最適化に続けて、配送・運行や通過型倉庫の最適化、物流に関するデータプラットフォームとの連携を進めながら、東芝のWESは進化していきます。

その進化の過程において、例えば、さまざまな輸配送管理システム(TMS:Transport Management System)や運送会社のシステムなどと連携してトラックの積載率や混載率を向上させたり、輸配送された荷物の量とトラックの運行実績などのデータをもとにその時々の輸配送の需要をAIで予測したりすることで、輸配送のさらなる効率化を実現するとともに、この効率化を続けて、カーボンニュートラルへ貢献していきます。現在、当社は、ウイングアーク1st株式会社と共に、それぞれが提供するプラットフォームが持つデータやデジタルの連携による新たなビジネスの創出を目指した取り組みも進めています。

さらに、外部のプラットフォームやサービスと連携することでWESに蓄積した、生産や輸配送、在庫、通関、需要予測、生産計画、商取引などモノに関わるさまざまなデータに、東芝のAI最適化技術や数理最適化技術、さらには量子インスパイア―ド最適化ソリューション「SQBM+」を活用することで最適化した、在庫の数や輸配送の経路、勤務シフトのような、集まったデータと東芝の高度なデジタル技術により創造した新しい価値を、お客さまに提供していきます。

東芝は、これからも現場の知見と高度な技術力で進化を続ける物流関連ソリューションで、困難な課題が山積する物流業界の課題解決に継続して貢献していきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年7月現在のものです。

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