これまで企業はテクノロジーを活用することで、既存のビジネスの延長線上で競争力を拡大してきました。しかし、今後は業種に関係なく、自社のコア事業に対して抜本的な変革が求められるようになるでしょう。なぜなら、デジタル化の急速な流れが事業の変容と業界のボーダーレス化を促し、勝ち残るには持続的な新しい価値を生み出していかなくてはならない時代になってきたからです。
お客さまの変革と新たな価値の創造を目指し、東芝IoT*アーキテクチャー「SPINEX(スパインエックス)」によるデジタルトランスフォーメーションを推進してきた東芝デジタルソリューションズでは、産業用途に特化したAI*サービスの開発が急務だと判断。社会インフラや半導体、電子機器など幅広い事業領域で培ってきたデータ分析やディープラーニング技術を中核に据えながら、お客さまそれぞれの事業に対応して、データに基づいた課題解決を実現する東芝アナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」の提供を開始しました。
ここでは、デジタル化で得られたデータを分析・活用してビジネスの変革や新たな価値の創造を目指すためにSATLYSが果たす役割と可能性についてご紹介します。
* IoT:Internet of Things (モノのインターネット),AI:Artificial Intelligence(人工知能)
デジタルトランスフォーメーションは
産業領域へ
「デジタルトランスフォーメーション」は、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、2004年に提唱しました。「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念で、既にコンシューマー向けの領域ではデジタル化による変革が市場を、さらには企業と顧客との関係を大きく変えてしまったのは周知の通りです。
例えばeコマースの世界では、インターネット上ならではの品ぞろえや、顧客の購入履歴を元にしたリコメンデーションなどがあります。デジタル化で流通・販売のビジネスモデルが急速に変容する一方で、消費者はより早く、安く、簡単に、欲しい物を手に入れることができるようになりました。このような変化は、デジタルトランスフォーメーションがこれまでには考えられなかった利便性の高いライフスタイルを実現し、新しいビジネスを大きく成長させるポテンシャルを持っていることを示しています。
産業領域においても、同様の変化が起こりつつあります。製造業では、これまでコア事業は「モノを作って販売する」ことを指し、顧客や市場からの要求とも合致していました。しかし現在は、センサーやデバイスからあらゆるデータを集めて、業務の現場をクラウド上で可視化。製品の生産計画や在庫状況に合わせて業務プロセスを抜本的に改革する、あるいは全く新しいプロセスに置き換えるといったことも必要となってきました。さらには製品の保守や設備の管理、顧客のアフターサポートなど、プロセスのさまざまな局面において、データを生かして即応性やサービスレベル、コスト効率を極限まで高めることが求められ、コア事業に対する外部からの要求はますます高度化しています。
それに加えて事業の成長のためには、デジタルテクノロジーをビジネスの中に効果的に取り込み、デジタルトランスフォーメーションを実現することで、顧客の課題を継続的に解決し、長期的なエンゲージメントを築く、プロダクトライフサイクル全体を網羅した新たな価値や新たな市場の創出が急務です(図1)。
AIの産業用途の壁を乗り越える
革新的なサービスを
デジタルトランスフォーメーションの時代においては、集めたデータをどのように分析し、いかに活用できるのかが、企業の競争力の源泉となります。しかし工場やビル、社会インフラのいたるところに組み込まれた無数の機器から、膨大なデータがリアルタイムに絶え間なく発生する上、音声や映像などのデータも含め、その種類も形式も多種多様。人手だけによる分析で何らかの知見と価値を見いだすことは、もはや不可能な時代となりました。
そこで、産業領域においてAIの活用が始まり、その成果への期待が高まっています。ある調査では、国内のAI関連市場は2030年には87兆円規模、2015年比でおよそ23倍もの規模に広がり、その多くが運輸・物流、製造、社会インフラといった産業用途であると予想されました※。
※出典:
EY総合研究所株式会社,人工知能が経営にもたらす「創造」と「破壊」?市場規模は2030年に86兆9,600億円に拡大?,2015年公表
産業領域で求められるAIは、現在、先進のグローバル企業によりコンシューマー向けに提供されているAIサービスとは必須とされる条件が大きく異なります。工場における製造ラインの制御や最適化、エネルギーシステムの安定稼働、交通システムの緊急停止など、人の生命や安心、安全に直結するような産業領域のクリティカルな課題を十分に解決するために、企業それぞれの業務に沿った形で、膨大かつ多種多様なデータをどこまでも精緻にかつ高い精度で分析し学習する仕組み作りが必要です。しかし、構造化できない多様なデータの存在や、学習用の異常データの少なさ、さらには事業ごと、現場ごとに異なるデータの読み方や捉え方など、産業領域ならではの課題が壁となります。このため特徴量を自動的に抽出するというディープラーニングの利点を最大限に生かしたAIの活用にはかなりの労力と時間を要します。そこで当社が産業用途に特化した革新的なAIサービスとして開発し、2017年10月に提供を開始したのが、東芝アナリティクスAI「SATLYS」です。
お客さまの
抜本的なビジネス変革を加速
SATLYSは、エネルギーなどの社会インフラや半導体、電子機器といった東芝グループの幅広い事業領域で培ってきたディープラーニングをはじめとする機械学習の豊富なノウハウを結集。東芝IoTアーキテクチャー「SPINEX」における産業用AIの実用化に向けて、技術と経験を融合し、一貫したサービスとして体系化した、当社のAIの新たなカテゴリーです(図2)。
高度なメディアインテリジェンス技術で、人の意図や状況を理解し、人にわかりやすく伝える東芝コミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」に対し、SATLYSは従来のディープラーニングの欠点を解消する先進技術を核に、大規模な画像分類や数万次元を超えるビッグデータ解析、学習用データの自動生成など、産業用AIに必須となる技術を結集しています。お客さまそれぞれの課題に応じて、最適なAIを設計し、システム構築から運用、モデルの更新までをトータルに支援。膨大かつ多種多様なデータから業務に沿った形で有益な価値を見いだし、異常検知や故障予知、自動制御などを可能にします。幅広い現場の知見や業務知識を豊富に培ってきた東芝だからこそできる、新たな気づきによるビジネス変革を加速するAIサービスです。
SATLYSを活用すれば、産業機器や部品の製造プロセスとO&M*のプロセスを密接に連携させることで、部品の余寿命予測や、品質劣化の予兆検知に基づいた予防保全や機器の運用効率向上を支援するという、付加価値の高い事業を実現することも可能になります。また、顧客のオペレーション効率を改善し、エネルギーコストを下げ、ダウンタイムを一掃する新しいサービスも可能になります。さらに熟練者が身につけていた、経験することで培われてきた知識や技能、それをもとにした勘といった「暗黙知」を「形式知」に変換することで、熟練者への依存から脱却し、高齢化や労働力不足に対応する画期的な業務プロセスや生産プロセスが実現できるかもしれません。
*O&M:Operation & Maintenance
仮想(デジタル)空間に蓄積されたあらゆるデータをもとにシミュレーションして判断を行い、現実の世界へとフィードバックし、ビジネスを大きく変革していくSATLYS。お客さまのデジタルトランスフォーメーションを加速させながら、産業や社会の隅々に、さまざまな新しい価値を広げていきます。
※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2018年1月現在のものです。